RIZINで快勝のRENA「最後の敗戦」とは?
“関節技地獄”を脱し、得意の打撃で圧倒
4月16日、神奈川・横浜アリーナで総合格闘技(MMAイベント『RIZIN2017 in YOKOHAMA-SAKURA-』が開催され、今やRIZIN(ライジン)のエースの一人となったRENA(レーナ=25)がハンガリーの寝技師ドーラ・ペリエシュ(27)と対戦。しょっぱな腕十字の態勢に入られ、ヒヤリとさせる場面もあったが、得意の三日月蹴りで形勢逆転、最後は左ボディで相手の戦意を完全に奪い、1ラウンド2分49秒、KO勝利を収めMMA4連勝と連勝記録を伸ばした。
今大会では全11試合中4試合が女子のワンマッチだった。女子のトリを飾るにふさわしい快勝劇はもちろんインパクト大だったが、RENAの試合で個人的にもうひとつ印象に残ったのは、試合前に会場内で流れるVTRの「7年無敗」の言葉だった。「あれからもうそんなに経つのか」と素直に驚いた。と同時に、「あの時期がなかったら、今のRENAはどうなっていたのか」と、ついつい勝手に想像の羽を広げてしまった。
RENAの前に立ちはだかった“天才少女”
「あの時期」とは、2011年のほぼ1年間のことだ。
2009年、2010年と、ホームリングのシュートボクシングで女子トーナメントを制し、快進撃をスタートさせるはずのこの年、RENAは20歳にして最大の挫折と屈辱を味わうこととなったのだ。
不調はまず「怪我」という形でRENAの身に忍び寄ってきた。10年夏のトーナメントで優勝を果たしたものの、代償として眼窩骨折を負い、長期欠場をよぎなくされてしまう。
ようやく復帰を果たすはずの11年4月大会だったが、3.11の東日本大震災により対戦相手の外国人選手が出場をキャンセル。急きょ、神村エリカとのエキシビションマッチに変更された。
当時18歳の神村エリカは、強烈すぎる左フックと左ミドルを武器に、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いで快進撃を続けていた。“天才少女”の名を欲しいままにし、日本史上最強の女子格闘家との声さえ上がるほどだった。
その神村とのエキシビションで、RENAはダウンを奪われるなどいいところなく終わってしまう。さらに2ヵ月後の6月、当時のシュートボクシング内でのライバル、高橋藍に敗れ、「私のために復活したベルト、私が巻くべきベルト」とRENA自身が最大の目標にしていたSBレディース王座のベルトは、高橋の腰に巻かれることとなった。
「最後の敗戦」直後、最大の逆転劇が待っていた
8月の出直し戦で勝利を収めたRENAに、過去最高のチャンスが舞い込む。それが11月、神村エリカとの一戦だった。どん底から這い上がるには勝利しかない。その覚悟は、だが無情にも空回りしてしまう。9月10日、壮行試合として行なわれたイタリア人MMAファイター、ジェシカ・ペネとの一戦で、RENAは再延長(3分3R+2R)の末、判定負けを喫してしまうのだ。
ジェシカ・ペネはこのあと、UFCのタイトルマッチにも出場するなど世界トップクラスの実力を証明していくことになるが、この時点では「RENAがまた黒星。神村戦を前に痛すぎるつまずき」という周囲の評がほとんどだった。
「20歳のRENA対18歳の神村エリカ」の一戦は、個人の闘いを超えて2人が所属する「シュートボクシング対RISE(ライズ)」という団体の威信をかけた闘いの様相も呈していた。
重い看板を引き受けたRENAは、地元の大阪から上京。シーザー武志会長率いる東京・浅草のシーザージムで1ヵ月の長期合宿を張り、心身両面を徹底的に鍛えた。その必死さに心動かされたシーザー会長以下、シーザージム勢も「神村封じ」の戦略を練り上げた。
こうして迎えた11月23日。
敵地であるRISEのリングに乗り込んだRENAは、プロデビュー以来24戦23勝(12KO)1敗と破壊的な強さを誇る神村の攻撃を封じ、焦りを誘い、大方の予想を覆す勝利をもぎ取ってみせた。
そして試合後、リング上のマイクで「私が女子最強です!」と高らかに宣言。それまでの「ビジュアル先行型」との声を自らの戦いでねじ伏せた上で、現在まで続く連勝街道へと歩み出していく。
どん底のあの時期、「引退すべきかどうか悩み抜いた」という。だが、そのときでさえ「女子格闘技が盛り上がるようにということしか考えられない」と語っていた。
2011年の神村戦勝利以降、2012年=3勝、2013年=4勝、2014年=5勝、2015年立ち技2勝、MMA1勝、2016年立ち技2勝、MMA2勝、そして2017年、今回の勝利と、競技を股にかけて21戦負けなし。
白星を積み上げるたびに、両肩に背負うものは所属団体のシュートボクシングから女子格闘技界、さらに男女を超えた格闘技界へとその重さを増していった。だが、今のRENAは重さに押しつぶされるどころか、さらに高く跳ねようとしている。
その“バネ”の役割を果たしているのは、自分自身への不信や失望、悔しさと逃げずに闘った、あの「最後の敗戦」までの一時期だったのではないかと、勝手に想像してしまうのだ。
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