Yahoo!ニュース

『M-1』史上唯一の完全優勝・チュートリアル、『THE MANZAI』の「直孫ネタ」で見せたすごさ

田辺ユウキ芸能ライター
チュートリアルの徳井義実(写真:つのだよしお/アフロ)

12月8日に放送されたお笑い番組『THE MANZAI 2024』(フジテレビ系)でチュートリアルが披露した漫才が大きな話題を集めた。

同番組は、漫才王者が集結する年に1度の特番。2006年の『M-1グランプリ』チャンピオンであるチュートリアルは、49歳独身の徳井義実が「孫が欲しい」と言い出し、6歳の息子を持つ相方・福田充徳を養子に迎えれば孫もできると提案するネタを披露した。徳井義実は、結婚・出産・育児の過程を省いて孫がすぐ得られるこの案を「直孫(ちょくまご)」と表現。さらにそうなれば、今後は福田充徳と「親子漫才にもなる」とどんどん妄想を膨らませていった。

SNSでもチュートリアルの漫才は評判となり、「チュートリアルの漫才」はエンターテインメントのトレンド入り、「直孫」などの関連ワードもタイムラインを賑わせた。そんなチュートリアルは6年ぶりの『THE MANZAI 2024』への出演。現在も劇場の舞台には立ち続けているが、テレビで二人の漫才を見かける機会が少なくなっていたことから、「久しぶりに見たチュートリアルの漫才が相変わらずの妄想暴走漫才でおもしろかったー!」「すんごい久しぶりにチュートリアルの漫才見たけど全盛期かな?ってくらいおもしろかった」といった感想が多く見られた。

「妄想」と呼ばれる漫才スタイルから感じられる説得力の理由

興味深かったのは、徳井義実が独身である事実に触れ、自分が少子高齢化の原因であるなどと語ったところ。12月5日放送のバラエティ番組『トークィーンズ』(フジテレビ系)に出演した際も、結婚願望について「ないです」としながら、「イチ人間として(結婚)した方がいいなっていう。夫婦、家族を形成した方がいいなっていう思いがある」と明かし、また結婚に対する焦りも「さすがにある」「世間様とどんどんズレるなっていうのが」といろんな葛藤があると語っていた。

また2019年1月14日放送のバラエティ番組『BSテレ東4K放送スタート記念 世界遺産で結婚しよう!』(BSテレ東)のインタビューでは、「独身生活の何かが失われてしまうというか。それこそ自由気ままに43年も生きてきたので、その気ままさが失われるのがこわいのかな〜って」と、独身を選択し続けている理由を口にしていた(出典:テレ東プラス 2019/1/14(月))。

『THE MANZAI』のネタ「孫」は、「妄想漫才」ではある。ただ、根底に徳井義実の「49歳独身」というリアルがあるため、福田充徳を養子に迎えること、そして「直孫」への異様な執着がより狂気的に伝わってきた。そんな徳井義実は雑誌『Number』(文藝春秋)2022年12月22日発売号のなかで、自分たちのスタイルが「妄想漫才」と呼ばれることについてこのように語っている。

「妄想って呼ばれますけど、僕にとっては日常であって一度も妄想って思ったことがないんです」。

たとえばチュートリアルに「バーベキュー」という代表的ネタがある。「バーベキューに行きたい」との福田充徳の発言に食いついた徳井義実は、串に刺すバーベキューの具材の順番を妄想し、「おおっ、ええやないか」と絶頂感を得ていき、「近代バーベキューの父、トーマス・マッコイと一緒や!」と目を輝かせる(もちろんトーマス・マッコイは空想上の人物)。

ただこういったネタも、徳井義実のYouTubeチャンネル『徳井video』に投稿されるキャンプ動画や料理動画で、いろんな調理器具を使ったり、自分なりのいろんな食べ方をしたりして楽しんでいる様子を見ていると、すべてが妄想とは言えない気がしてならない。今回の「孫」然り、チュートリアルの「妄想漫才」はそういった現実が混じっているから説得力が感じられるのではないだろうか。

チュートリアルは『M-1』で完全優勝を成し遂げ、また最低得点も叩き出した

『THE MANZAI 2024』の“優勝”はチュートリアルだった、と記しても過言ではないだろう。そしてここで、あらためて彼らの偉業を振り返っておきたい。それは『M-1』史上唯一の完全優勝を達成したのはチュートリアルだったことだ。

チュートリアルは2006年大会決勝戦のファーストステージをトップで通過すると、ファイナルステージも7人の審査員から満票を勝ち取った。2009年大会優勝のパンクブーブーもファイナルステージでは満票だったが、ファーストステージは2位通過。ちなみに『M-1』最高得点記録を保持する2019年大会優勝・ミルクボーイはファーストステージ1位、ファイナルステージは6票(あと1票はかまいたち)だった。

2006年大会では審査員の松本人志(ダウンタウン)も、チュートリアルの漫才について「ほぼ完璧かな、と思いますけど」と賛辞をおくったほど。一方で松本人志は『M-1』1年目の2001年大会時、チュートリアルの漫才に対して50点を付けている。まだ審査員たちの採点が定まっていなかった時代のこととは言え、この50点は『M-1』で審査員が付けた採点のなかで史上最低得点でもある(ほかに50点は同年大会のおぎやはぎ(審査員・島田紳助)、2002年大会のスピードワゴン(審査員・立川談志)の計3組)。

史上最低得点から『M-1』王者へ――。2006年大会のファイナルステージで披露した優勝ネタ「ちりんちりん」は、盗まれてしまった自転車用ベルへの思い入れが高まり、自暴自棄にまで発展する徳井義実の様子がすさまじかった。書籍『M-1 完全読本 2001-2010』(2011年/ヨシモトブックス)のインタビューで徳井義実は同ネタについて「正直わかりやすい漫才じゃなかった」としながら、「結局、M-1はオリジナリティがないと勝てないですし」と回想していた。

そんなオリジナリティは、18年後の『THE MANZAI 2024』でもまったく失われていなかった。自分たちの“いま”をネタにして、“2024年のお笑いファン”も笑わせるチュートリアル。その姿は、『M-1』史上唯一の完全優勝者にふさわしいものだったのではないか。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga. jp、リアルサウンド、SPICE、ぴあ、大阪芸大公式、集英社オンライン、gooランキング、KEPオンライン、みよか、マガジンサミット、TOKYO TREND NEWS、お笑いファンほか多数。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

田辺ユウキの最近の記事