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メイウェザーvs朝倉未来の体重制限無しルールは本当に体格で優る未来に有利なのか?

本郷陽一『RONSPO』編集長
(C)AbemaTV, Inc./RIZIN FF

総合格闘技イベント「超RIZIN」「RIZIN.38」(25日、さいたまスーパーアリーナ)の追加対戦カード発表が6日、都内で行われ、榊原信行CEO(58)がプロボクシングの元世界5階級制覇王者、フロイド・メイウェザー・ジュニア(45、米国)と総合格闘家でユーチューバーとしても272万人を超える登録数を持つ朝倉未来(30、トライフォース赤坂)のボクシングルールによる3ラウンドのエキシビションマッチが体重制限無しのフリーウエイトで行われることを明かした。一方で、グローブは8オンスでなく、10オンスとなる見込みで、こちらは、一発逆転を狙う朝倉には不利な条件。果たしてこのルールはどちらに優位に働くのか?

 ボクシングは厳格な階級制のスポーツである。なぜか。体重が上の人間の優位に運ぶという格闘技の原則があるからだ。ボクシングは喧嘩ではなくルールのあるスポーツ。実際には、前日計量後に、それぞれが自由にリカバリーをするため、当日の体重差はあるのだが、公平性と共にボクサーの健康と安全を可能な限り担保したいという背景もある。

 今回、その契約体重の“縛り“がなくなることになった。すでに朝倉が自身のユーチューブで、フリーウエイトとなることを明かしていたが、この日の囲み会見で、榊原CEOがオフィシャルなコメントとして「フリーウエイト」となることを明らかにした。

「ウエイトイン(前日計量)もない。メイウェザーは“何キロでもいい”“と」

 当初は70キロ契約で話が進み、朝倉も「70に落とすのはいいですよ」と了承していたが、メイウェザーがここにきて体重制限なしを求めてきたという。

 榊原CEOは、その理由を「メイウェザーからすると、“タイトに前日計量という形をみんなの前でとるくらいならフリーでいいんじゃないか“と。”未来が何キロでも構わないよ。勝つのはオレ。格が違うんだから平気”という感じなんだろう」と推測した。

 メイウェザーは、昨年6月に世界的に有名なユーチューバーのローガン・ポール(27、米国)と8ラウンドのボクシングルールのエキシビションマッチで対戦した際も、ローガンには、190ポンド(86.17キロ)の制限がかけられたが、彼はフリー。前日計量でメイウェザーは、70.3キロと、ボクシングで言えばスーパーウエルター(69・85)とミドル級(72.57)の間に収め、ポールは85.9キロと15キロ以上重く、ライトヘビー級(79.38)とクルーザー級(90.72)の間に相当する3階級上の相手と戦った経験がある。身長で15センチ、リーチで10センチも上回られ、ダウンは奪えなかったが、試合内容では圧倒した。

 ローガン・ポールに比べると、朝倉がたとえ何キロに増やしても「可愛いもの」とでも思っているのだろう。

 このフリーウエイトを追い風とするのはどちらなのか。

 榊原CEOは「未来にプラスとなる決定」という見解を示した。

「MMAを含めて格闘競技は、契約体重を作るのに肉体的にも精神的にも追い込む。そこから解放されるのは大きい。体格差で言うと未来が有利。そこは生かせる。未来にとってプラスになる決定」

 朝倉は榊原CEOに「勝機がだいぶ増えました」と語ったという。

 おそらくメイウェザーは、ローガン・ポール戦同様に70キロ前後でリングインすると見られる。一方の朝倉はツイッターに「体重は75くらいにしよう」と書き込んだ。75キロであればボクシングで言う「76.20キロ」リミットのスーパーミドル級に近い体重でメイウェザーとは2階級差となる。

 スーパーミドル級の4団体統一王者のサウル“”カネロ”アルバレス(メキシコ)にスーパーウェルター級の4団体統一王者のジャーメル・チャーロ(米)が挑戦しても歯が立たないだろう。だが、朝倉のボクシングスキルは、世界王者クラスには程遠い。約5キロ、2階級差のハンデは、本当に朝倉の勝機につながるのだろうか。

