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今の職場って安全なの?妊娠・出産を考える女性の健康のために安全な職場環境とは

重見大介産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士
(写真:アフロ)

国内の女性労働者数は年々増加しており、平成30年の女性の労働者率(15歳以上の人口において)は52.5%と、およそ女性の半数が労働していることになります。

また前年との比較では、労働者増加率は男性に比べて女性で高く(女性1.4%vs 男性0.7%)、女性がより積極的に社会で活躍してきていることがわかります。

さらに、20歳から45歳までの年齢の女性の約8割が労働者であるというデータもあり、生殖可能年齢(妊娠が可能な年齢)に当たる女性の多くが労働をしていると考えられます。(文献1)

しかし、職場の環境は、必ずしも女性にとって安全とは限りません。

有害物質への暴露や感染症の危険性など、労働環境が女性の妊孕性(にんようせい:妊娠するための能力)や妊娠経過に悪影響を与えたり、お腹の赤ちゃんや家族に害をもたらしたりする可能性もあるのです。

今回は産婦人科医の目線から、職場環境が妊娠や赤ちゃん、家族の健康へ与えうる影響や、原因、予防方法などについて説明いたします。

職場で問題となりうる「生殖ハザード」とは

男女の健康的な生殖機能や妊娠経過を脅かす物質や要因は「生殖ハザード」(生殖への危険性)と呼ばれています(以降、本記事では「危険因子」と表記します)。

例えば、よく知られている危険因子の例として、

・放射能

・タバコ(加熱式タバコや受動喫煙を含む)

・アルコール

・一部の薬剤

・一部のウイルス

などがあります。

これらの危険因子は、女性の性ホルモン分泌をコントロールする仕組みに影響を与えてホルモンバランスを乱したり、卵子や精子を傷つけることで不妊の原因となったり、妊娠中にさらされると有害物質が胎盤から赤ちゃんへ移行して影響を及ぼしたりする危険性があります。

これらの危険因子は、以下のような疾患や合併症の原因となります。(2)

・妊娠率の低下や不妊症

・勃起不全

・月経不順や排卵障害

・性ホルモンバランスが乱れることで生じる女性の健康問題

・流産

・死産

・早産や低出生体重児

・催奇形性(胎児の形態的な異常)

・子どもの発達障害

職場には、通常の日常生活で暴露する心配があまりないような危険因子が存在します。これには、有害な化学物質やウイルスだけでなく、騒音、長時間勤務や肉体労働も含まれます。

危険因子の具体的な例は、以下のようなものがあります(表参照)。

ただし、化学物質の中にはまだ健康への影響がわかっていないものもたくさんあるため、表にない化学物質が安全だと断言できるわけではないので注意が必要です。(文献3)

画像制作:Yahoo!ニュース
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有害物質やウイルスはどのような経路で体内に侵入するの?

危険因子が体内に入り込む経路は主に3つあります。

① 空気と一緒に吸い込む(経気道的)

② 皮膚を介して入り込む(経皮的)

③ 口を介して入り込む(経口的)

有害物質やウイルスによって侵入経路は異なるため、暴露されるリスクの高い職業の方は、その特徴を理解して予防することが必要です。

有害物質やウイルスが体に付着していた場合、そのまま家庭に持ち込んで、家族にも暴露させてしまう危険性があるため、まずは自分が暴露しないことが重要です。

危険因子から身を守る為に何ができる?

①職場の安全性を確認しましょう

法律により、労働者は職場の危険性に関する情報を得る権利や安全のためのトレーニングを受ける権利があります。勤務先の企業や安全管理者に、自分の仕事に関係し得る危険因子についての情報や、安全に仕事ができる方法について相談してみましょう。

②防具で自分自身を危険因子から守りましょう

もし、業務中に手袋、ガウン、マスクなどの防具が与えられていれば、それを適切に使用しましょう。「安全性に疑問がある」「防具のサイズが合わない」などがあれば早めに安全管理者に相談して下さいね。

③危険物質の取り扱いを正しく行いましょう

安全のためのプロトコールやガイドラインを遵守することが大切です。もし職場が安全のためのトレーニングを実施している場合には、ぜひ積極的に受けましょう。

④手指衛生を心掛けましょう

リスクのある作業を終えた後や職場を離れる時は、しっかり手を洗いましょう。食事のときに口から有害物質を取り込んでしまうことや、家に持ち込んでしまうことを防ぐためです。

それでも心配な場合やわからないことがあれば、医師や専門家に相談しましょう

もし自分の健康への影響が不安だったり、妊娠希望中・妊娠中・授乳中だったりする場合は、産婦人科などの専門家に相談することをお勧めします。

自分の職場でどんな危険因子があり得るか、それについて対応すべきことはあるか、など専門的な立場からの意見をもらいましょう。

また、もし妊娠中にこのような危険因子にさらされる恐れがある場合は、職場に相談して業務や担当を変更してもらうことができます。

また、妊娠経過によっては、医師に「母体健康管理指導事項連絡カード(通称;母健カード)」を記載してもらうことで、妊娠中でもより安全性に配慮しながら仕事を続けることができます。

母健カードは以前からある制度で、医師から妊婦さんへの健康指導事項を、事業主に適切に連絡するための手段です。

妊娠中の様々な症状やその標準的な対処方法が示されており、事業主はその指導内容に基づいて、必要な措置をとることが義務付けられています。

【母健カード記載例】

(相談事項)

長時間の立ち仕事で子宮が張りやすい

(指導例)

立ち仕事のより少ない業務への変更、勤務時間の緩和など

また、妊婦が新型コロナウイルスに感染して肺炎を発症すると、重症化や早産のリスクが高まると考えられていることから、より感染リスクが少ない業務への変更や、一時的に休暇をとるために母健カードを記載することも可能です。(文献4)

<参考記事>

「働くプレママが活用できる社会制度とは」(産婦人科オンラインジャーナル)

「新型コロナウイルス感染が心配される今こそ知っておきたい、働く妊婦さんを守る母健連絡カード」(産婦人科オンラインジャーナル)

いかがでしたか?

生殖ハザードの怖さは、健康に被害がでるまで、目に見えなかったり存在感がなかったりして、知らないうちに身体へ影響を与えてしまうことです。

そのため、ご自身がまず職場の安全性を確認することが大切です。

ご自身や将来のお子さん、今いるご家族の安全・健康のために、今一度、職場の安全性について考えてみてくださいね。

参考文献:

1. 厚生労働省. 働く女性に関する対策の概況(平成15年1月~12月).

2. Centers of Disease Control and Prevention. ”REPRODUCTIVE HEALTH AND THE WORKPLACE”

3. National Institute for Occupational Safety and Health ”The Effects of Workplace Hazards on Female Reproductive Health”

4. 厚生労働省. 女性労働者の母性健康管理等について.

産婦人科専門医 / 公衆衛生学修士 / 医学博士

「産婦人科 x 公衆衛生」をテーマに、女性の身体的・精神的・社会的な健康を支援し、課題を解決する活動を主軸にしている。現在は診療と並行して、遠隔健康医療相談事業(株式会社Kids Public「産婦人科オンライン」代表)、臨床疫学研究(ヘルスケア関連のビッグデータを扱うなど)に従事している。また、企業向けの子宮頸がんに関する講演会や、学生向けの女性の健康に関する講演会を通じて、「包括的性教育」の適切な普及を目指した活動も積極的に行っている。※記事は個人としての発信であり、いかなる組織の意見も代表するものではありません。

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