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文豪ユーゴーの伝説作の実写化でAKB48・下尾みうが主演「昔の映画のお姫様をイメージしました」

斉藤貴志芸能ライター/編集者
映画『美男ペコパンと悪魔』より

『レ・ミゼラブル』や『ノートルダムの鐘』で知られるフランスの文豪、ヴィクトル・ユーゴーのダークファンタジーを、180年を経て映画化した『美男ペコパンと悪魔』が公開される。AKB48の下尾みうが、現代の日本の高校生と18世紀のヨーロッパの城主の娘の一人二役でW主演。グループでも有数のダンススキルを持ちつつ、もともと女優を志していたという。アイドル活動の一方で、8年越しに念願を叶えるまでの軌跡を聞いた。

いろいろなジャンルの映画を観てます

――映画は自分ではよく観ますか?

下尾 好きです。『コンフィデンスマンJP』のシリーズとか『溺れるナイフ』とか、邦画が中心でしたけど、洋画も観てみようと思って。『ウエスト・サイド・ストーリー』は面白かったです。いろいろなジャンルを観ている感じです。

――いいなと思う女優さんもいますか?

下尾 長澤まさみさんは『コンフィデンスマンJP』で楽しかったですし、清野菜名さんはアクションもできてすごいですね。先輩の川栄李奈さんもAKB48の『マジすか学園』の頃から好きで、『僕たちがやりました』も観てました。

――『ごめんね青春!』なんかも?

下尾 そう、最近また観返して良かったです。『ごめんね青春!』だと満島ひかりさんの演技もいいなと思っていて。『カルテット』とか他の作品もよく観ています。

女優になりたくてAKB48に入りました

――自分でも演技をやりたいと、早くから思っていたんですか?

下尾 はい。もともとAKB48に入ったのも、女優になりたかったからなんです。歌や踊りも好きでしたけど、きっかけはそっちでした。

――みうさんがAKB48に入ったのは、中1のときでした。

下尾 その頃は武井咲さんみたいになりたくて。『アスコーマーチ』とか武井さんのドラマを片っ端から観ていました。ずっと好きな女優さんです。

――AKB48で活動しながら、最初は短編映画に出て、舞台出演が続きました。

下尾 舞台は緊張しましたけど、失敗してもめげないという、メンタルを鍛えられました。あと、演出家さんが見せたいのはこういうものかなと、考えられるようになれた気がします。最初は「できない! どうしよう?」ということが多かったのが、「こう言われたから、私はこうすればいいのか」と意向を汲み取れるようになりました。

(C)2023映画「美男ペコパンと悪魔」製作委員会(ヴィクトル=マリー・ユーゴー著)
(C)2023映画「美男ペコパンと悪魔」製作委員会(ヴィクトル=マリー・ユーゴー著)

台詞を削られたときは本当に悔しくて

――いざ演技をしてみたら、壁に当たったようなことはありませんでした?

下尾 私の滑舌が悪くて、台詞を削られたことあります。そのときは本当に悔しくて、台詞があることのありがたみもすごく感じました。

――壁を乗り越えたこともあったんですよね?

下尾 今年1月の『ジョン マイ ラブ』という舞台はそうでした。稽古期間があまり設けられてなくて、自主練が基本でしたけど、昔の私だったら、ちゃんとできてなかったと思います。

――ジョン万次郎の妻役でしたが、どんな課題があったんですか?

下尾 ミュージカルだったので歌が課題でしたけど、自分で成長を感じたのは普通の演技でした。今までは必死に演じようとしていたのが、考えるより前に、自然に役の感情が湧き出てきて。その変化は嬉しかったです。

中世の役のために糸紡ぎを習いに行きました

――演技の面白さややり甲斐も感じていますか?

