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「南北軍事合意破棄で戦争になるかも」 北朝鮮が韓国に不気味な警告!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
北朝鮮の放射砲発射訓練(朝鮮中央通信から)

 今朝の北朝鮮の国営通信「朝鮮中央通信」(12月3日付)は軍事評論員が書いたとされる「『大韓民国』の連中は北南軍事分野合意書を破棄した責任から絶対に逃れられない」と題する文を掲載していた。

 軍事評論員の名前は記されていない。おそらく実在しない人物で、実際には労働党の軍事若しくは対南担当部署が「軍事評論員」と称して書いたものと推測される。従って、これは実質的に北朝鮮当局の見解である。

 激しく対峙していることから致し方ないかもしれないが、南北は常に自分のことは棚上げにし、相手を非難する悪習がある。相手を威嚇、挑発するミサイルを乱射しながら、頻繁に軍事演習を行っておきながら「非は常に相手にある」と事の責任を一方的に擦り付けるのが南北間では慣習化している。

 いつもながらのこうした非難の応酬には壁壁している。特に北朝鮮の場合、何かにつけ「宣戦布告」とか「戦争前夜」という物騒な言葉を慣用語として使っているだけに「オオカミ少年」ではないが、「またか」と正直、聞き飽きた感も否めない。それでも今回に限って軽視できないのはそれなりの理由がある。筆者ももしかすると、朝鮮半島で軍事的緊張が高まり、紛争が勃発するかもしれないと深刻に憂いているからである。

 この軍事評論員は「今、朝鮮半島には収拾できない統制不能の険悪な事態が生じている」と指摘し、その理由について韓国が北朝鮮の軍事偵察衛星発射を理由に文在寅(ムン・ジェイン)前政権時代の2018年9月に交わした南北軍事合意の一部効力停止を発表し、偵察活動などを再開させたことを挙げていた。

 続けて、韓国が軍事合意に先に手を付けたことで「我が軍隊はこれからいかなる合意に束縛されず、正常な軍事活動を決心した通りに展開できるようになった」と前置きし、軍事合意の破棄で「合意以前の極端な軍事的対決状況が再現されれば世界で膨大な武力が最も稠密に、先鋭に対峙している軍事境界線地域で偶発的な軍事的衝突を防ぐ最小限の装置、最後の禁止線が完全になくなり、悪結果を生じさせる」と展開したうえで「今や朝鮮半島での物理的激突と戦争は可能性の問題ではなく、いつ始まるかが問題だ」と実にキナ臭い予測をしていた。そして韓国に対して今後予想される韓国からの無人機の投入や気球によるビラ散布は「戦争挑発に該当する重大な軍事的敵対行為となる」と釘を刺していた。

 また、この軍事評論員は「我が軍隊は当初から傀儡軍(韓国軍)などを相手にしていない」としながらも「我が軍隊の面前で『大韓民国』の政治・軍事ごろつきが敢えて非道な軍事的挑発の振る舞いを繰り広げる場合、いささかの寛容もせず、ただ即時的かつ強力な力で制圧、懲罰するであろう」と述べ、「我々に反対するいかなる敵対行為も傀儡軍(韓国軍)の惨憺たる壊滅と『大韓民国』の完全消滅につながるであろう」と韓国を威嚇していた。

 「朝鮮半島での物理的激突と戦争は時間の問題である」とはいかにも北朝鮮らしい大げさな言い回しだが、非武装地帯(DMZ)から撤去していた歩哨所が再構築され、重火器が持ち込まれ、板門店の共同警備区域(JSA)の警備兵が拳銃を携帯し、武装化したことで危険水位が上がっているのは誰もが認めるところである。軍事境界線(MDL)上にある板門店の韓国側の見学プログラムが再開から約1週間で再び中止になったことがその一端を物語っている。

 今後、南北共に軍事合意で禁止されていたMDLの5km内での野外演習を再開することになるが、軍事合意が破棄される前からこれまでも南北間ではひやひやする出来事が何度も起きていたことを考えると、まさに油断禁物である。

