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ハル・ベリーが3度目の離婚。すでに十分大変な懐と、今後のキャリアに与える影響は?

猿渡由紀L.A.在住映画ジャーナリスト

オスカー女優ハル・ベリー(49)と、フランス人俳優オリヴィエ・マルティネス(49)が、アメリカ時間27日、離婚を発表した。結婚期間は、2年。ふたりの間には2歳の息子がいる。マルティネスは初婚だったが、ベリーは3度目の結婚だった。さらに、ベリーは、結婚という形こそ取らなかったものの、マルティネスの前に、モデルのガブリエル・オーブリーと事実婚状態にあり、娘をもうけている。

セレブの離婚など日常茶飯事で、3度の離婚など、珍しくもなんともない。ライザ・ミネリは4度、エリザベス・テイラーは7度離婚している。しかし、ここ10年ほどキャリアが停滞気味で、過去にも自分より収入の低い男性と結婚してきたベリーの場合、この離婚は、経済的に、ひいてはキャリアに、打撃を与える可能性が強い。 

州によって法律の差はあるが、アメリカでは基本的に「慰謝料」という発想はない。どちらに非があったかに関係なく、離婚すると、収入が多いほうが少ないほうに対して払う。結婚している期間に購入した物や得た収入は、共同財産だ。そのため、セレブリティのほとんどは、結婚前に、自分より収入が低い結婚相手に対し、”prenuptial agreement“と呼ばれる婚前契約を交わして、離婚した場合の損失を最小限に抑えようとする。「離婚したとしても、これはもともと僕が持っていたものだから、君はもらえないよ」「離婚した場合、元配偶者サポートは、月々これだけの額を、この期間のみ払うから」というのを、前もって法的に明確にしておくわけである。

ベリーが野球選手デビッド・ジャスティスと最初の離婚した時、彼女はまだ無名だった。しかし、R&Bシンガーのエリック・ベネイと再婚をしたのは、彼女が出演する「X-メン」が大ヒットした翌年。結婚式の前日に、ベリーは焦って婚前契約を交わしたが、離婚時までに、ベネイの連れ子インディアと非常に親しくなっており、贅沢な生活に慣れてしまったインディアのため、400万ドルの家をベネットに買い与えた上、月々2万ドルの元配偶者サポートを払うことに同意するはめになっている。また、離婚裁判のためにベネイが払った多額の弁護士代も、ベリーが払うことになった。

2度の離婚にこりごりし、もう結婚はしないと決めたベリーは、ヴェルサーチの広告撮影で知り合ったオーブリーと、結婚しないまま娘を産む。しかし、破局に当たり、裁判所は、ベリーに対し、オーブリーに月々1万6000ドルの養育費と、過去に遡る養育費、またオーブリーが払った弁護士代を支払うよう要求。過去の養育費とオーブリーの弁護士代を合わせて、ベリーは総額30万ドルを払ったといわれる。

そこに来ての、マルティネスとの離婚だ。マルティネスは、そこそこ活躍し、知名度のある俳優だが、ピーク時にベリーがもらったようなギャラを手にしたことはない。問題は、ベリーも、もはやそんなギャラを手にしてはいないこと。ベリーが「チョコレート」でオスカー主演女優賞に輝いたのは、2002年。同年には「007/ダイ・アナザー・デイ」でボンドガールを演じ、2004年には「キャットウーマン」で1250万ドルのギャラを得た。だが、同作品は大失敗し、以後、時々「X-MEN」シリーズのアンサンブルキャストの一部として呼び戻される以外は、ヒット作にまったく恵まれていない。マルティネスとの出会いのきっかけを作った「ダーク・タイド」も、アメリカでは劇場未公開。トム・ハンクスと共演した2012年の「クラウド アトラス」も、北米興収は2700万ドルと、まるきりの空振りに終わり、昨年は、SFドラマ「エクスタント」でTVに進出したが、今月、CBSは、今シーズンをもって打ち切りを発表している。いくら近年、アメリカのテレビのクオリティがめざましく向上してきたとはいっても、トップクラスの映画スターにとって、メジャー系のテレビにレギュラー出演するというのは、できればやりたくないもの。しかし、彼女は、1話ごとに10万ドルという出演料をもらうことで、決断をした。そのギャラも、もうすぐ入ってこなくなる。

それでも、ベリーにはまだレブロンのスポークスパーソンとしての固定収入があり、総資産額は8000万ドルと推定されている。マルティネスとは婚前契約を交わしており、お金の問題で大きくもめることはなさそうだが、離婚調停はこれからで、終わってみるまでわからない。そうでなくても40歳を過ぎた女優や有色人種には役が少ないハリウッドのこと、結果次第では、これからますますベリーは、作品選びがどうのと言っていられなくなるかもしれない。しかし、お金のためにやみくもに出演してさらにキャリアを落とすのは、借金地獄にはまったニコラス・ケイジがすでに実証している。

マシュー・マコノヒーは、近年、低いギャラで立て続けに低予算のインディーズ映画に出演し、見事にキャリアの立て直しに成功した。たとえ有名俳優でも、そんな余裕はないという人は多いが、ジョン・トラボルタのキャリアが「パルプ・フィクション」で突如復活したように、ひとりの監督、ひとつの映画が、運命を大きく変えてくれることもある。俳優業には、そもそも、運が大きく関係するのだ。ハル・ベリーの場合も、もしかしたら、すぐそこに、そんな作品が待ち構えているかもしれない。

L.A.在住映画ジャーナリスト

神戸市出身。上智大学文学部新聞学科卒。女性誌編集者(映画担当)を経て渡米。L.A.をベースに、ハリウッドスター、映画監督のインタビュー記事や、撮影現場レポート記事、ハリウッド事情のコラムを、「ハーパース・バザー日本版」「週刊文春」「シュプール」「キネマ旬報」他の雑誌や新聞、Yahoo、東洋経済オンライン、文春オンライン、ぴあ、シネマトゥデイなどのウェブサイトに寄稿。米放送映画批評家協会(CCA)、米女性映画批評家サークル(WFCC)会員。映画と同じくらい、ヨガと猫を愛する。著書に「ウディ・アレン 追放」(文藝春秋社)。

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