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<シリア>忘れられた戦争の犠牲者、残されたIS孤児たち(写真12枚) 

玉本英子アジアプレス・映像ジャーナリスト
ロシア出身のアダム(9)と弟。父は戦死、母は空爆で死亡。(2019年:玉本撮影)

◆両親失った外国人ISの子 

シリア中部アイン・イサの郊外に広がる避難民キャンプ。戦火から逃れたり、空爆で家を失った人びと、約2万人が身を寄せる。その一角に24人の子供たちだけのテントがある。すべて外国人の孤児で、国籍は7か国に及ぶ。インドネシア、ロシア、イギリスなどからシリア入りして過激派組織「イスラム国」(IS)に加わった両親は、戦闘や爆撃で死んだ。(玉本英子/アジアプレス)

シリア、アイン・イサのキャンプの外国人IS孤児。出身国は7か国で24人に及ぶ。(2019年10月:玉本撮影)
シリア、アイン・イサのキャンプの外国人IS孤児。出身国は7か国で24人に及ぶ。(2019年10月:玉本撮影)

2019年3月、ISが南東の最終拠点バグーズを失った際、子供たちはシリア・クルド勢力の部隊に保護され、このキャンプに送られてきた。

アダムくん(9歳)はロシアの出身。戦闘員だった父は戦死。バグーズで母と弟と一緒にいたところに爆撃があり、アダムくんは2人の弟とともに爆弾片で負傷した。いまも頭部に傷跡が残る。

「空から爆弾が落ちて、吹き飛ばされた。気がついたらお母さんは血だらけで、頭の半分がなくなっていた」。そう言って、うるんだ涙を拭った。

子供たちの世話をしている女性、スアド・ムハンマドさん(20歳)はデリゾールからの避難民だ。どの子も最初は話すらしなかったが、少しずつ心を開いてくれるようになったという。

「戦争孤児と“ISの子供“という2つの悲しみを背負っているこの子たちに誰かが寄り添わなければ、心が壊れたままになってしまう」。

子供たちが親に連れられシリアに来たのは、ISが台頭して外国人を大量に呼び寄せていた4~5年前。幼い頃に来たため、母国語ができない子もいる。IS孤児をどう扱うか、キャンプ当局の方針が決まらず、学校には通っていなかった。

エジプト出身のアブドラ(13)も両親が死亡。少年戦闘員の訓練を受けたが、実戦参加前に保護された。空爆で右腕を負傷した。(2019年10月:アジアプレス撮影)
エジプト出身のアブドラ(13)も両親が死亡。少年戦闘員の訓練を受けたが、実戦参加前に保護された。空爆で右腕を負傷した。(2019年10月:アジアプレス撮影)

エジプト人のアブドラくん(13歳)は、空爆で負傷し、右手には大きな傷跡が残っていた。銃の種類や装甲車の名前をたくさん言えるよ、と自慢げに話す。軍事訓練を受けたが、実戦に参加する前にISが崩壊した。「戦闘で死ねば殉教者となり、天国に行ける」と教え込まれた。父は目の前で撃たれて死んだという。

「たくさんの血と死体を見た。最初は怖かったけど、だんだん何とも思わないようになった」。ISの過激教育は幼い心をゆがませた。

ロンドンから来たと話すアミラ(10・中央)と弟と妹。バングラデシュ系移民と思われる。両親と弟2人が死亡。(2019年10月:アジアプレス撮影)
ロンドンから来たと話すアミラ(10・中央)と弟と妹。バングラデシュ系移民と思われる。両親と弟2人が死亡。(2019年10月:アジアプレス撮影)

ロンドンから来たと話すアミラ・ハフサさん(10歳)はイギリス英語を話した。5人きょうだいで、弟2人は爆撃で死んだ。両親はおそらくバングラデシュ系移民と思われるが、パスポートがなく、何もわからない。「ロンドンで、家族でスーパーに買い物に出かけたのが一番楽しかった思い出。あの日に戻りたい」と、小さな声で話した。

