深夜の中洲で行列を作り続ける 他とは違う餃子とラーメンとは?
中洲で知らない人がいない人気店
福岡随一の繁華街「中洲」の深夜1時。散々食べて飲み歩いた酔客たちの合言葉は「王餃子で締めようか」。店の前に出来る行列は中洲の夜の見慣れた光景。中洲で飲む人なら誰もが一度は訪れたことがある店が『王餃子(わんぎょうざ)』(福岡県福岡市博多区中洲2-5-9)だ。
深夜でも常に満席の店の厨房に立ち、手際よく鍋を振るのが二代目店主の山肩政剛さん。独学で四半世紀店に立ち続けて味と技を極めて来た。『王餃子』の創業は1964(昭和39)年のことだが、山肩さんの父親が1957(昭和32)年に広島で創業した店が源流だ。今でもその店は広島で老舗の餃子専門店として愛されている。
「父親が屋台をやっていた王さんに教えを乞うて広島で始めたのが最初だそうです。その店は親戚に譲り、自分は福岡で勝負したいと引っ越して来てこの店を始めました」(王餃子 店主 山肩政剛さん)
東京に行くか福岡に行くか。東京には澄んだ醤油ラーメンはたくさんあるから、豚骨ラーメンしかない福岡に行けば珍しさで流行るのではないか。そう考えて福岡に店を構えた山肩さんの父だったが、開業当初はまったく受け入れてもらえなかった。広島では大人気だった醤油ラーメンだが、豚骨ラーメンに慣れ親しんだ博多の人には見向きもされなかったのだ。
しかし新幹線が博多まで開通し、福岡の街に福岡以外の人たちが増え始めると徐々に客足が増えて来た。飲み屋街でもある中洲という場所柄、飲んだ締めに使われることが多く、中華の一品メニューを減らしてラーメンや餃子など締めに合うメニューに力を入れたことでさらに客足が伸びていった。今では中洲で『王餃子』を知らない人はいなくなった。
緑の皮の餃子と澄んだ醤油ラーメン
『王餃子』のメニューはどれも人気が高い。言うまでもなく「餃子」はこの店の看板メニュー。もちっとパリッとした翡翠色の皮はもちろん自家製で、皮自体にしっかりと味があるのでそのまま食べても美味しい。ニラやネギがたっぷり入った餡はさっぱりとしていて何個でも食べられる。飲んだ締めにピッタリの餃子だ。
また、豚骨ばかりの博多の街でいち早く出した醤油ラーメンもファンが多い。鶏ガラや鶏首に、餃子にも使う野菜を合わせて取った深みのあるスープにコクのある醤油ダレ。小麦が香る細ストレート麺は自家製麺。ラーメン専門店顔負けの気合いの入った一杯だ。
「ラーメンはこの店のもう一つの柱ですから、常に進化させたいと思っています。野菜汁を入れることでさらに味が深くなりましたし、麺もスープに合う麺を作ってみたくなり10年ほど前から自家製麺にしました」(山肩さん)
この店ではご飯ものも忘れてはいけない
さらにご飯ものも充実している。町中華の定番メニューでもある焼飯は、鍋肌を使ってリズミカルに焼き上げることでパラパラとした食感に仕上がっている。『王餃子』では炒める「炒飯」ではなく、しっかりと焼き上げる「焼飯」。山肩さん曰く「鍋振りの中では焼めし作りが一番難しかった」一品こそ、この「焼飯」なのだ。
山肩さんは元々この店を継ぐつもりはなかった。しかし東京で働いていた25歳の時に、父親から戻って来て欲しいと懇願されて店に入った。料理経験が全くない中、昔気質の職人たちの中で存在を認めてもらうには、自分自身の腕を上げるしかなかった。誰も教えてくれない中で炒め物など鍋振りのメニューと格闘する毎日。店で長く働く先輩職人たちが声をかけてくれるまでに一年近くかかった。
「お店の売り上げを上げるためにメニューを提案したら、職人さんが『やりたいならお前がやってみろ』と言われて、こちらも意地になって『明日から僕がやる』と宣言して。一年近く一人でやっていた時に『何か手伝おうか?』と言われた時は嬉しかったですね」(山肩さん)
老舗が新たに挑む「隠れ家ダイニングバー」
創業して半世紀以上の『王餃子』だが、コロナ禍の中で新たなチャレンジを始めた。2020年11月、同じビルの地下に開業したのが『DINING BAR WAN』(福岡県福岡市博多区中洲2-5-9)。『王餃子』は古き良き昭和の町中華という佇まいだが、こちらは一変してスタイリッシュな雰囲気の隠れ家ダイニングバーだ。
もちろんこの店オリジナルのメニューもあるが、餃子や焼飯など『王餃子』の人気メニューを全て注文出来るのも魅力のひとつ。町中華と隠れ家ダイニングのギャップの楽しさ。メニューを見て初めて王餃子の姉妹店であることに気づく人も少なくない。
店を継ぐつもりのなかった山肩さんも、気がつけば四半世紀厨房に立ち、50歳を超えた今も元気に、1階の中華と地下のダイニングを行ったり来たり忙しく動いている。そして今では三人の息子さんたちも店に入って、山肩さんと一緒に働くようになった。
「飲食は大変な仕事なので最初は反対もしたのですが、やはり継いでくれる嬉しさもありますね。いつかは息子たちに店を任せて、違った世界も見てみたいと思っています」(山肩さん)
※写真は筆者によるものです。
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