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紅白歌合戦と「国際化」――TWICE出場はK-popアイドルとして6年ぶり

韓東賢日本映画大学教員(社会学)
今年のNHK紅白歌合戦にK-pop勢としては6年ぶりに出場するTWICE(写真:アフロ)

 今年末のNHK紅白歌合戦、K-pop勢としては6年ぶりにTWICEが出場する(とはいえメンバーには3人の日本人が含まれている。台湾人のメンバーもいる)。東方神起、KARA、少女時代が出場した2011年に書いた記事を思い出したので、以下、転載したい。

 なお今年の年末、FNS歌謡祭には東方神起がすでに出演済みで、12月22日に放送されるミュージックステーション SUPER LIVEにはやはりTWICEと、アルバムが米・ビルボード「ビルボード200」で7位を獲得し、ビルボード・ミュージック・アワードでもTop Social Artist賞を受賞、さらに先日はアメリカン・ミュージック・アワードでもパフォーマンスを披露するなどアメリカで人気のBTS(防弾少年団)が出演する(ちなみにBTSのアメリカでの成功は、K-popにおける今年最大ニュースだろう)。

 さて6年ひと昔なのか、否か……。【文末にTWICE、BTSの動画あり】

■海外勢多数の90年、91年

 2011年11月30日、大晦日恒例のNHK紅白歌合戦の出場歌手が発表されたが、韓国のグループが3組選ばれたことへの否定的な反応がネット上で話題になった。発表当日、お笑いタレントの田村淳さんはツイッターに「…紅白歌合戦だけは、日本の歌手の方だけでやって欲しいよね…他の歌番組と違うもんね…」と投稿した。翌12月1日、自民党の片山さつき参院議員もやはりツイッターに「NHKに対して、竹島問題への認識を欠いているのではないかと疑われる、歌手起用や報道につき、説明求めます」と書き込んだ。

 こうした反応への賛同には「韓国勢が多すぎる」との声も少なくないが、発表された55組のうち3組というのは「多い」のだろうか。

 1951年に始まり今年で62回目となる紅白歌合戦。「明示的な外国人歌手」の出場者が最多だったのは90年の第41回(全58組中9組)だ。紅組のオユンナ(モンゴル)、シンディー・ローパー(アメリカ)、マルシア(ブラジル)、ケー・ウンスク(韓国)、白組のガリー・バレンシーノ(フィリピン)、アリスン・ウィリアムズ(アメリカ、久保田利伸とのコラボ)、アレクサンドル・グラツキー(旧ソ連)、チョー・ヨンピル(韓国)、ポール・サイモン(アメリカ)と多彩である。

 この時期の紅白は「国際化」を目指していたようで、翌91年の第42回も全56組中8組いた。

■KとJ、明確な境界はあるか?

 明示的な外国人歌手の出場は第24回(73年)のアグネス・チャンが最初で(75年まで3年連続)、70~90年代を通じ、ケー・ウンスク(88年から7年連続)、チョー・ヨンピル(87年から4年連続)、キム・ヨンジャ(89、94、2001年)らの韓国勢とともにジュディ・オング(79、80年)、テレサ・テン(85、86、91年)ら日本で活躍したアジア人の歌謡曲、演歌勢がコンスタントに出場していた。

 いわゆるK-pop勢としてはBoAが2002年から6年連続で出場している。2004年の第55回は当時の韓国ドラマブームを背景に、「美しき日々」に出演した女優でもあるイ・ジョンヒョン、「冬のソナタ」の主題歌を歌ったRyuも加わり、今回と同じ3組だった。

 またここまでの記述で「明示的な外国人歌手」とわざわざ断ったのは、「在日コリアン」も多数出場しているからだ。カミングアウトしているだけでも今回で35回目の出場となる和田アキ子をはじめ、都はるみ、にしきのあきら(現・錦野旦)がいる。

 今回、出場を決めた東方神起(1年ぶり3回目)、KARA、少女時代(ともに初)は、いずれも日本で日本のレーベルから日本語詞の曲を出し、日本のテレビに出演して日本語でプロモーションに努めて日本でファンを作り、曲をヒットさせた。いわばK-popもJ-popの一部とも言え、その境界は判然としないのに「韓国の歌手」というだけで「国民的番組」から排除しようだなんてつまらない話だ。でも、こんなことばかりの年だったな、と思う。

(『週刊金曜日』2011年12月16日付「メディアウオッチング」より)

TWICEの韓国での最新曲"LIKEY"

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日本映画大学教員(社会学)

ハン・トンヒョン 1968年東京生まれ。専門はネイションとエスニシティ、マイノリティ・マジョリティの関係やアイデンティティ、差別の問題など。主なフィールドは在日コリアンのことを中心に日本の多文化状況。韓国エンタメにも関心。著書に『チマ・チョゴリ制服の民族誌(エスノグラフィ)』(双風舎,2006.電子版はPitch Communications,2015)、共著に『ポリティカル・コレクトネスからどこへ』(2022,有斐閣)、『韓国映画・ドラマ──わたしたちのおしゃべりの記録 2014~2020』(2021,駒草出版)、『平成史【完全版】』(河出書房新社,2019)など。

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