Yahoo!ニュース

53歳マイク・タイソン復帰戦の相手は?

三尾圭スポーツフォトジャーナリスト
復帰に向けてトレーニングを続けているマイク・タイソン(写真:ロイター/アフロ)

 チャリティーマッチでのリング復帰に向けてトレーニングを続けるマイク・タイソン。

 5月1日にツイッターにアップしたミット打ちの動画は900万回再生を超えて、1000万回に迫るほど世界中のファンがタイソン復帰に興味を示している。

 タイソン復帰に興味を示しているのはファンだけでなく、世界中のプロモーターも復帰戦の舞台を用意しようとタイソンにラブコールを送っている。

 オーストラリアのボクシング・プロモーターは約1億円のファイトマネーをオファー。対戦相手にはラグビー界のレジェンド、ソニー・ビル・ウィリアムズの名前が挙がっている。

 34歳のウィリアムズはオールブラックスの主力メンバーとしてワールドカップで2度優勝。2012年にはジャパンラグビートップリーグのパナソニック・ワイルドナイツでもプレーした。ラグビーと並行してプロボクサーとしても活動して、7勝無敗3KOの戦績を誇る。2013年にはマイク・タイソンとも対戦経験のある(1999年、5回KO負け)フランソワ・ボタと空位だったWBAインターナショナル・ヘビー級のベルトをかけて対戦。10回判定勝ちをしたが、なんの告知もなく試合が当初の12ラウンドから10ラウンドに変更され、ボタが約1500万円で負けるように打診されたと暴露した「疑惑の試合」として知られる。その後はラグビーに専念するためにボクシングから離れ、防衛戦も行わなかったためにベルトも剥奪された。

 素手で殴り合う『ベアナックル・ファイティング・チャンピオンシップ(BKFC)』は2000万ドル(約22億円)の巨額オファーを出したとの報道もある。

 2018年にスタートしたBKFCは地下格闘技ではなく、アスレチック・コミッションから認可を受けている。元UFCヘビー級王者のリコ・ロドリゲスやボクシングの元2階級制覇世界王者のポール・マリナッジらが参戦。昨年10月にはUFCでミルコ・クロコップにKO勝ちしたことがあるガブリエル・ゴンザガと、総合格闘技でエメリヤーエンコ・ヒョードルとアリスター・オーフレイムに勝利しているアントニオ・シウバが対戦。ゴンザガが2ラウンドにシウバを倒してKO勝ちした。

 BKFCはタイソン復帰戦の相手として元WBO世界ヘビー級王者のシャノン・ブリッグスを用意。48歳のブリッグスは4月上旬にBKFCと契約を結んでいる。

 RIZINの榊原信行社長もYouTubeの配信番組で「マイク・タイソンを生で見てみたい。日本に入国できれば(参戦の)チャンスはあると思う」と興味を示し、「色々な選手とのマッチメークもさることながら、起きないような選手、出ることのないような選手が出てくれれば、むちゃくちゃインパクトある」とドリームカードを匂わせた。

 榊原氏はPRIDE時代にタイソンと絆を持ち、2006年にラスベガスで開催されたPRIDE.32の対戦カード発表記者会見にタイソンが参加。「タイソンはゲストではなく、我々とともに格闘技界に革命を起こすパートナーです」と榊原氏はタイソンを紹介していた。

 また、2018年年末にはフロイド・メイウェザーをRIZINのリングに上げ、那須川天心とのエキシビションマッチを実現させているだけに、RIZINもタイソン復帰戦舞台の候補からは外せない。

 この3つの団体にタイソンが上がる可能性はあるのだろうか?

 まずRIZINだが、榊原氏が「誰がやるんだという問題はあるけど……」と語るように、日本人ヘビー級選手が不在の現在はタイソンに相応しい日本人選手が見当たらない。

 15年前であれば藤田和之、25年前ならば前田日明という日本の格闘技ファンをワクワクさせるヘビー級戦士がいたが、日本人ヘビー級氷河期の今では、藤田や前田のようなスケールの大きな選手が見当たらない。格闘技版「困ったときの神頼み」永田裕志も52歳だし、オカダ・カズチカや内藤哲也がタイソンと戦う姿も想像できない。総合格闘技参戦経験がある中邑真輔も今ではWWEの契約選手なので無理だ。

 榊原氏はRIZIN.13でボブ・サップ対大砂嵐という「世間」を意識したカードを組んだが、サップや曙が出ていったところで、今さら感が強すぎる。

 また、日本でしか知名度がない選手が相手だと世界から注目を集めることはできずに、日本国内の内輪だけで盛り上がるイベントとなり、せっかくのタイソンの復帰戦を生かしきれない。

 RIZINは昨年末にベラトールと共同で大会を開催したが、そのコネクションを使ってヒョードル対タイソンはどうだろうか?総合格闘技とボクシングのヘビー級で一時代を築いたレジェンド同士の戦いならば、世界中の格闘技ファンは注目するし、何よりもロマンがある。

 もう一つの案としては、タイソンの禊として、東京ドームでのジェームス・”バスター”・ダグラスとの再戦。1990年に東京ドームでダグラスに「世紀のアップセット負け」でプロ初黒星を喫したが、同じ舞台でその再戦のチャンスを与える。

