ひとり旅の達人が心掛けていること。ソロ温泉を満喫する秘訣は「引き算」にあり
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ソロ温泉(ひとりでの温泉旅)の目的は、忙しない日常の時間から逃れ、何事にもとらわれない「空白の時間」を愉しむことだ。
ただし、日常から切り離された「空白の時間」を手に入れるには、意識して「削る」ことが大切である。
ふつうの旅行は、「足し算」でプランを立てるのが常である。「〇〇に行って、△△でランチを食べて、宿に着く前に絶景スポットの××を散策して……」といった具合だ。滞在先の温泉や帰路でも、あれこれと予定を入れがちである。
もちろん、その土地ならではの体験を楽しむのも旅の醍醐味である。しかし、予定を詰め込みすぎると、せっかくの温泉旅なのに疲れてしまうし、何より時間に追われる感覚に襲われる。それでは日常と大差ない。
ソロ温泉では、できるかぎりスケジュールを「削る」ことを意識したい。つまり「引き算」の発想をするのが重要である。
ソロ温泉のメインディッシュは、あくまでも温泉である。ゆっくりと湯船につかり、心身をひたすら休める。温泉入浴のほかは「何もしない」ことで空白の時間を得ることができるのだ。
私がソロ温泉に出かけるときは、特に観光などすることなく、温泉に直行することが多い。そして、チェックイン開始時刻に合わせて投宿し、すぐに温泉に入る。
温泉以外の予定を削ることで、温泉と向き合う時間を長く確保でき、空白の時間を得やすくなる。
「予定していたチェックイン時間を過ぎてしまった!」「夕食まで時間がない。早く温泉に入らなくては!」と時間に追い立てられるようでは、空白の時間を愉しむのは難しいだろう。
スマホの時間も削りたい。
あなたは1日のどのくらいの時間を、スマホに費やしているだろうか?
日本最大のモバイル専門調査機関「MMD研究所」の調査(2022年12月)によると、スマートフォンの1日の利用時間が「1~4時間」に及ぶ人が50%を超えていたという。ちなみに、「10時間以上」利用している人は4.9%だ。
いくらスマホは現代人にとって欠かせない便利なツールとはいえ、これだけの時間をスマホに費やしていることに違和感を覚えないだろうか。
私自身、スマホの利用時間は1~2時間だと思うが、仕事でPCを使用することが多いので、デジタル端末を利用している時間はかなり多くなる。1日のうち3分の1は、スマホかPCの画面を見ているといっても過言ではない。
「MMD研究所」の他の調査によると、「スマホ依存」を自覚している人(10~60代)は全体で約70%に達し、そのうち約50%が「スマホ依存から抜け出す必要がある」と考えているという。老若男女問わず、スマホに依存していることが見て取れる。
だからこそ、ソロ温泉では「スマホの時間」を削ろう。原則としてSNSも禁止。これを推奨したい。
ひとりで温泉に出かけると、手持ち無沙汰でついスマホを見てしまう、という人は多いだろう。
SNSやメールをひとたび開けば、いつもの調子でついスマホをいじってしまう。せっかく旅先に来ているのに、目の前の美しい風景や貴重な出来事を見過ごしてしまう。これでは、わざわざ遠出する意味が半減してしまう。
手元にスマホがあると、いつものクセで手に取ってしまうので、たとえば「バッグの中にしまっておく」「電源を切っておく」など、簡単にスマホをいじれないようにするといいだろう。
スマホができないと禁断症状が出て、かえってリラックスできないというなら、時間制限を設けてはどうだろうか。スマホにはTwitterなどのアプリに利用時間制限を設定できる機能がある。
たとえば「15分だけ」と決めておけば、ずるずるとスマホをいじることはなくなり、禁断症状もいくぶん和らぐのではないだろうか。
旅に対する期待も削る対象だ。
人は旅に対して、過度に期待してしまう傾向があるように感じる。「予定を立てているときが旅のピークで、終わりに向けてどんどんテンションが下がっていく」という話があるが、それも期待が大きすぎることに一因があるのかもしれない。
たとえば、宿泊する旅館に対して「結構いい値段だから、料理や接客のレベルも高いだろう」と期待してしまう。もちろん、期待以上の満足感を得られるケースもあるが、逆に「想像していたものとは違う」とがっかりすることも少なくない。
宿にチェックインして、期待していたよりも部屋がしょぼかったとしよう。過度な期待を抱いていると、その時点でいっきにテンションが下がってしまうだろう。せっかくつくった空白の時間が後悔の感情で支配されてしまう可能性さえある。
こうした事態を避けるためには、最低限の基準をもつことが大事である。「これだけクリアできれば十分」と事前に決めておくのである。そうすれば、期待を裏切られてがっかりすることはなくなる。
温泉とひたすら向き合うソロ温泉の場合でいえば、最低限の基準は「温泉の質」になる。浴室の雰囲気や源泉の鮮度を含めて、満足のいく湯浴みの時間を過ごせるか。これだけは譲れないところだ。
だから、ソロ温泉の計画を立てるときは、温泉の質にはとことんこだわる一方で、そのほかの部分は「多少のことには目をつむろう」という心構えでいたほうがいい。
実際、その宿が自分に合うかどうかは、ネットで調べるのには限界があるし、一度宿泊してみないとわからない面もある。定宿ができるまでは、あまり過度の期待をかけるのは避けたほうがよいだろう。
ソロ温泉に出かけるときは「削る」を意識すると、その旅が充実したものになるはずだ。
※この記事は2023年7月31日発売された自著『こだわるから、とらわれない―温泉が教えてくれた心地いい生き方―』(ICE新書 外部リンク)から抜粋し転載しています。