「続編」にくっきり分かれた明暗 【2024年映画】
2024年に公開された映画、特にハリウッド作品は「続編」「パート2」が年間の興行を特徴づけることになった。
シリーズや続編に頼ってしまうのは、何も今に始まったことではないが、2024年はその成功/残念がくっきりと分かれた年として記憶されるだろう。
まず成功作は『インサイド・ヘッド2』。
日本での興行収入は53.5億円を稼ぎ、年間の6位。洋画では1位。世界の興行収入でも年間1位を確実にしている。
ディズニー/ピクサーの新作アニメとしては、昨年(2023年)の『マイ・エレメント』が27億円、2022年の『バズ・ライトイヤー』が12.2億円だったので、その“復活”ぶりが凄まじい。ピクサー作品はかつて100億円に到達するケースもあったので、そこまでは行かずとも、前作『インサイド・ヘッド』が40.4億円だったので、それを上回ったのだから大成功と言える。
同じパターンをたどっているのが、やはりディズニーのアニメ続編『モアナと伝説の海2』。12/6に公開され、3週目で早くも25億円を突破。『インサイド・ヘッド2』は3週目で30億円を超えているのでやや少ないが、これから年末年始の休日に入るので同等の50億円あたりが射程に入っている。こちらは前作『モアナと伝説の海』が51.6億円だったので同レベルの数字が期待される。
『インサイド・ヘッド』は1作目と続編の間が9年、『モアナ』は8年。かなり長いが、これはディズニーが続編をヒットさせるうえでの必須条件。テーマパークやグッズなど多方面で時間をかけて世界観、キャラを浸透させるので、1作目を知らない層にも続編を強くアピールできる。特に『モアナ』は前作がディズニープラスの配信で、同社で最も視聴された1本になっており、劇場公開時以上に多くの人に人気を集めたことが、今回の続編に好影響を与えたようだ。
コロナ禍、ディズニーは劇場公開せずに自社の配信で話題の新作を届けるケースも目立っていた。これによって一時、映画館=興行側との対立も鮮明になったこともあったが、こうして特大ヒットを出す可能性のあるディズニー作品が、興行側に歓迎されるスタンスを取り戻したと言えそう。
このようにアニメ続編が「明」だったのに対し、2024年、期待された実写の続編は「暗」の傾向となった。
最も注目されたのは『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』だった。2019年の前作『ジョーカー』が日本でも興収50.6億円という大ヒット。ちょっとした社会現象にもなり、主演のホアキン・フェニックスがアカデミー賞主演男優賞に輝くなどして、5年ぶりの続編も2024年の洋画を代表する作品になる予想もあった。しかし先に公開されたアメリカなどでの評判が芳しくないことも伝わり、結果的に興収は11.5億円だった(それでも日本は他国と比較すれば健闘した)。基本的に続編が数字を落とすのは通例とはいえ、その落差が大きかったのは、ちょっと残念。
『ジョーカー』ほどの数字ではないが、映画ファンを中心に熱いブームを起こしたのが、2015年の『マッドマックス:怒りのデス・ロード』。当初の予想を大きく上回る興収18.1億円を記録したことで、9年ぶりの続編『マッドマックス:フュリオサ』が近い数字を目標にしていたものの、およそ半分の9.7億円までしか届かなかった。内容的にも前作ほどの熱狂は生まず、ディズニー作品と違って時間のブランクも影響した気がする。
24年ぶりの続編ということで期待を背負ったのが、『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』だった。前作『グラディエーター』はアカデミー賞で作品賞、ラッセル・クロウの主演男優賞などに輝き、日本でも「大好きな作品」という声を頻繁に聞いていた。ただ1作目は興収15.6億円で年間25位と、そこまでの大ヒットではない。『グラディエーターⅡ』は、公開前に東京国際映画祭に合わせてメインキャストが来日。実写洋画としては2024年随一ともいえる大がかりなプレミアイベントも行われ、ヒットへの道標が作られた。しかし公開6週目で5.5億円(12/28現在も上映中)までしか到達していない。『グラディエーターⅡ』は『ジョーカー』続編と違って、作品への評価も高く、アメリカほか各国では興収も好調なので、日本での数字は無念である
続編では、2024年の世界興収で5位という大ヒットの『デューン 砂の惑星PART2』も日本での興収は7.7億円にとどまった。2021年の前作が7.6億円なので想定内とはいえ、世界と日本の“格差”が浮き彫りになっている。『デューン』続編は前作に続いてアカデミー賞に絡む予想がされるなど、圧倒的な評価を受ける。
その意味で『ゴジラvsコング』の続編である『ゴジラxコング 新たなる帝国』は3年前の前作が興収19億円、今回が17.1億円と「まあまあ」の成績と言ってよさそう。公開の直前にアカデミー賞で日本の『ゴジラ-1.0』が受賞したことも追い風になった気がする。
こうして2024年の日本での続編の興行は「アニメ」と「実写」ではっきり明暗が分かれた。現在の映画館におけるメインの観客層の志向の表れが、ますます顕著になっているのがよくわかる。ここ数年、「洋画の実写は観ない」という声をよく聞くようになったが、そのような“残念”な固定観念に支配された人たちが今後も増えていくのだろうか。あるいは2025年以降、この傾向を少しでも変えるような何かは起こるのか──。