 昨年だけを例に挙げれば、例えば10月13日に北朝鮮は韓国軍が前日に東部前線の北朝鮮第5軍団が駐屯している前方地域で「10余時間にわたり砲撃挑発を行った」として軍用機10機を出撃させたが、軍用機が飛行禁止地域北方5km(軍事境界線北方25km)まで接近したため韓国が「F-35A」戦闘機を40機緊急発進させたことがあった。

 約10日後の10月24日には北朝鮮の商船1隻(5千トン級)が海の軍事境界線と称されている北方限界線(NLL)を3.3km侵犯し、韓国側に入ったことから韓国の護衛艦が2度警告通信し、それでも退却しないため警告射撃として機関銃20発発射する事件が起きている。

 この時、韓国の艦艇と北朝鮮の船舶は1kmの距離まで接近していた。当時、北朝鮮軍総参謀部は韓国の護衛艦が「船舶取り締まりを口実に海上軍事境界線を2.5~5km侵犯した」として「西部戦線の海岸防衛部隊に監視・対応体制の徹底を指示し、ロケット弾10発するなどの対抗措置を取った」との報道官談話を出していた。

 翌11月2日には北朝鮮が戦術誘導ミサイル「SRBM」を午前6時51分に4発、8時51分に3発、地対空ミサイルを9時12分に10発、午後4時半から5時10分までさらに6発追加発射したが、このうち日本海に面した江原道・元山から午前8時51分に発射された3発のうち1発がNLLを越え、韓国の領海付近に落下していた。過去に海岸砲や放射砲が南方向に飛んできたことはあるが、ミサイルは初めてであった。当然、韓国も直ちに対抗して「F―15K」,「KF―16」の戦闘機から精密空対地ミサイル3発を以北の公海上に発射していた。

 さらに12月26日には北朝鮮が5年ぶりに韓国に無人機を飛ばし、韓国の領空を侵犯していた。MDLを越え侵入した無人機5基のうち1機は仁川、ソウルなどの上空を5時間以上も平然と飛行し、北朝鮮に戻ったことはまだ記憶に新しい。

 周知のように軍事境界線を挟んで南北は双方合わせて100万人以上の軍人が対峙している。朝鮮戦争は休戦状態のままで国際法的には「撃ち方止め」の状態にある。

 今年で停戦協定締結から70年になるが、1953年7月27日に締結された休戦協定を維持してきた軍事停戦委員会は1991年3月以来、一度も開かれていない。軍事停戦委委員会に取って代わった米朝軍事会談も没状態にある。

 軍事停戦委員会と並んで停戦状態を監視してきた中立国監視委員団(韓国側にスイス、スウェーデン、北朝鮮側にチェコとポーランド)は事実上、有名無実化し、機能していない。東欧社会主義政権が相次いで崩壊し、チェコとポーランドの両国が西欧化したため中立国のバランスが崩れたとして北朝鮮は1995年5月に中立国監視団の北朝鮮側事務所を一方的に閉鎖してしまった。

 南北の軍事ホットライン(電話)も昨年から不通である。MDLやNLLでの衝突を回避、収拾するためのメカニズムがなくなれば、不測の事態を阻止できない。些細なトラブルも、あるいは偶発的な衝突も拡大し、局地戦、へたをすると全面戦争に発展しかねない。

 韓国は国防省だけでなく尹錫悦(ユン・ソクヨル)大統領も北朝鮮が挑発した場合「直ぐに、徹底的に、最後まで懲罰せよ」「事前報告せず、事後報告で良い」「1発には100発、1000発で応酬せよ」と現場の判断に委ね、北朝鮮もまた「即座に対応し、圧倒せよ」とか「無慈悲に懲罰せよ」とハッパをかけていることから軍事合意という名の安全装置が外れた今、何が起きても不思議ではない。

(参考資料:南北軍事合意の破綻で火が噴くか!?一触即発となった韓国対北朝鮮の「2大抗争」)

(参考資料:どっちが先に「圧倒的な力」で相手の政権を終わらせることができる? 激しい南北首脳の脅し合い!)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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