 案としては面白いが、ダグラスは現在60歳と高齢で、体重も300ポンド(約136キロ)を超えている。地元のジムで青少年にボクシングを教えてはいるが、とても試合をできるような体調ではない。

 日本でタイソンの復帰戦を行うときの最も大きな問題は対戦相手ではなく、タイソン自身が過去に未成年者への性的暴行やコカイン所持の犯罪歴があることと、コロナ禍で海外への移動が困難なこと。

 2017年にはチリの空港で入国を拒否されて強制送還となり、2012年にはニュージーランドから入国ビザを拒否され、2013年にはイギリスからも入国を拒否されている。

 また、コロナ禍で海外への渡航も難しく、大陣営での国外移動は現実的ではない。年齢的な理由で復帰戦を先延ばしにはしたくないので、アメリカ国外での復帰戦は障害が多い。

 となると、オーストラリアでの試合も現実味がない。

 RIZINがメイウェザーのエキシビションマッチを組んだときには900万ドル(約10億円)のギャラを払ったと言われており、1億円のオファーは安過ぎる。

 タイソン自身も本物のボクサー以外との試合は「ボクシングへの冒涜」と拒否反応を示し、「相手が本物のボクサーであればリングに戻ってもいい」と言っている。

 復帰戦の相手がボクサー限定になると、ヒョードルとのドリームマッチの案も消滅してくる。

 BKFCが用意しているブリッグスは「本物のボクサー」だが、そのブリッグス自身は前代未聞のタッグチーム・ボクシングを提案。

 「俺とマイク・タイソンが組んで、(イベンダー・)ホリフィールドと(ウラジミール・)クリチコ組とのタッグチーム・ボクシングを行うのはどうだ?クリチコが怖がるならば、ホリフィールドとジェームズ・トニー(51歳の元3階級制覇世界王者)組でもいいし、俺とマイクが組んで、誰とでも戦ってやる!」とアピール。タッグチーム・ボクシングとはプロレスのタッグマッチのように試合の途中でパートナーにタッチをして交代しながらリングで試合をする形式だと言う。

 これはボクシングのリングよりも、WWEのリングでやる方が相応しい試合形式で、タイソンの復帰戦候補からは消し去った方が良さそうだ。

 となると、タイソンの復帰戦に相応しい相手は一人しかいない。

 過去に2度、タイソンとヘビー級タイトル戦を戦っているホリフィールドだ。

 57歳のホリフィールドも復帰に向けてトレーニングを始めて、「ジムに戻って1週間目だが調子はいい。試合に向けてトレーニングの質を上げていくのが楽しみだ」とトレーニングの様子をSNSにアップした。

 イギリスの日刊紙「ザ・サン」の取材に応じたホリフィールドはタイソンと3度目の再戦をしたいかと聞かれると「YES!私はマイク・タイソンと戦いたい」と返答。「マイクの下には世界中からオファーが届いているだろうが、私と彼の試合こそがファンが観たがっている試合だ」

 「遺恨試合をするのではなく、歴史上でも最高のファイターが、誰かのために戦うんだ。個人的にはマイクに対して恨みもない。これはボクシング界のためにもなる試合だと思う。野蛮なスポーツと思われることもあるが、2人の男が一緒になにかする姿を世界中に届けられるんだ。マイクは調子がとても良さそうだが、私も心身ともにコンディションは良い」と3度目の対戦をアピールしたホリフィールドは「(再戦が実現するには)マイクもやりたいと思うことだ」とタイソンにラブコールを送った。

 ホリフィールドとタイソンは1996年11月に初対決。11ラウンドにホリフィールドがTKO勝ちして、WBA世界ヘビー級タイトルを奪取した。この試合は当時の最高記録となる159万件のペイ・パー・ビュー(PPV)売り上げを記録したが、「耳噛み」事件で有名な1997年6月の再戦では199万件のPPV売り上げを記録して、PPV売上額も1億(約110億円)ドルを超え、総売上は1億8000万ドル(約198億円)のスーパーファイトとなった。この試合でのタイソンのファイトマネーは3000万ドル(約33億円)で、ホリフィールドは3300万ドル(約36億円)だった。

 「タイソン対ホリフィールド3」が行われれば、コロナ禍でスポーツ観戦に飢えている多くのファンがPPVを購入するのは確実で、100万件以上を売り上げてもおかしくはない。

 世界中のボクシングと格闘技ファンが望む「タイソン対ホリフィールド3」は実現するのか?

スポーツフォトジャーナリスト

東京都港区六本木出身。写真家と記者の二刀流として、オリンピック、NFLスーパーボウル、NFLプロボウル、NBAファイナル、NBAオールスター、MLBワールドシリーズ、MLBオールスター、NHLスタンリーカップ・ファイナル、NHLオールスター、WBC決勝戦、UFC、ストライクフォース、WWEレッスルマニア、全米オープンゴルフ、全米競泳などを取材。全米中を飛び回り、MLBは全30球団本拠地制覇、NBAは29球団、NFLも24球団の本拠地を訪れた。Sportsshooter、全米野球写真家協会、全米バスケットボール記者協会、全米スポーツメディア協会会員、米国大手写真通信社契約フォトグラファー。

三尾圭の最近の記事