オーストラリアを破っての歓喜。激闘を終えたハリルJAPANの選手たちに求めたいW杯からの「逆算」
その瞬間、日本中がひとつになった。
8月31日のロシア・ワールドカップのアジア最終予選で、日本はオーストラリアを2-0と破り、本大会への切符を手にした。浅野拓磨、井手口陽介の得点でアジアの雄を退け、埼玉スタジアムの観衆に歓喜が届けられている。
■地上戦を仕掛けてきたオーストラリア
ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、決戦を前にして4-3-3を採用した。長谷部誠が復帰しながら、彼を中盤の軸にしていた予選序盤戦で愛用した4-2-3-1ではなく、4-3-3。浅野、乾貴士の起用には驚かされたが、アンカーとインサイドハーフに長谷部、井手口、山口蛍と豊富な運動量と強靭なフィジカルを持ち合わせる選手を配置したのは、「ハリルらしい」選択だった。
対するオーストラリアは3-6-1の布陣で挑んできた。開始から、やりたいサッカーを展開できていたのはオーストラリアだったように思う。最終ラインからビルドアップしながら、時にダイヤモンド型、時にボックス型に中盤を変容させ、ポゼッションを高める。長谷部、井手口、山口はオーストラリアのMF陣を捕まえきれていなかった。
ポゼッション率で、オーストラリア(66%)は日本(34%)を完全に上回っていた。そして、4-3-3における「弁慶の泣き所」となるアンカーの脇のスペースを突かれ、日本の疲れが出始めた頃からオーストラリアが攻勢を強める。
だが日本にとって幸いだったのは、オーストラリアがファイナルサードに入っても「地上戦」を仕掛けてきたことだった。ある程度高い位置・深い位置まで入り込まれ、そこから無造作にでもクロスボールを供給された方が、日本としては苦しい展開になっただろう。
だがオーストラリアはボールが持てるあまりに、「空中戦」をほとんど放棄してしまった。ポゼッション率から見て、オーストラリアのシュート数は5本と多くない。逆に日本は17本のシュートを浴びせ、ハリルホジッチ監督の目指す縦に速いサッカーは結晶の時を迎えていた。
■選手の距離間と乾が見せた守備力
昌子源、山口、井手口を除き、この日のメンバーは海外組で固められていた。ピッチ上の8選手が、普段ヨーロッパで戦っている選手たち。これにより、選手同士の「距離間」がコンパクトに保たれる。常日頃フィジカルに勝るプレーヤーたちと接している彼らは、各自が1対1の領域を広げられるようなポジショニングを自然に取っていた。
ここでは、国内組を批判したいわけではない。ただ、海外の選手と闘い慣れていることが、体格面で優位に立つオーストラリアを相手に功を奏したということだ。現に、殊勲のゴールを沈めたのは井手口である。香川真司、本田圭佑がベンチを温める中、彼が一撃で試合を決めたことは強調しておきたい。
先発に抜擢された浅野は貴重な先制点を挙げ、乾は守備面で大きく貢献した。今回の代表戦直前、エイバル対アスレティック・ビルバオの試合を現地で観戦したが、乾は相手のサイドバックにプレスを掛けることを決して怠らなかった。それが彼を現在でのエイバルの地位に押し上げ、その活躍が代表招集につながり、崖っぷちの試合で生きたのである。
乾はエイバルでチェイシングの先鋒として、ホセ・ルイス・メンディリバル監督に厚く信頼されている。およそ2年ぶりの代表復帰を果たした前回の招集では、出場機会を与えられた親善試合のシリア戦で攻撃力ばかりが目立ってしまった。しかし、彼がスペインで「日本人は成功できない」という定説を覆したのは、オフ・ザ・ボールの動きを改善したからであり、それはアップダウンを厭わない労働力による賜物でもあった。
■所属クラブで切磋琢磨を
予選突破を決めたものの、最終戦のサウジアラビア戦が残されている。この試合は柴崎岳、小林祐希、武藤嘉紀の復帰組をはじめ、初招集された杉本健勇を試す場として期待される。
一方で、意識は本大会へと向けられる。4年に一度の最大級の大会を前にして、選手たちには少しでもレベルアップしてもらいたい。今季、チャンピオンズリーグに出場する可能性があるのはボルシア・ドルトムントに所属する香川だ。昨季、同大会には岡崎慎司(レスター・シティ)、清武弘嗣(現セレッソ大阪)が参戦した。だが今季は香川のみである。
ヨーロッパリーグには、大迫勇也(ケルン)、酒井宏樹(マルセイユ)、原口元気(ヘルタ・ベルリン)が参戦する。こちらには南野拓実(ザルツブルク)も参戦しており、彼も成長次第でW杯本大会の最終メンバーに食い込んでくるかもしれない。
本田は契約満了で出場機会を失っていたミランを離れ、パチューカを新天地に選んだ。オーストラリア戦では出番がなかったが、やはり代表戦での決定力において現時点で彼を超える者はいない。世代交代、などと騒がれるが、本田や香川らの経験は本大会で必ず必要になる。
それぞれが所属クラブに戻り、鎬を削る。定位置をつかみ取り、チームの中心となって、次の招集時に再び総力を結集してもらいたい。
選手たちは、誰よりも理解しているはずだ。最終予選を突破したその日は、W杯という大舞台に向けた始動の日であることを。