下尾 レッスンで先生に「なんで演技をするの?」と質問されたことがあって。私は普通に「他の人の人生を楽しみたいからじゃないですか? 人間は欲張りなので」と答えたら、先生は「そうだと思うけど、よりリアリティを追求するのがプロの役者」とおっしゃったんです。そのために一番大切なのが想像力で、考えて役を作っていく過程が楽しいのかもしれません。

――いわゆる役作りが醍醐味だと。

下尾 舞台からファンになってくださる方もいて、「感動した」「元気になった」と言われると「やって良かったな」と思います。でも、ひと言しゃべるだけで響く役者さんもいますよね。どんな努力をしたら、そこまで行けるのか。奥が深いですね。

――映画『美男ペコパンと悪魔』では、舞台と違う感覚もありました?

下尾 鍛えられ方が全然違うと思いました。舞台は稽古期間に「ここはこうしてほしい」とたくさん言われて、本番までに近づけるように直していきますけど、映像だとその期間がなくて。シーンごとに自分で準備したものを現場で見せて、演出を受けるので、難しさを感じながら、できる限りのことをしようと思いました。

――どんな準備をしたんですか?

下尾 演じる役がいつも本を読んでいる女の子だったから、自分も本を持ち歩いて読んだり、中世の人がやっている糸紡ぎを習いに行ったりしました。

自分では一人四役のつもりで演じ分けてます

現代の日本と中世のヨーロッパが交錯する映画『美男ペコパンと悪魔』。交際中の高校生、隼人(阿久津仁愛)と亜美(下尾)は些細なことで喧嘩したあと、隼人が交通事故に遭い意識不明に。憔悴する亜美は、隼人のカバンに入っていたヴィクトル・ユーゴーの『美男ペコパンと悪魔』を読み始める。ゾンネック城主のペコパン(阿久津=二役)はファルケンブルク城主の娘、ボールドゥール(下尾=二役)と婚約。婚礼を3日後に控え、ペコパンは狩りの腕前を宮中伯に認められ、世界中を旅することに……。

――ヴィクトル・ユーゴーのことは知ってましたか?

下尾 『レ・ミゼラブル』で知ってるくらいでした。いろいろ調べて、今回の原作も読んだら、バッドエンドなんですよね。でも、映画ではひと味変わっているので、楽しみにしてもらいたいです。

――台本を読んで、演じ甲斐は感じました?

下尾 二役あるので、すごく感じました。自分の中では四役だと思って、演じ分けました。どれとどれで四役なのかは、作品を観て探していただければ。

――演じ方も舞台とは違いました?

下尾 舞台では会場の奥まで届くように、大きい声を出さないといけないけど、映像だと病院とか川辺とか、いろいろなシーンがあって。人は場所によって自然に声を変えますけど、演技になると、それができなくて。

――無意識にしていることが、意識するとできないと。

下尾 そうなんです。「声が大きすぎる」と言われて小さくしたら、「それだと小さすぎる」と言われて(笑)、どの大きさで出せばいいんだろうと。その調整は課題でした。

普段言わない言葉を何回も練習しました

――二役のうち、高校生の亜美は自然体でした?

下尾 はい。できるだけ、自分のまんまでやりました。

――隼人とのデートシーンは、リアルなカップル感がありました。

下尾 2人のシーンは、監督に「普段話している感じで」と言われて、アドリブも入れています。完成して観たら、アドリブがごはんの話ばかりでビックリしました(笑)。

――待ち合わせより前に来ていた隼人に「私に会いたくて気持ちが急いたか」と言ったのは?

下尾 あれは台詞です。「急いたか」なんて普段言わないので、何回も練習もしました。亜美は本をたくさん読んでいるから、難しい言葉を使うのかなと思っていました。

――なるほど。ベンチに手を繋いで座って、一緒に音楽を聴いているところは、女子としては憧れのシチュエーションですか?

下尾 憧れより、普通に考えたら頭をぶつけますよね(笑)。見せ方を考えました。

――テレることはなく?

下尾 いえ、テレました(笑)。だから、できるだけ無の感情になって「私は亜美!」という。でも、亜美としては不意に来た……って感じでしたね。

――一方、待ちぼうけを食らって、ムスッとしたりもしてました。

下尾 そこは私もああなると思います(笑)。友だちに待たされても怒らないし、デートはしたことがないからわかりませんけど、LINEで何回も「スケジュールごめん」と言われると、だんだん絵文字がなくなって「わかった」だけになっていきます(笑)。

背景を想像して演じるのが楽しかったです

――先ほど出た想像ということだと、亜美についてはどう考えました?

