AIによる「効率化」 2025年の注目キーワードになるか
1月20日に発足するトランプ政権では、イーロン・マスク氏率いる「政府効率化省」がさまざまな規制緩和や支出削減に乗り出すとして注目されています。
マスク氏の影響力を背景に、2025年は「効率化」が注目のキーワードになる可能性があります。なぜ今さら効率化なのか、そして我々はどう生き抜いていくのか、ざっくり予想してみます。
AIで高まる「効率化」の圧力
マスク氏がオーナーとなったXでは、いろいろと問題はあったものの、従業員の8割を削減したとされる一方、AIなど必要な分野への投資はしっかり増やす「効率化」を実現しています。
さすがに普通の会社がこれを「お手本」とすることは難しいものの、常に業務効率化を求められる中で、AIの存在が効率化を後押しする傾向は強まっています。
ChatGPTが登場した直後、回答できるのは学習したデータの範囲内に限られており、用途としては文章の要約やアイデア出しが中心でした。その後、Web検索を組み合わせることで最新情報を扱えるようになっています。
同様に、ビジネス活用で注目される検索拡張生成(RAG)では、あらかじめ用意したデータベースなどを検索して回答を返す仕組みが実現し、社内の情報を引き出すといった使い方ができるようになっています。
とはいえ、人間がやってきた仕事をAIにやらせようとしても効果は限定的なので、AIの存在を前提に業務のあり方を見直していく動きが進みそうです。この考え方は業務のデジタル化(DX)と共通しています。
一方、AIを語る上で避けられないのがコストの問題です。多くの人はAIを無料で使いたいと考えているのに対して、AIの開発や運用にはGPUの購入や技術者の人件費、莫大な電気代といったコストがかかっています。
有料化という点では、2024年12月にOpenAIが出した月額約3万円のプランが話題になりました。またソフトバンクやドコモによる「1年無料」で多くの人が有料プランを体験していることも、将来的な売上につながりそうです。
ただ、ライバルも増えています。グーグルのGeminiやアンソロピックのClaudeには無料版があり、当初は有料だったXのGrok 2も無料ユーザー向けに展開されています。2024年12月末には中国製の低コストなサービスが注目を集めました。
AI開発ではNVIDIA製のGPUが総合的に有利な状況は変わっていないものの、より効率を高める半導体を自社開発したり、それらを動かす電力のために原発を確保したりする動きが出てきました。AIのコストは2025年も引き続き注目といえるでしょう。
偽情報の拡散や倫理面などでAIに一定の規制を求める声は高まるものの、AIへの投資はまだアクセルを踏み続けています。アルファベットCEOのスンダー・ピチャイ氏が「投資をしないリスクのほうが大きい」と語ったのはその象徴といえます。
話の規模はもはや個々の企業にとどまらず、経済安全保障の観点から、AIについても自国内のインフラでまかなえるようにするという「ソブリンAI」が注目されました。国家レベルでAIのデータセンターを作るといった話も増えていくと予想されます。
こうした先行投資が続くと、帳尻を合わせるために売上増やコスト削減を求める要求も高まるでしょう。これが「効率化」の圧力となり、あらゆる企業や個人にその重みがのしかかっていくのではないかと筆者は考えています。
「効率化」日本にこそ必要?
米国に比べて、人口減少や高齢化による人手不足、現役世代の負担増といった問題が深刻な日本にこそ、効率化が必要という声が高まる可能性があります。
マイナンバーカードのスマホ搭載では、スマホ用電子証明書に対応済みのAndroidとあわせて2025年春にはiPhoneにも対応し、デジタル化における活用が広がりそうです。
4月13日に始まる大阪・関西万博では、現金が使えない全面的キャッシュレスや顔認証を多くの人が体験する機会になります。「日本版」ライドシェアについても、大阪では2024年12月から24時間の稼働が試験的に解禁されており、移動におけるスマホ活用を後押しすると期待されます。
12月には日本維新の会が政府の効率化に言及。AIで20%社内の効率化を進める楽天グループの三木谷浩史社長もコスト削減庁の名前を挙げるなど、2025年には日本でも具体的な動きがあるか注目されます。
ただ、どの国にもいえることですが、政府には市場での競争だけでは解決できない問題をカバーする役割が期待されます。効率化が必要という点で意見が一致したとしても、何を削減し、どこに投資を増やすべきか、議論になるのは必至でしょう。
効率化時代をどう生き抜くか
効率化を求められる時代を、我々はどうやって生き抜いていくのでしょうか。汎用的な答えはないものの、最新の動向からヒントは見えてきます。
2025年に盛り上がりそうな分野が「AIエージェント」です。たとえば旅行先を相談すると、これまではおすすめのスポットを紹介してくれるだけでしたが、AIエージェントでは実際の予約やチケットの手配まで代行してくれるようになります。
ただ、AIが注文を間違うと返金やキャンセルが必要になるなど手間や迷惑がかかります。当面は限定的な用途にとどまるとみられますが、将来的にはWebサイトやアプリのあり方を大きく変える可能性を秘めています。
同様に、仕事利用においても具体的な作業まで代行できるようになったとしても、完全にAIに任せることは難しいといえます。AIの仕事をチェックするのは人間の役目であり、そこで間違いを指摘できるスキルを持っている人は一目置かれる存在になりそうです。
もう1つ注目すべき傾向として、AIによるデータ分析の基盤が整ってきたことで、感覚的にしか分からなかったことが、これまでにないレベルで可視化されるようになったようです。
よく挙げられる例としては、イベントや天候などと連動した需要予測があります。日持ちしない商品のニーズが事前に分かっていれば、あらかじめ必要な量を無駄なく準備できることになります。
その延長で、「この客層へのポイント付与は効果が薄い」といったことも分かってしまうようです。そうなると根拠に基づいた大胆な変更が可能になり、「改悪」として話題になる一方、着実に成果を生むといった事例が増えていきそうです。
この世界のルールや仕組みはAIがない状態で作られてきたため、さまざまなニーズや無駄が見過ごされてきたと考えられます。次にAIが効率化するのはどこなのか、先回りして予想していくのも面白いのではないでしょうか。