センバツ出場校決定!選考過程を紐解く
難航が予想された地区が例年以上に多く、今年も実力、とりわけ投手力が重視された選考になった。
地区最後の1校に決まったのは、投手力に決め手を持ったチームばかり。八戸学院光星(青森)、二松学舎大付(東京)、近江(滋賀)はいずれも昨夏に続く出場になった。これら各チームのエースは、大会でも注目の存在になるはずだ。そんな中で、中国・四国の最終1校は、実力のある明徳義塾(高知)を差し置いて、米子北(鳥取)が春夏通じて初めての甲子園を射止めた。唯一、「地域性」が実力を逆転し、若干の整合性を欠いた。
21世紀枠は文武両道が2校
初めに21世紀枠に触れねばならない。9校中、松山東(愛媛)が群を抜くという前評判通り、東西別での選考ではあっさり同校が決定。混戦が予想された東ブロック(北海道、東北、関東・東京、東海、北信越)は、豊橋工(愛知)の、工業高校の特性を生かし、「練習道具を自分たちで作って、近隣の学校のネット修理にまで出かけている」といったチームの環境作りの創意工夫が特別選考委員の心に響いた。かなりのきわどい選考だったようである。最後の1校は7校をシャッフルして桐蔭(和歌山)に。最後は委員による多数決で決着した。夏の選手権第1回からの出場校で、優勝経験もある同校は、松山東と学校の性格が極めて似ているが、選考委員から「高校野球100年の節目に評価してはどうか」の意見が出たようである。プレゼン後の質疑応答では、選手についての質問が多く、戦力検討の材料が乏しい同枠の課題を露呈した。同委員のあさのあつこ氏(作家)が、「選手個々の個性をプレゼンで見せてほしかった」という談話を残しているが、やはり同じスタートラインで勝負するのが甲子園である以上、戦力の裏づけはある程度必要なのではないか。
近江はエースの実力を高評価
21世紀枠は時系列でいえば、一般選考が行われる前に決定している。今回は、これが影響したのでは?と懐疑的になってしまうような選考もあった。近畿の6校目は焦点のひとつだったが、「投手力で上回る」という理由で、近江に決まった。近畿大会の試合内容そのものは、最大の判断基準とされる準々決勝において、最も力を出せなかったのが近江だ。立命館宇治(京都)に中盤に離され、2-6というスコアで完敗した。奈良大付にサヨナラ負けの箕島(和歌山)がさほど見劣りした印象はない。これでは、『先に桐蔭が決まったから箕島にとって不利に働いたのではないか?』と直感的に思ってしまう。選考会後の会見で、同趣旨の質問をさせてもらった。「まったくありません。それを念頭に入れず選考しました」(杉中豊・近畿地区選考委員長)という返答だった。
杉中氏はさらに、「初戦のPL学園(大阪)との試合でのエース・小川君(良憲=2年)の投球を多くの選考委員が高く評価しました」と続けた。これについてはさほど奇異な感じは受けない。近畿大会の初戦は全て観たが、1回戦では近江とPLの一戦が最もハイレベルだった。小川は夏の甲子園からはほど遠い出来ではあったが、要所での投球にキャリアを感じさせた。「(小川は)立命館宇治との試合では力みから本来の力を発揮できなかった」(杉中氏)と補足したが、小川が非常に高い評価を受けていることがはっきりした。劇的な出場になったと察するだけに、センバツで成長した姿を見せるのが最大の恩返しだろう。
唯一、地域性で米子北が初陣
関東・東京と、中国・四国の抱き合わせの1校はあまり評判がよくない。どちらが強いかなど直接対決でもしない限りわからないので、つい、『出したい方を選んでいるのでは』と思ってしまう。関東・東京は、昨夏に甲子園で活躍した左腕の大江竜聖(1年)擁する二松学舎大付(東京)が、投手力を決め手にして東海大甲府(山梨)を振り切った。順当な選考と言える。一方の中国・四国は、「明徳が実力では上」(山下智茂・両地区選考委員長)と断言した上で、「山陰はあまりセンバツに出られない。そういう地区にも夢を与えたい」という『地域性』を鮮明にした理由を述べた。これはやや、近畿と事情が異なる。明徳は前チームまでの岸潤一郎(拓大進学)のような絶対的エースはおらず、「1年生の複数投手が安定感に欠ける。対して米子北は複数の投手陣が粘り強く投げた」(山下氏)とした。実は昨年も明徳は同じ状況(四国3番手評価で中国3番手との比較)で選ばれた。今回は、中国の初出場校に譲ったような格好だ。さらに、先に21世紀枠の松山東が選ばれている。中国2、四国4というのはいかにもバランスが悪い。山下氏はもちろんこれを否定したが、この地区だけ、実力と地域性の逆転現象が起こった。
今回は投手力が決め手に
ほかには東北の3校目に、八戸学院光星(青森)が。試合内容で遜色のなかった鶴岡東(山形)を上回ったのが、光星の中川優、呉屋開斗(ともに2年)の実績ある投手陣だった。これは近江の小川と重なる。東北大会を通しての投球を評価したもので、敗退した試合の印象を打ち消すに十分な内容だった。九州は、4強で九州学院(熊本)にコールド完敗した九産大九州(福岡)が辛くも選ばれた。結果だけ見れば大差試合だが、「実力はそこまで差がなかった。投手も明豊(大分)や東福岡より上」(片岡成夫・九州地区選考委員長)と説明した。試合を観ていないので深い言及は避けるが、短期間に集中して試合をする九州大会はしばしば終盤で力尽きるチームが大魚を逃がすことがあった。「4強という実績を8強止まりのチームが覆すほどではなかった」(同委員長)とも述べた。
あと、甲子園がある兵庫からは、33年ぶりに出場ゼロとなった。震災20年の節目でもあり、「枠が限られている中で、広く全国に出場校をいき渡らせたいとは思っているが、選抜されなかったことへの苦情はあると思う」と高野連の奥島孝康会長(75)は苦しい胸の内を明かした。ただ、兵庫勢は補欠校にすら名前がない。前出の杉中氏は、「比較対象になったのは、県1位校の神戸国際大付。しかし8強のチームを上回る、または同等とした委員は一人もいなかった」と補欠にも挙がってこなかった理由を説明した。近畿で、8強止まりの大阪桐蔭が4強の奈良大付よりも先に選出されたように、全体としては、実力優先の近年の選考に倣った形だが、21世紀枠が先に終わることによって、余計な疑念を抱かれるのはやむをえない。そのため、今大会の選考では、「投手力が決め手」がことさら強調されることになった。