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「野球の機会均等」を目指して。もうひとつのワールドシリーズ。

谷口輝世子スポーツライター
RBIワールドシリーズ(ジュニア部門)で優勝したドミニカ共和国北チーム

米国ではリトルリーグワールドシリーズが始まっている。スポーツ専門テレビ局ESPNが中継していることもあり、多くの人が関心を持つ人気大会になっている。昨年は13歳の女子選手モネ・デイビスさんが快投を披露し、大きな話題になった。

RBIワールドシリーズとは

ほぼ同じ時期に、もうひとつの子どもたちのワールドシリーズがメジャーリーグの本拠地球場で開催されている。こちらはメジャーリーグ機構が地域還元事業として展開しているRBI(Reviving Baseball in Inner Cities)というプログラムだ。

メジャーリーグではマイノリティや低所得世帯が多く住む地域を中心にRBIプログラムを提供。RBIは、スポーツにかかる高額な費用をねん出することが難しい低所得世帯やマイノリティの人々が多く住む都市部の子どもたちに野球をする機会を与えると同時に、野球を通じてよりよい市民を育てるという理念のもとに運営されている。1989年にロサンゼルスのサウスセントラルでスタートし、今では200地区以上で展開。メジャーリーグ機構と各球団からの資金提供、メジャーリーグと提携しているスポーツ用品メーカーなどからも用具提供といった支援を受けている。

日本も同じような傾向になっているだろうが、米国では子どもたちがスポーツを習い事としてすることが定着している。レクリエーションではなく、競技としてスポーツするには高額な費用がかかることが多い。プライベートレッスンなども含めて年間数千ドルが相場だと言われている。また、指導者役を引き受けてくれる大人がいないことで、スポーツする機会を失っている子どもたちもいる。(米国のエリート選手養成についてはこの記事でもレポートした。マー君世代のメジャーリーガーはどのように育ってきたのか。米国学校運動部3

RBIプログラムからは、これまでにおよそ200選手がメジャーリーグの新人選択会議で指名をされた。現役選手でRBIプログラムの「卒業生」には、CC・サバシア(ヤンキース)、カール・クロフォード(ドジャース)、マニー・マチャド(オリオールズ)、ジャスティン・アップトン(パドレス)、ジェームス・ロニー(レイズ)、ヨバニ・ガラード(レンジャーズ)らがいる。

今年のRBIワールドシリーズはテキサスレンジャーズがホスト球団。8月4日からはRBIソフトボールのトーナメントを行い、その後RBIベースボールのワールドシリーズを開催した。

各都市で複数のRBIチームから選手を選抜し、RBI都市代表としてチームを編成。各地域を勝ち上がったジュニア8チームとシニア8チームがテキサス州アーリントンに招待された。RBIプログラムの担当者によると「1週間の滞在費、テキサス州アーリントンまでの交通費などは全てRBIプログラムが負担している」そうだ。米国のエリート選手たちは保護者が高額な遠征費を負担して、遠方のトーナメントにたびたび参加するが、RBIに所属する選手たちはそのような機会が少ない。それだけに、メジャーリーガーがプレーする球場を舞台にしての決勝は特別なものがあるという。

ジュニア部門の優勝はドミニカ共和国

決勝戦は8月15日に行われた。この日はレンジャーズーレイズのナイターが開催されるため、13-15歳のジュニア部門の試合開始は午前7時30分。カードは、ヒューストン対ドミニカ共和国北。

ヒューストン-ドミニカ共和国北チーム
ヒューストン-ドミニカ共和国北チーム

RBIプログラムは米国内だけでなく、ドミニカ共和国やプエルトリコでも展開されていて、米国内のコンセプトと同様に、野球をする機会をなかなか得られない状況にある子どもたちを集めて行っている。

筆者は10年以上前、当時のマリナーズGMだったパット・ギリックさんに外国人選手を獲得するにあたって、日本と中米で獲得戦略に違いはあるか質問したことがある。

ギリックさんは「日本からの選手は、ラテンアメリカからの選手よりも、野球についての基礎的なことが出来上がっているケースが多い。ラテンアメリカには日本の高校のように基礎を教えるコーチがいないので、我々が彼らに野球を理解する手助けをする必要がある」とのことだった。

しかし、決勝戦で見たドミニカ共和国の13-15歳の少年たちの守備は「基礎を知らない」という筆者の先入観を覆すものだった。外野から内野へのカットプレー、カットマンの位置取り、ベースカバー、バックアップ、いずれもしっかり自分のものになっているらしく、状況判断を誤ることやパニックに陥る様子は見受けられなかった。ドミニカ共和国北チームは打撃でもバットをしっかり振る思い切りのよいスイングをし、12-7でヒューストンを破って優勝。同チームのホセ・ケープラン監督は「子どもたちがもっと幼いときから基礎を学ぶことができるように気をつけている。それでも、子どもたちは判断ミスやメンタルミスをすることがある。そのときに正しいことを教えるのがコーチの役目だ」と誇らしげだった。

シニア部門優勝のマイアミ代表
シニア部門優勝のマイアミ代表

ジュニアの決勝戦終了後にはRBIシニア決勝が行われた。シニアはU18で日本の高校生の年代にあたる。マイアミ対ハリスバーグというカード。少年たちは高校の野球シーズンは学校でプレーし、学校のシーズンが終了するとRBIに集う。マイアミの監督によると「練習は月曜日から金曜日までの2-3時間。週末は全体での練習はしていない」とのことだった。

「野球の機会均等」を目指すメジャーリーグのRBIプログラム。今大会から将来のメジャーリーガーが誕生するか。少なくとも彼らの多くが将来もメジャーリーグファンであり続け、野球を支えていく存在になっていくのではないだろうか。

試合終了後にアイスバケツチャレンジ。前列左はイバン・ロドリゲスさん
試合終了後にアイスバケツチャレンジ。前列左はイバン・ロドリゲスさん

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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