下尾 教室では隅で本を読んでいるような、静かな女の子だと思いました。それが隼人と出会って、世界が広がっていくんだろうなと。だから、隼人といるときはすごく明るくて……と解釈しました。亜美もボールドゥールも、あまり台本で背景が出てなかった分、いろいろ考えて演じられたのが楽しかったです。

――想像のし甲斐があったと。

下尾 待たされて怒っているシーンも、「何回くらい電話を掛けたんだろう?」「隼人はどれくらい亜美をこういう気持ちにさせたんだろう?」とか。それで台詞も変わってくると思うんです。

――漠然と怒っているわけでなくて。

下尾 過去にもこういうことがあって「何回目だよ!」みたいな。私だったら、1回で無理ですね(笑)。亜美はなんだかんだ待ってるので、すごいと思います。

――みうさんは本はよく読むんですか?

下尾 私も本は好きで、部屋の本棚に並んでいます。ファンタジー小説ばかり読んでましたけど、最近、エッセイにハマり始めていて。古家正亨さんの『K-POPバックステージパス』を読んだら面白くて、他にも読んでみようかなと。あと、『君の膵臓をたべたい』の住野よるさんの小説が好きだったり、韓国の作家さんの日本語訳も読んでいます。

お姫様としてわきまえて15歳なのに懐が深くて

――ボールドゥールのほうは、やっぱりお姫様感がキモでした?

下尾 そうですね。古風な女の子をイメージしました。お姫様としてわきまえていて、本当に懐が深くて。だって、15歳ですよ(笑)。それで婚約したペコパンが旅から帰るのを待てるなんて、大人だなーと思っていました。

――お姫様ぶりを体現するために意識したことは?

下尾 『ローマの休日』のオードリー・ヘップバーンさんとか、海外の昔の映画に出てくるお姫様をイメージしました。手を振るときはこうなんだ、とか。でも、ボールドゥールは15歳なので子どもの心も忘れず、おしとやかに演じました。

――ペコパンにプロポーズされたときは、跪いて指輪をはめられて、手の甲にキスされました。

下尾 現代だったらないですね(笑)。昔の、しかも海外ならでは。日本人はシャイだからやらないと思います。

――演技とはいえ、気分が良いものだったりは?

下尾 恥ずかしかったかもしれません。やっぱり私は生粋の日本人だなと思いました(笑)。

1日に3回の泣くシーンは大変でした

――亜美のほうは涙のシーンもありました。

下尾 そういうシーンは全部、初日に撮りました。病室のシーン、制服のシーン……。雨の中で傘を差しているシーンは、本当の雨が降ってミラクルでしたけど、1日に3回泣かないといけないのは大変でした。

――感情を作るための時間が必要だったり?

下尾 1回取りました。隼人のお母さんと話すシーンで、お母さんの寄り、私の寄り、引きと10何回もやったんですね。しかも、私の寄りは最後。お母さんの寄りのところで、自然と感情が入って泣いてしまったりもして。自分の寄りの前に「ちょっと待ってください」って、また涙が出るようにバーッと集中して撮り直しました。

――涙が出るくらいの感情にはなっていたんですね。

下尾 ずっとそういう台詞を言ってたら、感情は入ってくるものだと、勉強になりました。

――普段も感情の起伏は大きいほうですか?

下尾 年々、喜怒哀楽が現れるようになってきてます。涙もそんなに流すほうではなかったのが、演技を始めてから、プライベートでもすぐ泣いちゃうようになってきて。

――殻が破れてきたんでしょうね。最近だと、どんなことで涙しました?

下尾 メンバーの大西桃香ちゃんの出た舞台が面白くて、「また観に行く」って話になったんです。そしたら稽古の映像を少し見せてくれて、それで泣いちゃいました(笑)。私は涙もろいなと思いましたね。

ひと言だけでもどう話すか悩みました

――難しい演出もありましたか?

