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安倍首相「連続在任日数歴代1位」を前に健康不安説を乗り越えられるか

大濱崎卓真選挙コンサルタント・政治アナリスト
終戦記念日に千鳥ヶ淵戦没者墓苑を参拝する安倍首相(写真:つのだよしお/アフロ)

 昨日午前、安倍晋三首相の慶應大学病院受診が速報ニュースとして配信されました。NHKニュースでも速報として配信されたことで、コロナ禍のニュースに「まさか」と驚いた人も少なくなかったことでしょう。報道各社の見出しも「入院」、「受診」、「検査」などと混乱があり、結果として6時間以上滞在したことからも、首相の健康不安説が再燃する結果となりました。

首相動静から浮き出る昼の空白時間

 実は、今年と去年の首相動静(各社によっては「総理の一日」などのタイトル)をつぶさに観察すると、大きな変化がみられます。国会開会中など首相が朝から夜まで永田町にいるようなスケジュールの場合に、昨年までは昼の休憩時間が概ね1時間だったところ、今年5月頃からは日にもよりますが、概ね2時間程度に延びていることがわかります。もちろん、首相動静の記事は、あくまで首相が誰とどこで会ったかを記録している記事のため、誰とも会っていない時間帯が増えていること自体が首相の体調不良を指し示しているとは言えません。一方、昨年6月の首相動静と見比べれば、誰とも面会していない時間帯が増えていることは明白で、このことからも官邸サイドが首相のスケジュールを比較的緩やかに組んでいることは間違いないと言えるでしょう。

 首相は、第1次安倍(改造)内閣を自身の難病のために辞職したことから、特に健康問題に留意を払っているとされ、今年6月にも慶應大学病院を定期受診したばかりでした。その追加検査とも言われている今回の受診が、6時間以上の滞在であったことを踏まえると、何らかの健康不安説が再燃することはやむなしと言わざるを得ません。

 また、今週末には話題になるとおもいますが、安倍首相の連続在任日数は来週24日に、安倍首相の大叔父にあたる故・佐藤栄作元首相の2798日を超えて歴代単独1位となります。既に通算在任日数では戦前も含めて過去最長となっていますが、これは第1次安倍政権の日数も加えたもので、連続在任日数が憲政史上最長となることに首相が固執していることは想像に難くありません。現に、昨年11月、通算在任日数が過去最長となった直後に開かれた商工会全国大会でも佐藤栄作元首相の連続在任日数を持ち出してコメントを出すなど、先祖を超える記録作りにこだわりがあるようです。

今後の見通し

 では、記録が見事達成された後はどうなるのでしょう。今月15日の終戦記念日に千鳥ヶ淵戦没者墓苑を参拝した安倍首相は帰宅後、麻生太郎副総理と自宅で会談をしました。首相の体調に万が一のことが起きた場合、臨時にその職務を代行する第1順位の国務大臣は麻生太郎副総理と決まっています(一般的に、臨時にその職務を代行する第1順位は内閣官房長官となるのが通例ですが、内閣法第9条で内閣官房長官以外の国務大臣を第1位に指名した場合、その国務大臣を通例的に「副総理」と呼びます。また、第1次安倍内閣では、退陣直前の入院時でも首相が執務を行うことはできる環境だとして、首相臨時代理を置きませんでした。)。6月に入り、麻生副総理との会談が数次に渡って行われたことなどを踏まえれば、衆議院解散総選挙にしろ、安倍政権退陣にしろ、現政権のイグジット・プランを麻生副総理と話し合っていたとも考えられます。

 まず、臨時国会召集の対応が当面の鍵となります。今回の病院受診の前には、自民党の甘利明税制調査会長が「ちょっと休んでもらいたい。責任感が強く、自分が休むことは罪だとの意識まで持っている」とコメントするなど、首相の健康に与党議員からも心配の声が上がっています。自民党の森山国対委員長は8月5日、立憲民主党の安住淳国対委員長と会談し、8月中に厚生労働委員会、内閣委員会の閉会中審査で新型コロナに関する委員会質疑を行うことを伝えたものの、その後、「所管大臣で(質疑を)やることがまず大事。所管大臣を越えて首相とやるのはいかがかと思う」(朝日新聞)と記者団に述べるなど、あくまで総理抜きでの国会審議にこだわりを見せていることがわかります。今年5月頃からの首相動静記録などをみると、連日の国会出席や長時間にわたる委員会質疑出席などは、首相の体力に大きな負担をかける恐れもありますが、一方、新型コロナ対策などにおける首相のリーダーシップ能力を問う質問を野党が国会の場で要求することも当然であり、首相の出席がない形での閉会中審査や臨時国会召集の後ろ倒しにも限界があることから、いずれかのタイミングでこれらの対応を迫られることになるでしょう。

 次に、内閣改造です。第4次安倍第2次改造内閣は、昨年9月11日に誕生しました。2017年総選挙の後、11ヶ月に1回ペースで改造を繰り返していることから、今年秋の内閣改造は濃厚とされています。前回改造では、閣僚のうち留任となったのは麻生副総理、菅官房長官の2名のみで新人の登板が多かった内閣改造でしたが、新型コロナウイルス感染症対策の真っ最中である今、関連省庁のトップを変えることは霞ヶ関の負担にも繋がる可能性があることから、小規模から中規模の改造となるとの見方が多くなっています。一方、来年の総裁選前最後となる組閣でもあることから、総裁選を意識した派閥調整の登用なども必要になるため、実質「ポスト安倍」のための組閣という性質も帯びることになります。

 最後に、衆院解散総選挙もしくは総辞職です。仮に内閣改造を行っても、首相がリーダーシップを発揮できる状況になければ、レームダック化することになるため、内閣改造を延ばして新型コロナの対応に目処が立った段階で総辞職をする可能性も残されています。また、首相の健康不安説が増幅すれば、現実的に近々での総選挙のシナリオは遠ざかるとも言えます。これまで、衆院解散総選挙のシナリオは、新型コロナの感染拡大状況に大きく依存すると考えていましたが、今後は首相の健康問題にも留意する必要があることから、今秋の国会運営は更に難しいものになりそうです。

選挙コンサルタント・政治アナリスト

1988年生まれ。青山学院高等部卒業、青山学院大学経営学部中退。2010年に選挙コンサルティングのジャッグジャパン株式会社を設立、現在代表取締役。不偏不党の選挙コンサルタントとして衆参国政選挙や首長・地方議会議員選挙をはじめ、日本全国の選挙に政党党派問わず関わるほか、政治活動を支援するクラウド型名簿地図アプリサービスの提供や、「選挙を科学する」をテーマとした研究・講演・寄稿等を行う。『都道府県別新型コロナウイルス感染者数マップ』で2020年度地理情報システム学会賞(実践部門)受賞。2021年度経営情報学会代議員。日本選挙学会会員。

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