◆身元不明で出身国引き取らず 

ISには世界各地からのべ数万もの外国人が加わった。だがシリアで拘束されたIS戦闘員を引き取ろうとする出身国はほとんどない。一部の国は、妻子のみに限って帰還手続きを始めた。一方、孤児は身元の証明ができず、出身国から見捨てられた存在となっていた。のちに子供たちはラッカに送られ、ようやくNGO団体が支援することが決まった。

ISの子として育てられ、米軍の空爆で親を失い、行き場をなくした孤児たち。かれらも戦争の犠牲者だ。

ISは少年たちを戦闘員に養成しようとし、宗教教育や軍事訓練を受けさせた。(2016年・IS映像)
ISは少年たちを戦闘員に養成しようとし、宗教教育や軍事訓練を受けさせた。(2016年・IS映像)
「カリフ国(=イスラム国)の若獅子」として軍事訓練を受ける子供たち。敵勢力の捕虜を殺害させられたほか、戦闘に駆り出された少年もいた。(2016年・IS映像)
「カリフ国(=イスラム国)の若獅子」として軍事訓練を受ける子供たち。敵勢力の捕虜を殺害させられたほか、戦闘に駆り出された少年もいた。(2016年・IS映像)
シリア入りした外国人の子供はIS宣伝映像に登場。この映像ではインドネシアとマレーシアのパスポートを燃やし、「この地で戦う」と決意を語る。(2016年・IS映像)
シリア入りした外国人の子供はIS宣伝映像に登場。この映像ではインドネシアとマレーシアのパスポートを燃やし、「この地で戦う」と決意を語る。(2016年・IS映像)
今年3月のバグーズでのIS戦闘員と家族。女性や子供の姿も。民主軍の投降呼びかけを拒否し、米軍の激しい空爆で犠牲者もあいついだ。(2019年3月・IS映像)
今年3月のバグーズでのIS戦闘員と家族。女性や子供の姿も。民主軍の投降呼びかけを拒否し、米軍の激しい空爆で犠牲者もあいついだ。(2019年3月・IS映像)
バグーズの最終拠点からISが発信した映像。手前には、少年とみられる戦闘員の姿も見える。(2019年3月・IS映像)
バグーズの最終拠点からISが発信した映像。手前には、少年とみられる戦闘員の姿も見える。(2019年3月・IS映像)
シリア民主軍に拘束、保護されるIS家族。後ろはユーフラテス川。IS信奉者もいれば、夫についてきただけという妻も。(2019年・YPJ映像)
シリア民主軍に拘束、保護されるIS家族。後ろはユーフラテス川。IS信奉者もいれば、夫についてきただけという妻も。(2019年・YPJ映像)
キャンプに移送されるIS家族。IS妻や子供を受け入れ始めた出身国もあるが、身元を証明できないIS孤児たちは行き場がない状態だった。(2019年・YPJ映像)
キャンプに移送されるIS家族。IS妻や子供を受け入れ始めた出身国もあるが、身元を証明できないIS孤児たちは行き場がない状態だった。(2019年・YPJ映像)
IS孤児たちがいたキャンプ。世話をする女性らもデリゾールなどからの避難民だった。子供たちは心に深い傷を負っているという。(2019年10月:アジアプレス撮影)
IS孤児たちがいたキャンプ。世話をする女性らもデリゾールなどからの避難民だった。子供たちは心に深い傷を負っているという。(2019年10月:アジアプレス撮影)

(※本稿は毎日新聞大阪版の連載「漆黒を照らす」2019年12月10日付記事に加筆したものです)

アジアプレス・映像ジャーナリスト

東京生まれ。デザイン事務所勤務をへて94年よりアジアプレス所属。中東地域を中心に取材。アフガニスタンではタリバン政権下で公開銃殺刑を受けた女性を追い、04年ドキュメンタリー映画「ザルミーナ・公開処刑されたアフガニスタン女性」監督。イラク・シリア取材では、NEWS23(TBS)、報道ステーション(テレビ朝日)、報道特集(TBS)、テレメンタリー(朝日放送)などで報告。「戦火に苦しむ女性や子どもの視点に立った一貫した姿勢」が評価され、第54回ギャラクシー賞報道活動部門優秀賞。「ヤズディ教徒をはじめとするイラク・シリア報告」で第26回坂田記念ジャーナリズム賞特別賞。各地で平和を伝える講演会を続ける。

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