外国の若者が憧れる日本、アニメで現実逃避 ノルウェー映画『原宿』とは
2018年11月、ノルウェーの映画館で公開された映画『ハラジュク』(原題『HARAJUKU』。
ノルウェーでは各新聞社が映画作品を評価するのがお馴染みなのだが、この映画は意外なことに、全体的に高評価を得ていた。
「『ロスト・イン・トランスレーション』(ソフィア・コッポラ監督・2003年)を思い出させる」と、私のノルウェー人の友人たちは口にしていた。
「ここではない、どこかへ」。日本のアニメやコスプレに憧れるノルウェーの若者には、オスロで毎年開催されるイベント「デスコン」で数多く出合ってきた。
別記事「アナ雪やナルトも!ノルウェーの大人気コスプレ大会に潜入」
映画の主人公の少女、15歳のヴィルデも、デスコンのようなコミュニティを好んでいたのだろうか、と鑑賞中にふと思った。
想像を裏切る、舞台は原宿とオスロ中央駅
映画は、予想とはちょっと違った。
東京・原宿がメインの舞台かと思いきや、多くのシーンはオスロ中央駅で起きる。
ノルウェーでは実はよくある、崩壊する家族、若者のメンタルヘルス、孤独についての内容となっている。
ストーリーが展開する時期はクリスマス。クリスマスといえば、現地では家族と過ごす時期だが、ヴィルデを取り巻く家庭環境は複雑だ。
クリスマスの孤独、独特な児童福祉局
日本以上にノルウェーではタブーとなっている「自殺」もテーマに含まれており、ノルウェー独自の「児童福祉局」も登場する。
「Barnevern」という児童福祉局は、日本ではあまり知られていないが、欧州ではその異常性が国際ニュースとなることも。子どもの世話をできていないとされる親から子どもを保護するのだが、他国するからすると、その引き離し方が強引すぎるようにも見えるためだ。
ノルウェーの今の社会問題を知る
物価が高いノルウェーでは、映画の製作は簡単ではない。
ヒットするか、公的補助金は出るか、同時に高いクオリティを保てるか。その結果、ホラー映画や、社会問題を扱った真面目で暗い映画が多めだ。
この作品も「社会問題とタブーをテーマ」にしたものではある。だが、日本がシーンの一部となっているノルウェー作品が、現地の大手メディアで高評価を受けるのは珍しい。
現実逃避する若者、逃げ場所はアニメ
目の前で起きているつらい事実に耐えられず、現実逃避をする時のヴィルデの頭の中は、突如アニメの世界へと移行する。
Eirik Svensson監督にメールで問い合わせ、映画についてコメントをいただいた。
映画作りのきっかけは、日本に憧れるノルウェーの若者たちとの出会い
- なぜ日本と原宿を選んだのですか?
「逃げ場所として、憧れの旅行先として、“日本へ旅する夢”は、重要な物語となっています。日本という要素がインスピレーションになったきっかけは、オスロ中央駅で時間を潰していた若者たちとの出会いなんです。彼らは日本やアニメが好きで、ファッションも特徴があり、日本語を勉強していました」
「オスロの暗い冬とは対照的な、美しいコントラストとなるのが、原宿のシーンです。私も撮影のために日本へと渡りました。原宿だけではなく、秋葉原、東京駅、渋谷の交差点などでも撮影し、素晴らしい体験となりました」
- 映画作りのために、日本のポップカルチャーのことなどをリサーチされたのですか?
「ええ、映画のためだけではなく、私自身も日本文化やポップカルチャーに大きな好奇心を抱いていました。もちろんリサーチもしましたが、一番大事なことは、ノルウェーの若者たちがファッションなどを通じて、日本をどのように解釈しているかを理解することでした」
- 日本での公開予定は?
「映画祭や何かの機会で、日本でも上映されたら、嬉しいですね。北欧から見る日本や東京がどのようなイメージなのか、興味を持ってもらえるのではないでしょうか」
北欧に住んでいれば、誰もが幸せになれるわけではない
- 北欧といえば、幸福度ランキングで上位を占めますが、作品では家庭問題や児童福祉局が強烈に描かれています。監督は、これはノルウェーでは日常的な社会問題だと捉えていますか?
「北欧では確かに、高い生活基準、しっかりとした福祉制度、男女平等制度に恵まれており、私たちは安全な国に住んでいます。それでも、ほかの国と同じように、ノルウェーでも、苦しんでいる家族や、社会の網からすり落ちる人がいます」
「家族問題、薬物、メンタルヘルス、経済的な不安……。映画を作る側として、このようなテーマを取り扱うことができたことを、光栄に思っています」
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追記(2020/1/2)
本作品はトーキョーノーザンライツフェスティバル 2020で上映予定
2月8~14日 ユーロスペース、アップリンク渋谷
Text: Asaki Abumi