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トム・クルーズ来日で、いつも横にいた大好きな「あの人」の姿が今回は……

斉藤博昭映画ジャーナリスト
『トップガン マーヴェリック』来日記者会見(YouTubeより)

新型コロナウイルスのパンデミックが落ち着き、ハリウッドスターの来日も徐々に復活してきたが、大物中の大物、トム・クルーズが5/27公開の最新作『トップガン マーヴェリック』を引っさげて日本に到着。ついに映画界も以前の日常を取り戻してきた感がある。

5/23に東京・六本木で、プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーとともに記者会見に臨んだトムだが、コロナ前の来日時(前回は約4年前)と大きく違っていた点がある。トムの横にいる通訳だ。トム・クルーズといえば、来日のたびに通訳を務めていたのが、字幕翻訳家としても知られる戸田奈津子さん。トムは「日本の母」と呼ぶほど彼女を慕っており、当然のごとく来日のたびに“ご指名”で通訳もお願いしてきた。トムと戸田さんの2ショットは、映画業界では不変の風景だったわけだ。

この風景は映画業界での「常識」だった。2014年、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の来日会見より
この風景は映画業界での「常識」だった。2014年、『オール・ユー・ニード・イズ・キル』の来日会見より写真:アフロ

しかし戸田奈津子さんも現在、85歳。さすがに一緒に舞台に立って通訳を務めることが難しくなったのか、今回は別の方がトムの通訳だった。映画業界には有能な通訳が何人もいるので、まったく問題ない。むしろ戸田さんは字幕が専門。しかしトムのように彼女と親しくなったスターたちは、横に一緒にいて通訳してもらうことで安心感やリラックスを得られるようだ。こうした戸田さんへの信頼は絶大で、たとえばニューヨークでラッセル・クロウの日本人向けインタビューが行われた際に、気難しいと評判だった彼の機嫌を損ねないよう、わざわざ戸田さんを日本から連れて行く……なんてこともあった(そのおかげかどうか、取材は順調に終わった)。

また、公私ともに親しくなったスターも多く、とくにリチャード・ギアは結婚式にも呼ばれ、ニューヨークへ行くたびに自宅に招かれるほどの仲。故ロビン・ウィリアムズは来日の際に京都などの旅行にも付き添ったりして家族ぐるみで親しくなったというし、そのほかハリソン・フォードなど仕事を超えた関係を育んでいた。トム・クルーズも、何か機会があるごとにカードやギフトを戸田さんに送っていたのは有名な話だ。

2008年、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』でハリソン・フォードの通訳を務める
2008年、『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』でハリソン・フォードの通訳を務める写真:Takashi Watanabe/AFLO

今回、トム・クルーズの通訳から離れた戸田奈津子さん、ではお元気なのか? 数年前、ちょっと耳が遠くなってきたので通訳が難しいと、映画会社の関係者から聞いたこともある。心配したところ、この日の記者会見の関係者席に戸田さんの姿が! ステージ上から彼女に気づいたトムは、自身の答えが訳されている間などに、戸田さんに向かって手を振り、変わらぬ愛情をアピールしていた。会見場から出て行く時もスタスタ歩いており、元気そう。おそらく今回は、仕事を離れて2人は旧交を温めるに違いない。

そして戸田さん、字幕翻訳の仕事はまだまだ現役。今回の『トップガン マーヴェリック』はもちろん、夏の大作『ジュラシック・ワールド/新たなる支配者』でも字幕翻訳でクレジットされている。かつて『ロード・オブ・ザ・リング』などで、戸田さんの字幕が映画ファンからツッコミを入れられ、今で言う炎上案件として語り草になったので、『トップガン マーヴェリック』には元航空自衛隊空将の永岩俊道氏が、『ジュラシック・ワールド』も専門家が字幕監修に加わり、万全の体制ではある。いずれにしても字幕翻訳の仕事を世に知らしめた功績は大きいし(味わい深い訳も多い。そこに賛否両論もあるが)、何よりハリウッドスターの素顔とその歴史を語り継ぐ“伝道者”として、まだまだ活躍してほしいと切に願うのである。

2009年、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』でブラッド・ピットの通訳を務める戸田奈津子さん
2009年、『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』でブラッド・ピットの通訳を務める戸田奈津子さん写真:アフロ

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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