下尾 亜美が隼人の病室で読んでいた本を閉じて、ひと言話すシーンが5回くらいあったんですけど、それが毎回難しかったです。本の中のペコパンのシーンは観てなかったので、ストーリーは知っていても、映像がどうなっているのかわからなくて。その状態で、監督のイメージをできるだけ汲み取って話さないといけなかったから、ひと言だけでも悩んでいました。

――ペコパンと他の女性のシーンのあとのつぶやきとかですね。

下尾 あれも撮っていたときは、「なんでこうなるんだろう?」と腑に落ちてない中で言いましたけど、完成して観たら、すごくハマっていて。「監督はこれを求めていたんだ!」とビックリしました。

――本当に、みうさんのひと言が効いていました。

下尾 そうだったら良かったです。やっぱり、ひと言でも大事ですから。

女優はかわいさを取っ払わないといけなくて

――主演映画を撮って、演技への意欲はさらに高まった感じですか?

下尾 そうですね。最初にお話しした通り、女優になりたくてAKB48に入って、8年目でようやく映画の仕事ができるようになってきたので。これからももっと演技をやっていきたいです。

――夢が広がりますね。

下尾 やりたいことは増えていく一方です。バタバタしそうですけど、自分が好きなことなので。楽しむことを忘れずにできたらいいなと思います。

――アイドルと女優は繋がっていると思いますか?

下尾 努力する姿勢は変わらないと思いますけど、鍛えるところはやっぱり違いますね。あと、アイドルはかわいく見せることが大事で、女優はかわいさを取っ払わないといけないので。

――むしろ、泥臭いところを見せないといけないこともあったり。

下尾 だから、まったく違うものではあって、両立するのは難しいことだと思いますけど、AKB48の先輩方はやってこられたので。私も両立できるようになりたいです。

体作りから継続できるように頑張ります

――4月で22歳になって、ちょうど新年度とも重なりますが、飛躍の1年になりそうですね。

下尾 去年、私はステージが好きだなと、より感じました。ライブでも舞台でも、できる限りたくさん立ちたいと思っています。納得のいく表現をお見せするためには、普段から積み重ねないといけないことがたくさんあるので、継続して頑張りたいです。

――どんなことを継続していこうと?

下尾 もともと継続することが苦手なんです。今まで続けられたのは、小学校のとき、自習ノートを毎日1~2ページやったくらい。今は体作りに気をつけ始めていて、1年くらいは継続させたいと思っているところです。

――運動をしているんですか?

下尾 運動をしたり、体をできるだけ良い状態に保てるようにしていて。あと、大学卒業も目標で、移動中にレポートを書いたりしています。それから、AKB48で選抜復帰もしたいです。やらないといけないことがいっぱいありますね(笑)。

――息抜きも必要になるのでは?

下尾 島に行きたいです。瀬戸内海にある直島とか祝島とか、行ったことがないので。

――やることがいっぱいありますね。

下尾 本当に1年を充実させたいと思います。

Profile

下尾みう(したお・みう)

2001年4月3日生まれ、山口県出身。

2014年に「AKB48 Team 8 全国一斉オーディション」で山口県代表に合格。短編映画『父と娘で奏でる奇跡の唄声』、舞台『フェイクニュース』、『ネオンキッズ』、『ジョン マイ ラブ 2023-ジョン万次郎と鉄の7年-』などに出演。主演映画『美男ペコパンと悪魔』が6月2日より公開。

『美男ペコパンと悪魔』

原作/ヴィクトル=マリー・ユーゴー 監督・脚本/松田圭太

出演/阿久津仁愛、下尾みう、岡崎二朗、堀田眞三、吉田メタルほか

6月2日よりシネ・リーブル池袋、シネ・リーブル梅田ほか全国順次公開

公式HP

(C)2023映画「美男ペコパンと悪魔」製作委員会(ヴィクトル=マリー・ユーゴー著)
(C)2023映画「美男ペコパンと悪魔」製作委員会(ヴィクトル=マリー・ユーゴー著)

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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