新型コロナはこれからどうなっていくのか?私たちは新型コロナとどのように付き合っていけば良いのか?
2023年5月8日から新型コロナは5類感染症になります。
しかし、当然ながら5月8日を境目として新型コロナという感染症そのものの性質が変わるわけではありません。
これから新型コロナはどのように変わっていくのでしょうか?
次々と変異株が出現してきた新型コロナウイルス
新型コロナウイルスは当初の野生株から進化を遂げ、様々な変異株が出現しました。
これまでに日本でもアルファ株、デルタ株、などの変異株が主流となってきましたが、現在はオミクロン株の亜系統が1年以上主流であり続けています。
新型コロナの重症度は大幅に低下
新型コロナの流行が始まって3年以上が経過しました。
流行初期には致死率5%という重症度の高い感染症でしたが、2021年からのワクチン接種開始、そして2022年からのオミクロン株の拡大により、徐々に重症度が低下し現在は0.22%となっています。
このような経緯から、政府は新型コロナを「新型インフルエンザ等感染症」という位置づけから「5類感染症」に移行することを決断しました。
それでは、新型コロナはインフルエンザと同程度の感染症になったと言えるのでしょうか?
また、このまま新型コロナは弱毒化していくと考えて良いのでしょうか?
新型コロナで残された課題
新型コロナが5類感染症になると言っても、インフルエンザと同程度の感染症になったというわけではありません。
現時点で、まだインフルエンザと同程度と言えない点としては、
・年に数回の大規模な流行が起こり多くの死亡者が出ている
・新型コロナ後遺症の治療法が確立されていない
などが挙げられます。
これまでの3年間で流行の規模は徐々に大きくなってきており、第7波と第8波は感染者数としてはほぼ同程度、そして死亡者数は第8波が過去最多となってしまいました。
日本国内でもオミクロン株に感染した人が4割に達し、徐々にオミクロン株による流行が広がりにくい状況になりつつありますが、流行の規模がいつ縮小に転じるのかは流行しているオミクロン株の亜系統の種類(現在であればXBB系統)によっても変わってくるため推測が困難です。
また、5類感染症になれば定点報告になるため、これまでの流行との比較が困難になります。
また、オミクロン株に感染した人が増えたとしても、全く新しい変異株が現れてしまえば、過去にオミクロン株に感染した人も含めて流行が起こると考えられますので、決して「オミクロン株にみんなが感染すればゴール」というわけではありません。
死亡者数については、過去1年間で4万人の人が亡くなっており、これは季節性インフルエンザの規模を大きく上回ります。
致死率は下がっているとは言っても、亡くなられる方の数はむしろ増え続けているのです。
結局のところ、死亡者数を減らすためには、重症化リスクの高い人にワクチン接種を定期的に行いつつ、流行の規模が大きくなりすぎないように、ある程度の流行規模になったら一般市民の皆さまにも感染対策の協力を求めるということが重要になります。
考え方としてはこれまでと全く変わっていないのですが、5類感染症になれば世間の新型コロナへの関心は薄れ、ワクチン接種率は下がり、感染対策への協力も求めにくくなると予想されます。
医療機関や高齢者施設ではまだしばらくは大変な状況が続いてしまうかもしれません。
「新型コロナウイルスは自然と弱毒化していく」とは限らない
「ウイルスはだんだんと弱毒化していく」という話を聞いたことはないでしょうか。
確かに新型コロナもオミクロン株になってから重症度が下がっていると言われています。
しかし、この言説については特に強い根拠があるわけではありません。
例えば、3000年もの間、人類の脅威であった天然痘は根絶されるまで特に弱毒化したという証拠はありません。
新型コロナウイルスと同じコロナウイルスである4種類の風邪コロナウイルス(229E、OC43、NL63、HKU1)も、最初は新型コロナのように重症度が高くて徐々に弱毒化した・・・ということも特に証拠はなく、OC43については1890年頃に発生したロシアかぜの原因だったのではないか、という説がありますが、証明されたわけではありません。
1918年のスペインかぜも、インフルエンザウイルスが弱毒化したわけではなく人々が感染することで免疫ができて致死率が低下してきたと考えられています。
このように、現時点で「コロナはこのまま弱毒化していく」とたかをくくるのは危険です。
また、ワクチンを接種した人や、これまでに新型コロナに感染したことのある人は次に感染した際には重症化しにくくなる、というのがこれまでの知見です。
しかし、そうした常識も新しい変異株では覆される可能性はゼロではありません。
新型コロナウイルスは、この3年間、私達の予想を超えた変異を繰り返してきました。
そうした最悪の変異株が出現してしまった場合のシナリオも予め想定しながら緩和を進めていく、といった謙虚な姿勢が必要だと考えられます。
私たちはどのように新型コロナと付き合っていくべきか
繰り返しになりますが、5類感染症になっても新型コロナという感染症がなくなるわけではありません。
今後も流行は起こりますし、高齢者や基礎疾患のある人は重症化することもあります。
ただし、5類感染症になりますので、基本的にはこれからは政府が感染対策について国民に細かく要請することはなくなります。
これからは、一人ひとりが考えて、必要な感染対策を実施するということになります。
3月13日からマスク着用について「個人の判断に委ねる」と政府が発表し、一部からは「無責任だ」という意見があったようですが、私は「個人の判断」というのは良い表現だと思いました。
5月8日からは、マスクだけでなく感染対策に関する全てのことが「個人の判断」に委ねられるということになるわけです。
自分自身の重症化リスクを評価し、ワクチン接種について検討する。
流行状況を適切に把握し、流行時にはマスク着用し外出を控える。
こうしたことを一人ひとりが判断できる社会が来ることを願って3年間記事を書いてきました。
「でもそんなに細かく流行状況を把握できないし・・・」と思われる方も多いと思います。
そのために我々感染症の専門家がいます。
鬱陶しいかもしれませんが、流行時にはこれからも注意喚起をさせていただきますので感染対策のご参考にしてください。
新型コロナが5類感染症になってからも、皆さんが健康に暮らしていけるよう、私自身も引き続き努力していきたいと思います。
新型コロナが終わったわけではありません。
それでも5類感染症に移行すること自体は皆さんの3年間の努力があったからこそです。
医療従事者を勝手に代表して感謝申し上げます。