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日本人の「勤勉さ」はどこへ行った? ~勘違いワークライフバランス

横山信弘経営コラムニスト
二宮金次郎は「ワークライフバランス」をどう受け止めているのか?(ペイレスイメージズ/アフロ)

今年も「ワークライフバランス」が大盛り上がり

2017年も「働き方改革」や「ワークライフバランス」といったキーワードが経済ニュースを彩った1年でした。

数年前までは、このようなニュースが出るたび、現場は敏感に反応していました。しかし「ワークライフバランス」の考え方を取り入れて成果を出している企業がたくさん報道されたり、いっぽうで電通過労死のような事件が社会に衝撃を与えると、「働き方改革」や「ワークライフバランス」は単なる一過性のブームでは終わらない、この考え方を取り入れないと今後は生き残っていけない、と企業側が真剣に受け止めるようになりました。

私自身も最近、「働き方改革」や「ワークライフバランス」といったテーマの講演依頼を受けることが多くなっています。

私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントです。昔から、依頼されるテーマはいつも「絶対達成」。しかし、昨今は、

「目標の絶対達成と同時に、働き方も改革する方法」

とか、

「目標を絶対達成させながら、ワークライフバランスを実現する経営」

など、混合型テーマの依頼が増えました。なかには、

「ワークライフバランスを絶対達成させる方法」

といった、「絶対達成」というフレーズを都合よくつかって依頼してくるパターンもあります。(さすがにこのようなテーマですと、私の専門分野から離れすぎるのでお断りをしていますが)

もはや「ワーク」と「ライフ」をバランスよくブレンドした日常生活を送ることは、私たち日本人にとって「幸福の条件」であるかのような風潮にさえなったと言えるでしょう。

勘違いワークライフバランスとは?

私は先述したとおり「絶対達成」のコンサルタントですから、事業の目標を達成してもいないのに「ワークライフバランス」も何もないだろう、と考えます。同じような理由で、「ワークライフバランス」という言葉に違和感を覚える経営者やマネジャーは、確実に増えていると思います。

遅刻ばかりしている社員が、「どうやったら効率よく出勤できるか」「どうしたら楽しく出勤できるか」を考えていたら、あなたはどう思いますか。非効率的であろうが、少しばかり面倒な手段であろうが、まずは「遅刻せずに出勤しなさい」「時間を守るクセをつけてから考えろ」と誰もが言いたくなります。

何事も手順が大事。結果を出すまではまず「ライフ」以前に「ワーク」に意識を集中すべきです。「ワークライフバランス経営」にしたら事業目標が達成する――という理屈は通らない。まさにこれが「勘違いワークライフバランス」です。「道徳なき経済は犯罪であり、経済なき道徳は寝言である」という二宮尊徳の名言にあるように、「寝言」を言っていていいほど経済環境は穏やかでありません。

「ワークライフバランス」を考える前に必要な性能

世の中には、100メートルを3秒台で走るスポーツカーがあります。一般道では、ほぼ必要とされていない性能にもかかわらず、一部のメーカーが競り合って開発しています。このような過剰な性能ではなくとも、危険を回避するときなどに、アクセルを踏んだら重い車体を動かす、じゅうぶんな加速性能は必要です。

ビジネスの現場でも同じ。

ふだんは「ワーク」と「ライフ」のバランスを意識して日常生活を送るべきですが、想定外のことが起こったとき――つまり、「外部環境」「内部環境」が変化したとき――ふんばる力、好きでもないことにチャレンジするストレス耐性、は必要です。

現在、かつてないほどのスピード感で「外部環境」が変化しています。これまで順調だった業績が、いつ傾くかわかりません。そんな有事でも「ワークもライフもバランスが大事」などと言ってられません。

ベテラン社員が退職したり、同僚が突然、親の介護のために勤務時間を変更したいと申し出てきたりと、「内部環境」も常に変化していきます。業務量が一定である場合、「しばらくのあいだ慣れない仕事だろうがやってほしい」と言われることもあるでしょう。しかしながら「それは私の仕事ではありません」「私はそこまでの仕事をこなすことができません」と言っていたら、会社は困ってしまいます。

想定外の事態に直面したとき、ギアチェンジできるか? 思い通りに加速できるか? その経済的、精神的余裕があるか? が問われます。

ムリをするから、ムリがきくような心身ができあがるのです。それなりの業務量をこなすから、この業務をどうしたら効率化できるのか、という工夫する知恵がついていきます。その工夫した歴史こそがその人の「付加価値」です。

経験の浅い時期から「ワークとライフのバランスが大事」と言いつづければ「馬力」のない人材になっていきます。「加速性能」が足りないので、想定外のことがあった瞬間、大きなストレスを覚えます。アクセルを少し踏んだだけで悲鳴をあげる車のようなもの。そんな性能では、いまどき買い物や子どもの送り迎えにも使えません。

日本人の付加価値は「勤勉さ」

世界に日本人が誇れる文化・慣習はたくさんあります。日本人独特の価値観もそうです。外国人を魅了する価値観のひとつに「勤勉さ」があります。「勤勉さ」とは、仕事や勉強を一所懸命やること。日本人はその一所懸命さの基準が高いのだと思います。

持って生まれた才能に頼るのではなく「勤勉」であるからこそ、日本人は創意工夫するチカラを身につけてきたのです。

したがって、日本人から「勤勉さ」をなくしてしまうと、諸外国と競り合ってはいけなくなります。私たちは(今の若者たちも)革新的なアイデア、イノベーティブな発想を許容する環境で、幼少時代を過ごしていないからです。

労働時間を減らし、日々はやく帰宅するのはよいことです。家族サービスや趣味に打ち込む時間があっていい。しかし「勤」を示す労働時間を減らしたのなら、「勉」を示す勉強時間ぐらいは増やしたほうがいいのではないか。

企業努力によって労働時間が減った。ならば、空いた時間で学習する空気・環境をもっと社会がつくりあげるべきです。異業種の人たちで集まって読書会を開いたり、週末にセミナーに足を運んだりして勉強する人を増やす。まだ経験が浅い時期に自己投資を繰り返し、自主的にバリューを高める空気を作らないと、「ワークライフバランス」という考え方が、いずれ日本経済を凋落させる間接的要因になりかねません。2018年からは、「ワーク」と「スタディ」のバランスを考える潮流があらわれてくることを願っています。

経営コラムニスト

企業の現場に入り、目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の理論を体系的に整理し、仕組みを構築した考案者として知られる。12年間で1000回以上の関連セミナーや講演、書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。NTTドコモ、ソフトバンク、サントリーなどの大企業から中小企業にいたるまで、200社以上を支援した実績を持つ。最大のメディアは「メルマガ草創花伝」。4万人超の企業経営者、管理者が購読する。「絶対達成マインドのつくり方」「絶対達成バイブル」など「絶対達成」シリーズの著者であり、著書の多くは、中国、韓国、台湾で翻訳版が発売されている。

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