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『ザ・セカンド』 敗れて売れる芸人は誰か 「1点採点」から見えるタモンズらの将来

堀井憲一郎コラムニスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

見応えのある『ザ・セカンド』

漫才大会『ザ・セカンド(THE SECOND)』はキャリア16年以上の漫才師の大会である。

2024年の第二回大会は、前年に増して見応えがあった。

2023年大会では、広い層が出ていた感じだったが、2024年大会は粒が揃っているという印象を持った。

出場の芸人キャリアもわりと近く、準優勝した「ザ・パンチ」だけがキャリア26年とかなりのベテランなのだが、芸風の差異が大きいわけではなく、2020年代の漫才らしかった。

惜しい芸人さんの「変」さ

このあたりの「惜しい」芸人さんを続けて見ていると、なんとなく共通点が感じられる。

惜しい、というのは、漫才の腕は評価されているのに、テレビタレントとして売れているとは言えない人たちである。

今回は、タイムマシーン3号だけはバラエティ番組でよく見かけるコンビであったが、残りはネタ番組で見たことあるかないか、くらいの芸人さんが多かった。

彼らはおしなべて「変」であった。

ベテランの規格外ぶり

漫才の腕は確かだ。

少々、目の前の客が重くても、力わざで笑いを引き出す腕は持っているだろう。調子にのったら劇場をひっくり返すこともできる。

でもテレビでよく見かける芸人さんではない。

彼らに共通している空気は「規格外」さである。

おもしろいけどなんか変

おもしろいけどなんか変、とおもわせるところだ。

ななまがりの左のほう(森下)の奇妙さを前にだした喋りや、タモンズの右のほう(安部)の甲高い声(ときどき聞き取りにくくなる)、金属バットの二人の見た目のあまりのアンバランスさ、ザ・パンチの左のほう(浜崎)の風貌と所作(ついでに右のほう松尾の声の甲高さ)など、それぞれに特徴を超えた「変」さを持っている。

それは一度見ると忘れられないたぐいのものだ。

準決勝でガクテンソクと金属バットが並んだとき、4人ともまったく違う髪型だと東野幸治が感心していたが、そういう際立った個性がある。

でもその「変」なところは、逆に客に距離を取られることもある。

変なところで距離を取られる

強烈な個性は、気にいられるもとにもなるが、合わないとおもった人は近づいてこなくなるのだ。

どこまで正統派漫才に徹して、どこまで規格外の雰囲気を出すのか。

そこに正解はない。

いま売れている人たちも、たまたまうまくバランスが合った瞬間があった、というのが始まりで、それはほとんど運だったりする

だから、もがき続けるしかない。

観客による採点

「ザ・セカンド」は100人の観客が採点する。

3段階の採点である。3点か2点か1点を入れる。

3点がとてもおもしろかった

2点がおもしろかった

1点はおもしろくなかった

である。

減点法でもある採点

特徴は「おもしろくない」という評価があること、それでも1点入る、というところにある。

ある意味、減点法とも言える。

100人の客が全員満足したら300点。

ちょっと満足度合いが低いとマイナス1点で、とても低いとマイナス2点。全体から引かれていく。

そういう採点だとも見られる。

「おもしろくない」と採点された人数

目の前で見た漫才を、その直後に「おもしろくない」と判定するのは、なかなか厳しい判定である。

今回、どれぐらいその評価が出たのかを並べてみる。

まず初戦(準々決勝)で「おもしろくない」とされた人数(出演順)

ハンジロウ 0人

金属バット 0人

ラフ次元 2人

ガクテンソク 0人

ななまがり 3人

タモンズ 0人

タイムマシーン3号 1人

ザ・パンチ 0人

準決勝

ガクテンソク 1人

金属バット 2人

タモンズ 0人

ザ・パンチ 4人

決勝

ザ・パンチ 4人

ガクテンソク 0人

ガクテンソクのキレイな漫才

ガクテンソクは、0人→1人→0人である。

1人出ているが、でも私は、ガクテンソクは、この8組のなかでは、もっとも「変」さが感じさせていなかったとおもう。

ボケがきちんとボケて、だからツッコミの奥田がしっかり目立った。奥田くんは頭よさそう、とおもわせることに成功していた。

とてもキレイな漫才だった。

優勝して当然である。

これから露出が増えるだろうザ・パンチ

ザ・パンチの「おもしろくない」は0人→4人→4人だった

準決勝で4人いたのに、それでも勝ち抜いた。

嫌われる可能性はあるが勢いのあるネタを演じて、それで抜けた、という感じであった。

優勝していないが、もっとも目立ったコンビである。

準優勝者は、このあともテレビで見る機会が増えるはずだ。

「タモンズ」「金属バット」「ななまがり」の今後

全パフォーマンスを見て、私が印象深かったのは、「タモンズ」「金属バット」「ななまがり」である。

「ななまがり」はきちんと気持ち悪かった。

初戦で「おもしろくない」と判断した人は3人いて、そこで負けてしまった。でも印象深いパフォーマンスである。

「金属バット」は見た目の異様さに対して、すごくスクエアな漫才をやってくる落差で印象深い。

「タモンズ」は、これも少し気持ち悪い大人を演じて、でも彼らには「おもしろくない」が1票も入っていない。

このへんは彼らのキャラによるものだろう。変な大人を演じて印象づけて、でも否定されない、というのは大きな武器である。

この後の「タモンズ」には、とても強く期待される。

ハンジロウとラフ次元もとてもおもしろかった。

ちょっと地味だったという印象はあるが、でも彼らも出てくるはずだ、とおもっている。

やはり、賞レースは、ファイナリストになることがとても大事だ、ということだろう。

「ザ・セカンド」でも、それは変わらない。

コラムニスト

1958年生まれ。京都市出身。1984年早稲田大学卒業後より文筆業に入る。落語、ディズニーランド、テレビ番組などのポップカルチャーから社会現象の分析を行う。著書に、1970年代の世相と現代のつながりを解く『1971年の悪霊』(2019年)、日本のクリスマスの詳細な歴史『愛と狂瀾のメリークリスマス』(2017年)、落語や江戸風俗について『落語の国からのぞいてみれば』(2009年)、『落語論』(2009年)、いろんな疑問を徹底的に調べた『ホリイのずんずん調査 誰も調べなかった100の謎』(2013年)、ディズニーランドカルチャーに関して『恋するディズニー、別れるディズニー』(2017年)など。

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