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モハメド・アリの一人芝居がオフ・ブロードウェイに登場 “ザ・グレーテスト”はどう描かれるか

杉浦大介スポーツライター

 年の瀬も差し迫った12月中旬、モハメド・アリの人生を綴った舞台「The One」がニューヨークのオフ・ブロードウェイで公開される。

 プレミア公演は12月14、16、18、20日の4回。フランス人ディレクターのデビッド・セレノはこの道25年の大ベテランだ。

 「私はいつでも波瀾万丈の人生に惹きつけられる。最初から最後まで順風満帆の物語よりも、倒れても、倒れても立ち上がり、また大きくなるストーリーを魅力的に感じるんだ。ボクシングこそが最も劇的なスポーツ。中でもアリはシェイクスピアのストーリーの登場人物のようだ。もしもシェイクスピアがこの世に生きていたら、アリの芝居を作っていたはずだ」

 1981年にパリで生まれ、2001年にニューヨークに移住したという43歳のセレノはアリを題材に選んだ理由をそう説明する。これまでナポレオンやベートーベンをモチーフにした舞台も成功させてきたフランス人監督は、“ザ・グレーテスト”への強烈な思い入れを隠そうとしない。

 「アリの人生はどこを切り取っても興味深い。人種差別に苦しみ、ボクサーとして活躍した後も徴兵を拒否してタイトルを失った。ジョージ・フォアマン、ジョー・フレイジャーといったライバルとの対戦の多くが海外で挙行されたというのも象徴的だ。それらを通じて、アリは世界的なアイコンになっていった。iPhoneを作り上げたわけでも、何かを発明したわけではなく、ルイビル出身の1人の男が拳だけで世界で最も有名な人間になったのはとてつもないことだ」

写真:ロイター/アフロ

 これまでアリの人生は多くの映画、ドキュメンタリー、書籍などで語られてきた。今回、セレノの試みで斬新なのは“一人芝居”であること。アリ役には1000人もの役者をオーディションし、もともとアマボクサーとしての実績があるザック・バジルの起用が決まった。

 英国のボクシング記者、ガレス・A・デイビースからもボクシングに関するヒントをもらい、アリの伝記を執筆した大ベテランライター、トマス・ハウザーをリハーサルにも招待してアドバイスを得たという。エキスパートの力も借りた上での努力を経て、“一人芝居”でどういったアリが描かれるかは実に興味深い。

 「アリの人生の中には多くのことなったピリオドがある。ルイビルでの少年期、五輪での金メダル、“ランブル・イン・ジャングル”、そしてパーキンソン病に冒された晩年・・・・・・。その時々で、周囲の私たちが思ったことではなく、アリ自身が感じていたであろうことを掘り下げていきたい。何を思ってロープ・ア・ドープという戦術を行ったのか、どう感じながらアンジェロ・ダンディ・トレーナーと一緒にトレーニングをしていたか。何が起こったかだけではなく、その時々で彼が何を感じていたかに注目してほしい」

 

 セレノはアリの人生を以下の10のチャプターに分け、「The One」は“10ラウンド”で構成されている。

第1ラウンド 「カシアス」

第2ラウンド 「アマチュアでの戦い」

第3ラウンド 「ヘビー級チャンピオン」

第4ラウンド 「モハメドの誕生」

第5ラウンド 「リング復帰」

第6ラウンド 「フォアマン」

第7ラウンド 「スリラー・イン・マニラ」

第8ラウンド 「引退」

第9ラウンド 「レガシー」

第10ラウンド「感謝」

 「The One」はニューヨークでのステージを終えたあと、映画化もすでに決まっている。プレミア公演のあと、白黒映画の撮影が開始され、2026年にリリース予定。“ザ・グレーテスト”が現代に再び蘇るこの壮大なプロジェクトがどう進み、どういったアリが描かれることになるのか。

 おそらくは歴史上で誰よりも語られてきた人物が、特に現代の若い層にどのように受け取られるかが楽しみでもある。

スポーツライター

東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『日本経済新聞』『スポーツニッポン』『スポーツナビ』『スポルティーバ』『Number』『スポーツ・コミュニケーションズ』『スラッガー』『ダンクシュート』『ボクシングマガジン』等の多数の媒体に記事、コラムを寄稿している

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