アニメ聖地88に認定の鴨川市「輪廻のラグランジェ」 2032年への挑戦
アニメツーリズム協会が8月26日、「訪れてみたい日本のアニメ聖地88(2018年版)」を発表した。これは主に訪日旅行者に向けたもので、どこに行けばどんなアニメやキャラクターに出会えるのかをリスト化したものだ。
一般的に「アニメ聖地」と言うと、「らき☆すた」の埼玉県久喜市、「ガールズ&パンツァー」の茨城県大洗町、「君の名は。」の岐阜県飛騨市などが有名だ。アニメ作品のおかげで数十万人以上の人がその街を訪れるような報道が目につくことが多い。一方で、そこまでのインパクトはなくとも、地域が主体となってPRや地域振興を実直に続けているところもある。
2032年の鴨川が舞台
その好例が千葉県鴨川市を舞台にしたアニメ「輪廻のラグランジェ」だ。この作品は2032年の鴨川を舞台にしたSFロボットアニメで、女子高生の主人公が地球を守るためにロボットで戦うというストーリーだ。2012年1月から3月までと、7月から9月にかけて読売テレビなどで放映された。放送が終了して以降も、地元神主や市や商工会職員らが中心となった「輪廻のラグランジェ鴨川推進委員会」による取り組みが継続しており、今年で5年目となる。
「輪廻のラグランジェ」による活動の糧となっているのが、タイムカプセルの存在だ。タイムカプセルは2012年10月のファン交流イベント「ラグりんまつり 2012 in 鴨川」で埋設され、翌年9月にこのタイムカプセルが2032年10月17日(日)正午に開封されることが発表された。2032年というのは、この作品の舞台となった年である。2032年までの約20年間、鴨川はどんなことがあっても「輪廻のラグランジェ」による取り組みを続けていく――タイムカプセルはその決意の象徴となっている。
「鴨川エナジー」が現実に!
2013年には、作中に登場した架空のドリンク「鴨川エナジー」が発売された。味はエナジードリンクのそれで、強炭酸なのが特徴だ。現在に至るまでご当地サイダーとして定着し続けており、首都圏の「聖地」関連イベントでも出張販売が積極的に行われている。これまで5万本以上が出荷されており、ふるさと納税の市の返礼品にもなるなど、鴨川の新たな顔になりつつある。
原画が鴨川市に移管
そして、2015年10月には、「輪廻のラグランジェ」の制作会社であるXEBEC(ジーベック)から、原画や制作資料が鴨川市に移設された。これは制作会社の倉庫に眠っていたものを舞台となった地域に移管するという画期的な取り組みとなった。それまで制作資料の一部を地域の博物館などに寄贈する例はあったが、そのほとんど全てを移す例はこれが初とされている。特に制作会社にとって、近年のアニメ作品数の増加により制作資料の保管場所の確保が問題になっており、管理できずに廃棄してしまうケースもあるという。この点でも、地域への移管は画期的と言える。
その数は段ボール箱140個分にのぼり、これまでボランティア有志が資料の整理を進めている。だが、どの資料がどの段ボールに入っているかも判然としないため、「とても2032年までに整理できる量じゃない」という。寄贈されてまもなく2年が経つが、全24話のうち、まだ第1話分の整理しか終わっていない状況だ。
この作業の過程で見つかった第1話の制作資料が、現在鴨川市郷土資料館で展示されている。9月24日(日)までで、入館料は大人200円。筆者も休日に訪れたが、断続的に来場者がいた。置かれていた来場者ノートを見ると、主役の京乃まどかを演じた声優・石原夏織がプライベートで訪れた記録もあった。資料館の職員は原画展について「SNS中心の情報拡散をしているが、予想よりかなりの人が原画展目当てに来てくれている。こうして細く長く取り組んでいくことで、2032年まで続けていきたい」と話す。
インターネット上の一部で、鴨川はアニメ聖地の失敗例に挙げられることがある。これは2012年3月にNHKのクローズアップ現代で、制作側と地域がタイアップして取り組む姿勢がファンに「あざとさ」を感じさせ、失敗例であるかのように報道されたからだ。だが、本当にそう言えるのだろうか? 今や、制作側と地域が協働することは当たり前になっている。
8月26日に発表された「アニメ聖地88」に、鴨川は選ばれた。「輪廻のラグランジェ」は海外でも放送されており、成田空港からも羽田空港からもアクセスしやすい立地は大きな強みだ。9月9日(土)には、市内で「輪廻のラグランジェ」の監督やプロデューサーを交えたラジオの公開収録イベントも催される。タイムカプセルが開封される2032年まで、鴨川の挑戦は続く。