コオロギは陰謀論がお好き?昆虫食を巡るツイートデータ分析
三行まとめ
・現段階では昆虫食反対ツイートが圧倒的に多い
・反対派に陰謀論クラスタはあるが,陰謀論系ではないアカウントのほうが多い
・一部の偏ったコミュニティが反対しているわけではない
昆虫食が話題
最近昆虫食が話題となっています.特に食糧難の時代に向けてコオロギが有望なたんぱく源として考えられているとのことで,コオロギを使った食品などが開発されているようです.
そのような中,コオロギ粉末給食に苦情が殺到したり,コオロギを使ったパンやフィナンシェに苦情が出たりと,食用コオロギを使った食品に対する忌避反応があちらこちらで出ているようです.
一方で,反昆虫食は陰謀論者によって展開された,という話も出てきています.そこで,実際にどのような議論がTwitter上で展開されているのかデータから分析してみました.
なお,データ収集には未だになぜか利用が停止されないTwitterAPIを用いて「昆虫食,コオロギ,イナゴ,蜂の子」が含まれるツイートを収集しました.2023年1月1日から3月5日までに3,177,467ツイートが収集されました.
Twitter上での昆虫食への賛否
まず,この中で反昆虫食のツイートがどのくらい含まれているのかを調べるため,根性マイニングによる分類を試みました.なお,根性マイニングとは筆者が頑張って目で見る手法で,精度は高いがDeepLearningと比べてもはるかに分析に時間がかかるという欠点を持っています.あと筆者がつかれる.
というわけで,全ツイートからランダムに抽出したツイート群を,昆虫食賛成・反対・中立と,無関係なものに分類してみました.なお,データにリツイートを含む場合と含まない場合の双方について分類しました.結果はこちら.
リツイートを含む全ツイートでは全体の75%が昆虫食に反対するツイートとなっていました.リツイートを含まないオリジナルツイートでは52%です.つまり,昆虫食についてツイートした人の半分以上は昆虫食反対の立場をとっていたと言えます.逆に賛成派はオリジナルツイートで7%.リツイートも含めると全体のわずか3%でした.
少なくともツイッター上では昆虫食推進派は少数派といって問題なさそうです.
クラスタ分析
次に,どのような情報が拡散しているのかを分類するために,クラスタ分析を行ってみました.
その結果,A,B二つのクラスタが出てきました.
しかし,この二つのクラスタともに昆虫食に反対するツイート群でした.通常こういった問題でクラスタ分析をすると賛成派と反対派に分かれるものですが,賛成派が少なすぎて一方的なクラスタ群が抽出されたようです.
なお,クラスタAでは922ツイートが162,783アカウントによって930,290回拡散されました.クラスタBでは1,595ツイートが126,884アカウントによって1,003,429回拡散されました.
ただし,この二つはその内容は微妙に異なっています.クラスタAの代表的なツイートは以下のものでした.
このクラスタのツイートは,おから,牛乳,イワシなど「食糧難でもコオロギ以外のタンパク質が良い」というツイートが中心でした.
一方,クラスタBの代表的なツイートは以下のようなものでした.
こちらは主に「誰かがコオロギ食を推進している」というツイートが中心でした.
同じ昆虫食に反対するツイート群でも,その内容は微妙に異なっていると言えそうです.
ちなみに,全ツイートの57%,アカウントベースで56%がA,Bどちらかのクラスタに所属していました.この期間に昆虫食に言及した51万アカウントの中で29万アカウントが昆虫食不支持クラスタのツイートを拡散していたというのはそれなりの数であるといってよいのではないでしょうか.
昆虫食反対は誰のものか?
昆虫食に関するほとんどのツイートが昆虫食反対ツイートだったことが分かりました.では,これらのツイートを拡散している人たちは果たして陰謀論者なのでしょうか?
そこで,代表的な陰謀論との親和性について調べてみました.
各クラスタ及び昆虫食関連ツイート全体における,過去の陰謀論拡散率を算出しました.その結果がこちら.
この結果,クラスタAでの陰謀論拡散率は8.4%程度でしたが,クラスタBでは45.7%でした.つまり,クラスタAのツイートを拡散したアカウントの8.4%が過去に陰謀論を拡散し,クラスタBでは45.7%が過去に陰謀論を拡散していたということになります.したがって,クラスタBのツイートは半分程度は過去陰謀論を拡散したことがあるアカウントによって拡散されたことが分かります.
つまり,昆虫食反対は陰謀論拡散者によるもの(クラスタB)とそれ以外のアカウントによるもの(クラスタA)に大きく分かれていると言えそうです.なお,規模としてはクラスタAの方が大きいですし,ツイート全体でみると陰謀論拡散アカウントによるツイートは15.6%ですので,少ないとは言えないものの昆虫食反対ツイートの拡散は陰謀論者だけによるものではないといえそうです.
なお,クラスタBについても「過去に陰謀論を拡散したアカウントによって拡散されていることが多い」というだけであり,クラスタBに含まれるツイートが陰謀論であるという意味ではないことにご注意ください.
次に,政治的傾向について,保守的ツイートを拡散するアカウントとリベラル的ツイートを拡散するアカウントがどの程度含まれているかから分析しました.その結果がこちら.
クラスタAは保守系アカウントが多く拡散している(38.3%)いますが,クラスタBについてはほぼ同程度が拡散していることが分かります.
また,全体についてみると保守系が21.3%,リベラル系が15.0%と,一部で言われているような保守系のアカウントが多いという傾向は強くないようです.
最後に,昆虫食反対がエコーチェンバー化しているかどうかを確認するために,コミュニティの偏りを見てみましょう.一部コミュニティの人たちだけがツイートを拡散しているとコミュニティの偏りが高くなります.
この結果より,クラスタBは若干コミュニティの偏りが大きいですが,クラスタAや全体の偏りは比較的小さいものでした.したがって,特定のコミュニティのアカウントだけが昆虫食に反対しているわけではないとも言えそうです.
結論
昆虫食に関する2023年1月1日~3月5日までのツイートを分析してみましたが,その結果,
・Twitter上ではほとんどの意見が昆虫食への反対
・昆虫食反対派には陰謀論と親和性の高いクラスタが存在する
・陰謀論系ではない昆虫食反対クラスタのほうが大きい
・政治的な偏りは大きくない
・特定のコミュニティによる拡散ではない
ということが分かりました.
以上を総合すると,おおむね「今のところTwitter上では昆虫食反対が一般的であり,昆虫食推進のほうが少数派である」といえそうです.
昆虫食に賛成するツイートは3月に入ってから徐々に拡散されてきているようですので,今後どうなるかはわかりませんが,現段階では「昆虫食反対は陰謀論者によって作られたもので,多数派ではない」と判断するのは危険そうです.
一方で,人間は,まず理屈があって態度を決定しているように思いがちですが,実際には多くの場合,態度を決めてからその理由を探していたりします.今回の場合は「昆虫食が嫌だ」という嫌悪感がまずあって,嫌悪感を正当化する理由を探している人はそれなりにいるのではないでしょうか.その時に,昆虫食を否定する陰謀論があると思わず信じてしまったりするかもしれません.しかし,データを見る限り昆虫食が嫌な方は割と多そうなので,シンプルに嫌なものは嫌といえばいい気がします.嫌悪感を正当化するために変な陰謀論的言説を信じたりしないように気を付けたいところです.
なお,本分析の結果が気になる方は,Web Tweet Crawlerでデータを収集することが(まだ)できますので,ぜひご自身でデータを分析してご確認いただければと思います.