減少傾向の新聞…半世紀以上にわたる雑誌や書籍などの支出金額をさぐる(2023年公開版)
世帯単位での戦後の新聞や雑誌などへの支出金額は
出版不況が声高に叫ばれているが、世帯における印刷物への支出は昔と比べてどのように変化をしているのだろうか。その実情を総務省統計局の家計調査の公開結果から確認する。
まずは年ベースでの「主要紙媒体の二人以上世帯における、1世帯あたりの支出金額」をそのままグラフ化したのが次の図(時系列的に長期データを取得できるのは二人以上世帯のみ)。
日本では1990年前後から物価は安定し、むしろ漸減する傾向がある。ここ数年で再び上昇の気配を見せている程度。それにあわせてでもないのだろうが、新聞は1990年あたりから横ばい、値上げによる一時急騰を見せるもやはり中期的には変わらず、さらには減少の傾向を見せている。雑誌はややタイミングが遅れ、2000年前後から低迷、漸減の傾向。インターネットやモバイル端末の普及時期と重なるだけに、興味深い。また、書籍は早くも1970年代後半から漸減傾向にあり、世帯単位では「書籍離れ」がこの頃から起きていたことが分かる。
さらに言えばここ数年は物価の上昇の機会があったにもかかわらず、支出金額は減少傾向を継続中。これまでの減少度合いと比べ、実質的な下げ基調は一段と加速化していることになる。
なお2019年以降において書籍が増加する動きを見せたが、これは「鬼滅の刃」など一部コミック誌の爆発的ヒットが影響した可能性がある(書籍には単行本や文庫本の他にまんが本と説明されているコミックも該当する。電子書籍は含まれない)。新型コロナウイルスの流行で在宅時間が延び、時間を費やす対象として書籍が選ばれたのも影響しているのかもしれない。
世帯人数の変化、お財布事情を加味して考察
少子化の言葉に代表されるように、世帯あたりの人数は減少する傾向にある。「世帯構成人数が減っているのだから、世帯単位の購入金額が減っても当然」とする意見も正当性がある。そこで家計調査における各年の調査母体の平均世帯人数を考慮し、月あたりかつ1人あたりの支出金額を計算したのが次のグラフ。
新聞の値は(通常世帯単位で購入するため)無意味なので除いている。グラフの形状的には大きな違いはないが、書籍が1970年代後半をピークに減少しているわけではなく、横ばいの動きを見せていること、雑誌は1990年代後半で頭打ちなのが分かる。また2019年以降の書籍の一時的な上昇の動きもはっきりとしたものとなる。
「物価は変動するのだから、金額は時代の流れとともに変わって当然。物価を勘案した上で考察すべきだ」とする意見もあるだろう。1963年の100円と、2022年の100円とでは価値が全然違うのだから。
そこで消費者物価指数の推移をかけあわせて、としたいところだが、家計調査の公開値には消費支出(世帯を維持していくために必要な支出)も併記されているので、これを活用する。こちらも物価の変化を十分反映しており、むしろ身近な感がある。すなわち、世帯単位で「家計のお財布にどれほど食い込んでいるか」の割合を計算し、グラフ化したのが次の図。
書籍は1960年代後半から1990年にかけてゆるやかに漸減した後は横ばい、金融危機ぼっ発あたりから再び漸減、ここ数年で持ち直しの気配。雑誌は1990年代後半以降横ばいだったがリーマンショック前後から減少、新聞は家計負担としては今世紀初頭までは漸増状態にあったことが分かる。出版社の売上との観点ではなく、個々の家計負担の立場から見れば、新聞は1970年代と同程度には買われていることになる(やや詭弁な感は否定しない)。
今世紀以降に限ると、新聞はやはり明らかに減少、雑誌や書籍も揃う形で漸減の感は否めない。支出シェアの観点でも、これら紙媒体のポジションは少しずつ隅に追いやられつつあるようだ。特にここ数年の新聞の凋落ぶりは著しい。
声高に語られる新聞離れ、雑誌離れなどの印刷物離れ。しかし最後のグラフにある通り、世帯における負担額で考慮すれば、書籍以外は概して十年単位の昔の基準に戻っただけであることが分かる。要は買い手のお財布事情が厳しいから割り当て比率が減ったまでの話でしかない。
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