井上尚弥の近未来の標的はイケメンボクサー WBOフェザー級王者ラファエル・エスピノサ単独インタビュー
12月7日 アリゾナ州フェニックス フットプリントセンター
WBO世界フェザー級タイトル戦
王者
ラファエル・エスピノサ(メキシコ/30歳/25-0, 21KOs)
12回戦
前王者
ロベイシ・ラミレス(キューバ/30歳/13-2, 8KOs)
メキシコの新スター候補の最新試合が今週末に迫っている。
それまで無名の存在だったエスピノサは昨年12月9日、評価が高かったラミレスに判定勝ちで初戴冠に成功。両者がダウンを応酬しての激闘は多くの媒体から年間最高試合に選ばれ、新王者の知名度も一気に上がった。
今年6月、セルヒオ・チリーノ・サンチェスとの初防衛戦でも4回TKOで圧勝。ここで実力を改めて証明し、勢いに乗るエスピノサとラミレスの楽しみな再戦が2024年最後のトップランク興行でセットされるに至った。
身長185cm、リーチ188cmと破格のサイズに恵まれた通称”El Divino”は底知れない強さを感じさせる。セコンドでサポートする帝拳ジムの田中繊大トレーナーによると、「家族に恵まれ、性格がよく、見た目もいい。歌が上手く、楽器も弾けて、サッカーもプロ級という漫画みたいなボクサー」。このまま勝ち続ければ、人気王者として確立されていきそうだ。
ただ、リオ五輪金メダリストのラミレスももちろん侮れない強豪である。リマッチは再び好ファイトとなることが濃厚。この大事な一戦を前に、単独インタビューでエスピノサにじっくりと話を聞いた。
以下、英語/スペイン語通訳を通じての一問一答
運命の再戦を前に
――ラミレスとのリマッチ直前ですが、今のコンディションはいかがでしょう?ESPNで再び全米中継されるビッグステージで何を見せたいと感じていますか?
ラファエル・エスピノサ(以下、RE) : 準備はできていますよ。力強く感じることができていますし、また勝者になれる日が待ち遠しくてなりません。再戦でも私がハートの強さとボクシングスキルを持っていることを示し、第1戦での勝利がまぐれではないと示したいと思っています。これからも勝ち続けるだけの強さを持ったボクサーであると証明したいですね。
――ラミレスとの初戦は素晴らしい試合になりました。今、改めてあの戦いを振り返り、何を思い出しますか?
RE : あれは“私のための夜”でした。それを真っ先に思い出します。あの夜、私を倒せるボクサーはどこにも存在しませんでした。いくつかのミステイクも犯しましたが、再戦ではもうそれはあり得ません。間違いなくもう一度、私が勝ちますよ。
――第1戦前はラミレスの評価が高く、あなたはアンダードッグでした。下馬評を覆して勝った背景で、具体的に何がうまくいったのでしょう?
RE : もともと私にはそれだけの力があったのだと思います。ダウンを喫した際に足を痛めるというアクシデントもありましたが、それでも戦い続けることでハートの強さを見せられたはず。また、フィジカルのコンディションが良かったのも事実です。それらが私の勝利を助けてくれたのです。
――先ほど、ミスを犯したという話もしていましたが、ダウンを奪われた際のことでしょうか?あのラウンド、いったい何が起こったのでしょう?
RE : 5ラウンドまでは快適に戦うことができていました。私のペースで試合は進んでいたはずです。ところが5回終盤、一時的にサウスポーで構えたあとにまたオーソドックスにスタンスを変え、同時にガードを下げてしまいました。その瞬間、パンチを浴びたのです。間違いなく私が犯したエラー。スタンスを変えるなら、少なくともガードを上げておかなければいけませんでした。ラウンド終盤に気を抜いてしまったのが原因です。
――ミスをなくすのは前提として、今回も基本、同じように戦えば勝てると考えていますか?それとも再戦では新しいスタイルも必要なのでしょうか?
RE : 毎試合、違いが出てくるものです。どんな戦いになっても適応できるように、さまざまなスタイルを準備しておきますよ。私はアウトボクシングができますし、前に出て戦うこともできます。試合当日、リング上でどうすべきかを見極めることになるのでしょう。
――今戦ではKO勝利は意識しますか?
