北朝鮮の16年ぶりの「乱数放送」再開の狙い
北朝鮮が韓国、日本、中国、東南アジアなど国外に潜伏している工作員に指令を出すための「暗号放送」(乱数放送)を16年ぶりに再開したことに所管の韓国統一部は昨日、「北がこうした旧態依然の態度を早く止め、南北間の発展に寄与する行動に出ることを願う」と中止を求めていた。
「暗号放送」は国外向けラジオ放送「平壌放送」によって先月24日と今月15日の2回、正規の放送後の午前0時45分から流されたことが韓国当局によって確認されている。「平壌放送」は対南用プロパガンダ放送で、北朝鮮国内では傍受できない。
韓国当局が明らかにしたところによると、女性アナウンサーが唐突に「今から27号探査隊員のための遠隔教育大学数学復習課題をお伝えします」と前置きした後、「459ページ35番、913ページ55番、135ページ86番」と、12分間にわたりページ数と番号を次々と読み上げたようだ。どれも5桁の数字だった。5桁の数字による「暗号放送」はかつての北朝鮮のやり方と全く同じだ。
2000年6月に史上初めて実現した南北首脳会談で合意するまで南北は凄まじい諜報、心理戦を展開していたが、1990年代まで北朝鮮は日韓など国外に潜入した工作員に短波のラジオ放送に紛れ込ませる形で暗号の指令を送っていた。
韓国でインタビューした複数の元北朝鮮工作員らの話では、当時は深夜1時から放送が始まり、曲と曲との間に次々と5桁の数字が読み上げられ、それが早朝の5時まで続いたそうだ。
この5桁の数字は「誰が何をしろ」という暗号で、自分の番号を聞くと、工作員は暗号解読マニュアルで任務内容を確認し、行動に移る。当時はこの方式のほかに、5桁の数字を、短波放送を使ってモールス通信で送る方式や、通常の長波に乗せて送る方式もあったという。
指令の数は日によって増減があり、朝鮮半島の情勢が緊張するとか、何か異変が起きた時には増加する。日本でも領海に不審船事件が浸透する前には目立って増え、200近いラインに指令が出たことが確認されている。
指令内容は、脱北者らの話を総合すると、▲軍事施設及び有事の際に攻撃対象となる産業施設に対する偵察活動▲北朝鮮の利益に関わる政治軍事情報の収集▲協力者や情報提供者らの獲得や抱き込み▲ココム違反物品など重要物資の調達や産業情報の入手▲テロと破壊活動などが主とされている。この他に、麻薬の取引にも使われることもある。
デジタル時代になった今ではメールあるいは映像やオーディオファイルという手法が取り入れら、ほとんど使われることのないアナログ方式による乱数放送を北朝鮮が復活させた狙いについて韓国当局は▲韓国の情報当局を混乱させるため▲本当に潜伏しているスパイに指令を出すため▲これから送り込むスパイの定期訓練のためレッスンと分析しているが、韓国の対北向け拡声器放送や「自由アジア放送」など攪乱情報を流す対北心理作戦媒体による放送への対抗手段との見方もある。工作活動を活発に行っていることを強調することで朴槿恵政権を心理的に圧迫する狙いがあるのかもしれない。
北朝鮮のミサイル発射や韓国のTHAAD(高高度防衛ミサイルシステム)配備や5度目の核実験の兆候により朝鮮半島の緊張が高まる中でのこうした「乱数放送」の再開は、何とも不気味だ。