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DV夫から愛する我が子を必ずこの手に!圧倒的男性優位社会で生きる若き母親の闘いの行方

水上賢治映画ライター
「バーヌ」で主演と監督を兼務したターミナ・ラファエラ  筆者撮影

 埼玉県川口市のSKIPシティで毎年実施されている<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024>が現在開催中だ。

 白石和彌監督、中野量太監督、上田慎一郎監督らを名だたる映画監督たちを輩出する同映画祭は、いまでは若手映画作家の登竜門として広く知られる映画祭へと成長している。

 とりわけメイン・プログラムの国際コンペティション部門は、海外の新鋭映画作家によるハイクオリティかつバラエティ豊かな作品が集結。コロナ禍もすっかり明け、今年も海外からの多数のゲストが来場を予定している。

 そこで、昨年の<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023>のときに行った4作品の海外映画人たちへのインタビューを届ける。

 二作品目は、日本ではあまりなじみのないであろう、東ヨーロッパと西アジアの交差する地点に位置するアゼルバイジャンから届いた「バーヌ」。ヴェネチア国際映画祭でワールド・プレミアされた同作は、混乱を極める第二次ナゴルノ・カラバフ紛争末期(※アルメニア共和国とアゼルバイジャン共和国がナゴルノ・カラバフ自治州を巡って争っている紛争)を背景に、社会的権力を持つ夫に愛する我が子を連れ去られた母親バーヌの親権を求める孤独な闘いを描く。

 手掛けたのはアゼルバイジャンの映画監督で俳優としても活躍するターミナ・ラファエラ。

 主演と監督を兼ねて挑んだ本作について彼女に訊く。全四回/第三回

「バーヌ」で主演と監督を兼務したターミナ・ラファエラ  筆者撮影
「バーヌ」で主演と監督を兼務したターミナ・ラファエラ  筆者撮影

実際にDV被害にあった女性にも人を介して少しお話を伺うことができました

 前回(第二回はこちら)に続いて主人公のバーヌについて聞いていく。

 バーヌにはいろいろなことを託したと語ってくれていたが、確かに彼女からはたとえばアゼルバイジャンにおける男性の地位、DV、女性蔑視などが見えてくる。

 バーヌという女性の人物像はどこから生まれてきたのだろうか?

「そうですね。

 いま話に出たDV、男尊女卑などについては、これまでアゼルバイジャンの何人もの女性から聞いていたんです。

 付け加えると、そういったことがアゼルバイジャンには許される雰囲気みたいなものが社会にあった。

 男性から言われるならまだしも、女性にも容認する人が珍しくなかった。

 たとえばお嫁さんが夫から暴力を受けたとする。すると、義母からはあなたにも落ち度があったのではと言われ、実母からは少しの事は我慢しなさいと言われる。

 暴力は暴力でしかなくて許されるものではない。でも、女性も暴力をふるった男性の方ではなく、同性の女性の方が咎める。

 そういうところを、バーヌには反映させました。

 それから実際にDV被害にあった女性にも人を介して少しお話を伺うことができました。

 そのお話もバーヌには反映させています。

 ただ、アゼルバイジャンにおいてこういう問題がいまは少しずつ改善されてきていることも事実です。

 だんだんDVが社会的に許されないものであることがアゼルバイジャンでも浸透してきて、よくニュースで取り上げられるようになってきました。

 それに伴って、もっと警察が介入して妻を夫から守るべきではないかという議論も出てきています。

 これは大きな進歩だと思います。

 この作品によって、暴力が許されない社会になっていってくれたらと願っています」

「バーヌ」より
「バーヌ」より

DV被害を受けた女性たちに実際に会って考えたこと

 さきほど、作品を作るに当たって、当事者の女性の話をいろいろときいたとのこと。

 印象に残っていることはあるだろうか?

「正直、やはり被害を受けた方の話というのは身につまされることばかりで……。すべての方の話が記憶に残っています。

 印象深いというわけではないのですが、お話しを伺っているうちに、ひとつ共通していることがあることに気付きました。

 それは彼女たちに諦めの気持ちがあることでした。

 どういうことかというと、さきほどいったように女性の声が届かない、受け付けてもらえない社会になってしまっている。

 だから、何か助けを求めたところで誰も振り向いてくれない。男性が女性に手をあげることはよくあることでそれぐらいは許しなさい。

 男性は怒るとそうなってしまうから、あなたがそうならないように気をつけなさい。そのようになる。

 そのように社会がなっているので、自分が抗ったところで意味があるとは思えない。

 共通してみなさん、絶望している。そのことに気付いてなんともやるせない気持ちになりました」

シングルマザーに対する風当たりは強い

 バーヌはシングルマザーとして生きていこうと心に誓い、息子を取り戻そうとする。

 ただ、周囲は必ずしも彼女のことを支持するわけではない。

 DVぐらい我慢しなさい、シングルマザーで子どもを育てるのは厳しいということを言う人もいる。

 シングルマザーの立場もやはりアゼルバイジャンにおいて弱いと言えるのだろうか?

「そうですね。

 やはり風当たりは強いと思います。

 バーヌの場合、さらに厳しいのは夫が町の権力者で富と名声を得ていることです。

 夫に多くの妻は逆らえない。

 さらに言うと、アゼルバイジャンでも離婚した後に父親が生活費、養育費を払うということに法律ではなっています。

 けれども、いろいろと抜け道があって、まあ絶対に支払われるとは言い切れないんです。

 そこで離婚に躊躇う女性もいると思います。

 裕福な家の女性であればもちろん家族が援助してくれるでしょうけど……。

 金銭的な問題で離婚を踏みとどまる女性は多いと思います。

 ただ、一世代前の人たちはそうですけど、代わりつつはあります。

 若い世代はこの意識を変えていくのではないかという可能性をわたしは感じています」

(※第四回に続く)

【「バーヌ」監督・主演 ターミナ・ラファエラ インタビュー第一回】

【「バーヌ」監督・主演 ターミナ・ラファエラ インタビュー第二回】

「バーヌ」ポスタービジュアル
「バーヌ」ポスタービジュアル

「バーヌ」

監督:ターミナ・ラファエラ

出演:ターミナ・ラファエラ、メレク・アッバスザデ、カビラ・ハシミリ、

ジャファル・ハサン、エミン・アスガロフ

「バーヌ」の場面写真はすべて(C)Katayoon Shahabi

<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024>ポスタービジュアル 提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024 
<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024>ポスタービジュアル 提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024 

<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2024>

会期:《スクリーン上映》 2024年7月13日(土)~7月21日(日)

《オンライン配信》 2024年7月20日(土)10:00 ~ 7月24日(水)23:00

会場: SKIPシティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ホール、

多目的ホールほか(埼玉県川口市)

詳細は公式サイト : www.skipcity-dcf.jp

映画ライター

レコード会社、雑誌編集などを経てフリーのライターに。 現在、テレビ雑誌やウェブ媒体で、監督や俳優などのインタビューおよび作品レビュー記事を執筆中。2010~13年、<PFF(ぴあフィルムフェスティバル)>のセレクション・メンバー、2015、2017年には<山形国際ドキュメンタリー映画祭>コンペティション部門の予備選考委員、2018年、2019年と<SSFF&ASIA>のノンフィクション部門の審査委員を務めた。

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