RE : 私の目標は勝つことです。自分が何をするつもりだと話すのは好きではありません。ここで言えるのは、今の私は第1戦の頃と比べて3倍は強くなっているということ。より強烈なパンチが打てているという自負もあります。今回も私が勝ちますよ。
田中繊大トレーナーはファミリーの一員
――どんな戦いもできると話していましたが、実際にあなたはフェザー級では破格の長身であるにもかかわらず、インサイドで戦うこともできます。多才な能力の中で、誇りに思っているのはどの部分でしょうか?
RE : ハートの強さです。私は決して諦めることはなく、そこにプライドを感じています。私には精神力があることは自分自身ではわかっていましたが、ラミレス戦でそれを世界にお見せできたことを嬉しく思っています。
――それだけ背が高いと体重調整は大変なのかなと想像しますが、普段はどのくらいの体重なのでしょう?
RE : いつも規則正しく過ごすようにと心がけていて、だいたいフェザー級のリミットから5、6キロを超えたところで止めるようにしています。
――あなたの試合のたびに帝拳ジムの田中繊大トレーナーが海を渡り、トレーニングを手助けしています。田中トレーナーとの関係をどう表現しますか?
RE : センダイに初めて会った時、「日本語を話せるんですか?」と訊いたら、「いえ、スペイン語しか話せません」と言われたのをよく覚えています(笑)。そう、実際には両方の言葉を話せるのに、彼はジョークを言っていたのです(笑)。それはさておき、センダイとは過去10年、一緒にトレーニングしてきました。私の家に一緒に住んでいましたし、もう家族の一員です。今ではチームの一員となり、マニー・ロブレス・トレーナーとともに練習を助けてくれています。彼がファミリーとなってくれたことが本当に嬉しいし、その存在は大きな支えになっています。
――田中トレーナーの指導者としての素晴らしさはどこにあるのでしょう?
RE : 規律のしっかりとしたトレーナーです。ロードワーク時、彼は私たちと一緒に走ってくれます。また、彼の計画的なトレーニングからは多くを学べますし、私にとってその規律正しさは重要なこと。常に私にモチベーションを与えてくれる人でもあります。
井上戦、そしてシンガーとして
――今のあなたはラミレス戦に集中していますが、将来のことも訊かせて下さい。近い将来、井上尚弥がフェザー級に上がってくる可能性があります。もう何度も問われていると思いますが、“モンスター”との対戦に興味はありますか?
RE : パウンド・フォー・パウンド最高級のボクサーとの対戦は私の目標の1つであり、夢でもあります。もちろん井上と戦いたいですよ。仰る通り、今の私は目の前の試合だけに集中していますが、将来的にはもちろん問題ありません。
――“モンスター”に関する質問をもう一つだけ。同じ世界王者であるあなたから見て、井上のすごさはどこにあるのでしょう?
RE : フットワークが素晴らしいし、強打の持ち主でもあります。しかも階級を上げながら勝ち続けているのだから、私も彼のことをリスペクトしています。本当にすごいボクサーです。
――田中トレーナーからあなたは「何でもできる世界王者だ」と聞いています。それだけ多才なあなたがプロボクシングの道を選んだ理由とは?
RE : 私の祖父は家族の反対でボクシングを続けられなかったのです。父親も同じ状況でした。だから家族ができなかったことを私がやり遂げたいと考えるようになり、それが最大の理由です。こうしてボクシングを続ける過程で、世界王者になることが自分自身の目標になりました。今ではその目標を達成し、これからまた新たな目標を自分に課していきたいと思っています。
――夢を叶えた後で、現時点での目標とは?
RE : 統一王者になることです。ビッグファイトのリングに立ちたいですね。大きな試合をこなすことで、周囲の人々に還元していきたいというのが私の願い。人々を助け、その人生、生活に何らかの影響を与えられたら最高です。
――あなたの歌唱力の高さは私も映像で見て知っています。プロボクサーとして活躍したあとは、プロのシンガーになることも考えているのでしょうか?
RE : しっかりとした会社からいい契約をオファーされたら、もちろんやりますよ。日本の会社がメキシコ人歌手を探しているのであれば、喜んで引き受けます(笑)
――いずれ日本で試合をする日が来たら、ぜひリング上で歌って下さい。
RE : それはいずれぜひやりたいと思っていること。日本での試合時がその機会になるのかもしれませんね(笑)