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ギラヴァンツ北九州:前田央樹 防戦覆す決勝点! 今季最多1万3千人、勝利に酔う

上田真之介ライター/エディター
恒例の勝利のジャンプ!=25日、小倉北区(筆者撮影。この記事の他の写真も)

 J3ギラヴァンツ北九州は8月25日、ミクニワールドスタジアム北九州(ミクスタ、北九州市小倉北区)でAC長野パルセイロと対戦し、1-0で競り勝った。ギラヴァンツはこの日の試合を「ギラフェス」として、さまざまなイベントを開催。試合後には花火が上がり、今季最多の約1万3千人が集まったスタジアムは、勝利の余韻に包まれた。

明治安田生命J3リーグ第20節◇北九州1-0長野【得点者】北九州=前田央樹(後半21分)【入場者数】12812人【会場】ミクニワールドスタジアム北九州

【おことわり】入場者数の当初発表は1万3312人でしたが、2018年9月7日に訂正の発表があり「1万2812人」に変更となったため(クラブ発表)、当該部分を修正します

柱谷哲二監督流の「4-4-2」

 J3リーグは1カ月間の中断期間を経て、ギラヴァンツは先週、長野は今週の試合でシーズンが再開した。

 ギラヴァンツは成績不振で6月に監督を交代。就任した柱谷哲二監督はこの1カ月間、長いオフは設けずにチームの再構築を図った。成果は現れており、前週の鹿児島ユナイテッド戦は0-0のドローに終わったものの、得点につながるようなチャンスは増え、3位鹿児島と十分に対等に渡り合った。

村松大輔(中央)はゲームメーカーを担う
村松大輔(中央)はゲームメーカーを担う

 柱谷哲二監督は就任以降、一貫して「4-4-2」のシステムを採用している。堅守速攻をストロングポイントとした柱谷幸一監督時代(13年~16年シーズン)も「4-4-2」だったが、特徴は異なる。

 柱谷幸一監督は8枚の低重心のブロックを築いて失点を抑え、試合終盤を中心にカウンター攻撃で反転攻勢。前線の強力なFW陣にゴールを狙わせ、勝ち点を重ねた。

 一方で柱谷哲二監督の戦術では両サイドにスピードのある選手を置き、ボランチの村松大輔に効果的にボールを配らせている。ボランチからサイドへとサッカーを広げる攻撃型のスタイルだ。サイドハーフの安藤由翔、井上翔太はカットインする動きを得意とし、自ら中央へと持ち込むほか、サイドバックの浦田樹、野口航がオーバーラップして動きをサポートする。

 攻撃に人数を割いている分だけリスクもあり、GK高橋拓也の好セーブに救われるシーンが多いのも事実。ただ、サッカーそのものの魅力は増し、ゴール前のプレーが増えて、ダヴィ、池元友樹などFW陣の動きも良くなっている。

前半は一方的な長野ペース

 長野戦も、村松からサイドに展開できるか、そしてサイドの選手たちがボールを相手陣深くへと運んでいけるかが試合のカギを握るはずだった。

 ところが、ギラヴァンツは前半から思わぬ苦戦を強いられる。開始直後から長野に攻め込まれると、前半4分には東浩史のシュートでゴールを脅かされるほか、前半15分までにサイドからのクロスを起点に何度もペナルティーエリア内まで持ち込まれてしまう。

混戦の中から打たれたシュートをセーブする高橋拓也(中央)。サポーターも息をのんだ
混戦の中から打たれたシュートをセーブする高橋拓也(中央)。サポーターも息をのんだ

 東などの枠を捉えられたシュートは高橋がセーブするが、その高橋が「取ったボールをしっかりつなげなかった。大観衆の中でプレーした経験のない選手が多く、ミスから失点したくないという気持ちが優先していた。これをきっかけに成長してくれれば」とチームを表現したように、ピッチをぐるりと包んだほぼ満員のスタジアムが若い選手にとってはプレッシャーに。特に守備陣はプロ1、2年目の選手が多く、リズムをつかめないままゲームを進めてしまう。

 大声援は試合の進展とともに「後押し」になっていくが、慣れるまではFWも下がってケアをする必要があった。ただ、結果的にはフィールドプレーヤー全体が自陣に張り付けになり、縦に狭く、横に広いアンバランスな陣形を継続。セカンドボールを回収できないばかりか、距離感の悪さが災いしてパスも全く通らなくなった。前半を通して長野に7本のシュートを打たれる一方、ギラヴァンツは井上翔太のミドルシュート1本のみ。防戦一方の状態は前半終了まで続いた。

 それでもディフェンス陣の集中は途切れず、ほとんど崩されたような場面であっても、シュートコースは限定した。「前半は苦しいゲームで、ほぼ完璧にやられた状態。よく選手たちが耐えてくれた」(柱谷哲二監督)。繰り返されたピンチをぎりぎりのところではねのけ、ハーフタイムに入っていく。

選手交代でギラヴァンツに勢い

柱谷哲二監督はハーフタイムで戦術とメンタルの両方を修正
柱谷哲二監督はハーフタイムで戦術とメンタルの両方を修正

 闘将としても知られる柱谷監督。「この15分のインターバル(ハーフタイム)で流れを変える」「コミュニケーションを取ってしっかりパスをつなぐ。取られたら取り返す」とハーフタイムで指示を飛ばし、選手に前を向かせて、後半のピッチに送り出した。

