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『青天を衝け』の主人公、渋沢栄一に聞いてみたい「素朴な疑問」

碓井広義メディア文化評論家
(写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート)

その著書『論語と算盤』にもあるように、利益を得るだけでなく、倫理観をもってビジネスを行うべきだと考えていた、渋沢栄一。そんな「日本資本主義の父」に、今、聞いてみたいことがあります。

NHK大河ドラマ『青天を衝け』の主人公、渋沢栄一。

天保11年(1840)に現在の埼玉県深谷市の農家に生まれ、一橋慶喜の家臣として幕末を生き、明治維新後は官僚となりました。

やがて実業界に転じ、第一国立銀行(現・みずほ銀行)や東京海上保険(現・東京海上日動火災保険)などの設立や運営に携わっていきます。

創設に奔走した会社は500を超え、「日本資本主義の父」と呼ばれています。昭和6年(1931)没。91歳でした。

とはいえ、最近まで、名前は知っていても業績や人物像はよく分からないという人が多かったのではないでしょうか。

いきなり注目が集まったのは2019年4月。24年に発行される新一万円札の肖像画に決まったのです。

当時、NHKでは21年の大河ドラマの主人公を検討中で、渋沢も「候補」の一人でした。

すでに抜擢されていた脚本家は、15年の連続テレビ小説『あさが来た』を手掛けた、大森美香さん。

波瑠が演じたヒロインのモデルだった、広岡浅子と同時代の大物実業家として、渋沢が浮上したのかもしれません。

いずれにしても、渋沢を主人公に決めた時点では、まだ新型コロナウイルスは出現していませんでした。

制作陣も、その波乱に満ちた生涯を描けば、異色の「偉人伝」になると思ったはずです。

しかし、コロナ禍は社会全体を大きく変えました。

政治や経済はもちろん、これまで当り前と考えられてきたものを、あらためて見直すことを迫られたのです。

それは「暮らし方」だけでなく、「働き方」にまで及んでいます。

当然のように存在してきた「会社」や、その基盤である「資本主義」とは何なのか、という問いかけも必要となりました。

今回の『青天を衝け』は、そんな状況下での大河です。

渋沢と他の実業家との違いは、著書『論語と算盤』にもあるように、単に利益を得るだけでなく、倫理観をもってビジネスを行うべきだと考えていた点にあります。

富は広く配分し、独占をよしとしないというのが「渋沢イズム」だと言えます。

今、多くの企業が、その自己防衛のために、個人を切り捨てることをためらいません。

ならば、そもそも会社は誰のためにあるのか。そんな素朴な疑問に、「日本資本主義の父」は何と答えるのでしょう。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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