 とあるボクシングの元世界王者に見解を聞いてみた。

 ピックアップした朝倉の総合の試合とボクシングのミット打ちなどのユーチューブ映像を見てもらったのだが、「右のフックに威力はありそうだが、この程度のボクシング技術ではクリーンヒットは当たらない。メイウェザーのディフェンス技術をすれば、フリーウエイトとなったところで体重差は、まったく関係ないと思う。おそらくエンターテイメントとして、ガードの上からは、パンチを受けてみせるのだろうが、パンチの殺し方や流し方を熟知しているのでダメージを受けたりバランスを崩すことはまずないだろう。距離、ポジション、見切り、上体の使い方など、ボクシングのディフェンス技術の最高峰を持つメイウェザーは体重差の影響を受けないボクサーと言っていい」という見方を示した。

 この日、オンラインで会見に参加したRIZINバンタム級王者で、同日に金太郎と凱旋試合を行う堀口恭司は、展望を聞かれ、同じような意見を口にしていた。

「未来君は、様子を見ながら打っていくと思うが、速さについていかないかなと思う。防御もうまいのでガードの上からパンチは当たると思うが。もろにクリーンヒットはないと思いますね」

 朝倉は先日ハワイで行われた会見で「顔面に一撃を入れたい」と宣言した。威力のある一発に勝負をかけているようだがクリーンヒットしなければダメージブローにはならない。では、それはカウンターなのか。フェイントなのか、コンビネーションブローなのか。ゴングと同時に奇襲を仕掛けても意味はない。

 過去にマニー・パッキャオ戦でも、サウル“カネロ”アルバレス戦でも致命的な一撃を打たれたことのないディフェンスマスターが、いくら総合格闘家でボクサーとはパンチの軌道や角度、タイミングが違うといえど一発を食らうとは考え辛い。

 2017年8月にボクシングの公式戦でメイウェザーと対戦したUFCの元2階級制覇王者のコナー・マクレガー(アイルランド)も体格で上回っていたが、ガードを固めたメイウェザーに真っ向勝負を挑まれ、10回TKO負け。メイウェザーを驚かす一撃を打ち込むことができなかった。

 元世界王者は、ただひとつ体重差に利点があるとすれば耐久性の部分だという。

「フリーウエイトが急に決まっていなければ、朝倉はもっと筋肉を鎧にすることができたと思うが、体重差は耐久性のプラスにはなる。おそらくメイウェザーは、朝倉のパンチの打ち終わりに体が流れてできるスキを狙ってボディアッパーなどを打ち込んでくると思うが、通常なら効かされるパンチに体重差で耐えきる可能性がある」

 4年前にメイウェザーと対戦した天心は1ラウンドに3回ダウンを奪われてTKO負けを喫したが、これは体重差が影響していた。マクレガーがグロッキーしてTKO負けした試合も12ラウンド制の長丁場でスタミナ切れしていた。

 今回、朝倉は逆に体重差を生かせるし3ラウンド制。もしかすると屈辱的なKO負けだけは免れることができるかもしれない。

 一方で使用グローブは、当初、噂されていた8オンスではなく10オンスとなる方向。ボクシングではウエルター級以上で10オンスが使用されており、メイウェザーにとっては、通常パターン。天心戦では、体重差がありすぎるため、グローブハンディとしてメイウェザーが10オンス、天心が8オンスを使用している。

 実は、脳へ与えるダメージは、オンス数による違いはさほどないという説もあるのだが、「パンチの硬さ」を実感させる一発を狙う朝倉にとってはマイナス材料。朝倉は報道を見て「試合10オンスになったのか 出来るだけ小さいほうが良かったな」と素直にツイ―トした。

 メイウェザーは22日に来日予定。

 榊原CEOは「まず(その日程では)入らない」と笑う。

 プライベートジェットで飛んでくるのだが、8月30日にハワイのワイキキビーチで行った先日の会見も、当初は前日の10時にハワイ到着予定となっていたが、実際は、会見当日の開始1時間半前に空港に着き「肝を冷やした」と榊原CEO。その後、ホテルにチェックインしたため、急遽、会見を3部仕立てにして、メイウェザーの登場までの時間稼ぎをしたのだという。

 今回はフリーウエイトとなったため、前日計量はなくなったが、代わりに記者会見が予定されている。ゴングが鳴るまで何が起きるかわからない。

『RONSPO』編集長

サンケイスポーツの記者としてスポーツの現場を歩きアマスポーツ、プロ野球、MLBなどを担当。その後、角川書店でスポーツ雑誌「スポーツ・ヤア!」の編集長を務めた。現在は不定期のスポーツ雑誌&WEBの「論スポ」の編集長、書籍のプロデュース&編集及び、自ら書籍も執筆。著書に「実現の条件―本田圭佑のルーツとは」(東邦出版)、「白球の約束―高校野球監督となった元プロ野球選手―」(角川書店)。

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