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ハマってみて分かった~ポケモンGOは科学への興味を促すか?

榎木英介病理専門医&科学・医療ジャーナリスト
ポケモンGOは科学者を増やす?(写真:ロイター/アフロ)

日本でのリリースから一か月

皆さん、ポケモンGOやってますか?

日本版のリリースから一か月あまり。世界を熱狂に巻き込んだポケモンGOの人気も落ち着いてきたようだ。「すぐ飽きた」「クソゲー」との声も聴かれるこのゲームだが、そうは言っても巷を歩けば「ポケモントレーナー」を目撃する。ニュースにはならないが、定番化しつつあるようだ。

かくいう私も、モノは試しとやり始めた。ポケモン世代でもなく、ゲームも普段やらないので、すぐ飽きるだろうと高を括っていた。ところが…自分でもびっくりするくらいハマってしまった…

トレーナーになって分かったこと

現在レベル23。多くのポケモンを見つけ、進化させ、ジムでのバトルでも勝てるようになってきた。ポケモンを探すために炎天下の道を歩いている。

このゲーム、いったい何が面白いのか…

基本構造は極めて単純。街に出てひたすら歩いてポケモンを捕獲していく。ジムという場所でバトルはできるものの、基本はポケモン採集だ。様々なゲームをやり込んだゲーマーなら飽きてしまうのは分かる。

しかし、これがよくできている。現実世界を反映しているのだ。

例えば筆者が勤務する大学の周辺では「ズバット」というコウモリのようなポケモンばかり採れるが、実際に夜になるとコウモリが飛んでいる。また、この付近には池が多いのだが、「コイキング」という鯉か金魚を大きくしたようなポケモンが取れる。ちょっと離れると、「ズバット」や「コイキング」の遭遇率が低くなる。

筆者は家と勤務先の間、周辺でしかプレーしていないため、採れるポケモンは「ポッポ」と「コラッタ」ばかり。ポケモンの代名詞でもある「ピカチュウ」はいまだ出会ってすらいない。珍しいポケモンを採取するために旅行したいなあ、という気分になっている。

また、「ビートル」という虫の幼虫のようなポケモンは、進化させると蛹のようなポケモン「コクーン」となり、さらに進化させると「スピアー」という蜂のようなポケモンになる。同じく幼虫のようなポケモン「キャタピー」は、蛹ポケモン「トランセル」、蝶々ポケモン「バタフリー」に進化する。

#ポケモンの進化は本当の意味での進化じゃないだろ、というツッコミは、20年近く前からあるわけだが、それはそれとして…

もちろん、実際の世界にはいないエスパーポケモンがいたりと、フィクションの世界ではあるのだが、このフィクションの世界に入るには、街中を歩かないといけない。アイテムがもらえる「ポケストップ」や、ほかのポケモンと闘える「ジム」は街中のちょっとしたメルクマールに設定されており、またポケモンの卵は歩いた距離に応じてしかふ化しないので、歩かざるを得ない。

おかげでこの一か月に歩いた距離は100kmに達した。

ポケモンGOブームを科学への興味につなげるか

ポケモンGOのブームに、科学界も反応している。

イギリスの科学雑誌Natureは、巻頭言でポケモンGOを取り上げた(7月19日号)。

内容は分類学、新種の命名に関するもので、直接ポケモンGOに触れているわけではないが、ポケモンGOが科学界を刺激していると言える。

果たしてポケモンGOは、失われつつあると言われる子供たちや市民の科学への興味を喚起するのだろうか。

実際にプレーしてみて分かったが、ポケモンGOがきっかけで昆虫採集などへ移行する人は多くないとは思う。ゲームはゲームだし、ゲームだから、昆虫採集と違って、手間がかからず楽にできてしまうからだ。

しかし、ポケモンGOが、昆虫採集などと共通の「収集欲」を刺激しているのはよく分かる。私も子供のころ、昆虫採取に熱中したが、歩き回り珍しいポケモンをゲットしたとき、当時の感覚がよみがえってきたのだ。

そして、その感覚は、研究で新しい発見をしたときの感覚にも通じる。

先日同僚が、非常に珍しい腫瘍を診断し、これはレアだ、論文になると興奮していたが、それは同じ日にとげとげポケモン「サイホーン」を捕獲した私にはよくわかる。この興奮が、「クソゲー」と言われるポケモンGOに夢中になる人を惹きつけているのだろう。

現在私は、コイキングを進化させるため、ひたすらコイキング集めをしている。コイキングを進化させるには、「コイキングのあめ」を400個も集めなければならないのだ。これは、レアな昆虫を見つけたり、難しい研究を達成するには、長い時間成果がなかなか出ない時間を過ごさなければいけないことと通じる。コイキングを進化させたときの感覚は、きっと投稿した論文が受理されたときの感覚と似ているのだろう。

科学界は、ポケモンGOに夢中になっている人たちに、研究とはポケモンGO以上に興奮できるものなのだよ、ということをアピールすればいい。すべてのポケモンをゲットして次の興奮を探している人たちが、科学を研究するという行為に少しでも興味を持ってくれれば…

病理専門医&科学・医療ジャーナリスト

1971年横浜生まれ。神奈川県立柏陽高校出身。東京大学理学部生物学科動物学専攻卒業後、大学院博士課程まで進学したが、研究者としての将来に不安を感じ、一念発起し神戸大学医学部に学士編入学。卒業後病理医になる。一般社団法人科学・政策と社会研究室(カセイケン)代表理事。フリーの病理医として働くと同時に、フリーの科学・医療ジャーナリストとして若手研究者のキャリア問題や研究不正、科学技術政策に関する記事の執筆等を行っている。「博士漂流時代」(ディスカヴァー)にて科学ジャーナリスト賞2011受賞。日本科学技術ジャーナリスト会議会員。近著は「病理医が明かす 死因のホント」(日経プレミアシリーズ)。

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