 後半はギラヴァンツがゲームを支配するようになる。前半の決定的なチャンスを決めきれなかった長野は運動量が落ち、ずるずると重心が低下。フォーメーションはかみ合っていたものの、長野はギラヴァンツの選手に付ききれなくなる。

 対するギラヴァンツは中盤に余裕が生まれ、ボランチを経由するパスが増えたり、村松自身が前線に入る機会が増加。川上竜からのロングフィードをダヴィが収めるという中盤を省略してのチャンスも作る。

 さらに後半19分、柱谷監督は「相手の運動量が落ちてきて、ボランチの脇が空き始めていた」と状況を分析し、そこを使える選手として川島大地、縦のスピードを倍加させる前線のキーマンとして前田央樹を同時投入する。

 運動量の落ちた相手に対して、両選手の起用は効果的だった。

ゴールを喜ぶ前田央樹(左から2人目)
ゴールを喜ぶ前田央樹(左から2人目)

 投入直後から決定機を創出。右に開いた村松がクロスを送ると、これに前田が飛び込んで早速ゴールに迫る。このシーンはギラヴァンツでのプレー経験がある長野のGK阿部伸行が立ちはだかるが、その反復攻撃から川島が素早くセンタリングを供給、再び反応した前田がヘディングで左隅を突き、ギラヴァンツが先制した。

 「思いきりシュートを打ってこいと言われた。今日は(背番号と同じ)25日だったので『前田の日』かなと思ったら、本当に『前田の日』になった」。笑顔を見せた前田は、これが3月17日のホーム開幕戦以来のゴール。呼び込みつつあったギラヴァンツへの流れを確かなものにした。

 長野は有永一生、津田知宏などをピッチに立たせ、最終盤はセットプレーで好機を作るが、ゴールは最後まで割れなかった。

 ギラヴァンツは「(前田)央樹とは小学校からずっと一緒にやっているので、決めてくれればうれしい。その分、後ろが絶対にゼロで押さえられれば勝てるという展開になった。最後はそれに集中した」(川上)と体を張って1点を死守。1-0で中断明けの初勝利を飾った。

柱谷哲二監督就任以降、5戦負けなし

1対2でもボールを確保するダヴィ。攻撃の中心を担う
1対2でもボールを確保するダヴィ。攻撃の中心を担う

 4試合連続で無失点、5戦負けなしと上向いている。

 柱谷監督はメンタリティーの改革をすると同時に、アクションを起こすサッカーを実践し、選手たちはハードワークで食らいついている。

 前半は後ろ向きになってしまったのは否めないが、後半は二つのサッカーでベクトルが前を向いた。一つは、村松、藤原奏哉などボランチを起点にサイドを生かしてゲームを動かすという地上戦。もう一つは技術や身体能力だけでなく闘志でも抜け出た存在のダヴィをターゲットに、縦に早く攻めるというサッカーだ。遅攻と速攻という分け方は的を射ないかもしれないが、それぞれの判断をチームで意識統一し、後半は相手を上回るパフォーマンスを見せた。

キャプテンの川上竜は静かに花火を見上げ、勝利をかみしめた
キャプテンの川上竜は静かに花火を見上げ、勝利をかみしめた

 満員のスタジアムという慣れない環境の中、前半を無失点で切り抜けられたことも、今後の試合にはつながるだろう。ギラヴァンツは順位は16位のままだが、勝ち点差を着実に縮めている。9月2日に敵地で上位のアスルクラロ沼津と対戦。翌週の8日はミクスタでの試合となり、カターレ富山を迎える。9月はホーム戦が3試合と多く、勝利を重ねて順位を上げていきたい。

 「次の試合もゼロで抑えるというミッションを楽しみながら、またサッカーをしたい」。そう話した川上は、勝利を祝うような大輪の花火を目を細めて見上げていた。

今季最多集客。次戦につながるか

 8月25日の試合を「ギラヴァンツ サマーフェスティバル」(ギラフェス)と位置づけ、来場者に特別ユニホームをプレゼントしたり、花火を打ち上げたりと、イベントを多彩に行った。スタジアムには約1万3千人が訪れ、今季最多の集客となった。

 この日に向けて積極的なプロモーションを行い、小倉駅や黒崎駅、市内のショッピングセンターなどで連日、チラシを配ってPR。小倉都心部ではバスシェルター(バス停の上屋)に選手写真を使用した大判広告を掲出して、認知度向上を図った。SNSを活用したり、テレビの情報番組に柱谷哲二監督が自ら出演するなど、選手、監督が先頭に立っての呼びかけも奏功した。

ハイタッチで応援に応える選手たち。先頭は前田央樹
ハイタッチで応援に応える選手たち。先頭は前田央樹

 「選手が12人いるんじゃないかというくらいに、サポーター、ファンのみなさんのおかげで前半をゼロに抑えられた。選手がうらやましかった。その中で僕も選手としてやりたかった」。柱谷監督は応援の力を勝因の一つに挙げ、試合後にはスタンドに向かって頭を下げて感謝を示した。

 課題は次の試合の集客につなげられるかだ。昨シーズンも同様のイベントを開催して1万3千人を集めているが、その後の集客には必ずしもつながらなかった。

 イベントは到達点ではなく、より大きく、より強くなるための通過点。今年は違うということを示せるか。チームには結果が求められるが、今後のクラブやサポーターの草の根の活動もいっそう重要になってくる。

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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