フィンランド次期戦闘機にF-35が決定「最も安く、性能は最高」
12月10日、フィンランドが次期戦闘機にロッキード・マーティン社のF-35Aを選びました。費用は予備部品などを含めた諸経費込みの総額で約83億7800万ユーロ、機体分の費用が47億300万ユーロで64機を購入する方針です。機体価格は1機あたり約7300万ユーロ(93億円)。
現地時間14時30分(日本時間21時30分)からの政府記者会見で発表されています。
↓フィンランド国防省公式Twitterより。
フィンランド次期戦闘機選定HX計画の最終候補は以下の5機種でしたが、ステルス戦闘機はF-35のみでした。
- ラファール 仏ダッソー社
- ユーロファイター/タイフーン 欧州エアバス社
- F/A-18Eスーパーホーネット 米ボーイング社
- JASグリペンE スウェーデンSAAB社
- F-35AライトニングⅡ 米ロッキード・マーティン社 ★採用
なおHX計画のHはフィンランド語で戦闘機を意味する「Hävittäjät」からではなく、代替予定の旧式化した戦闘機F/A-18Cホーネット(Hornet)の頭文字からで、Xは未定・次期という意味でした。
これによりフィンランドは欧州ではイギリス、イタリア、オランダ、ノルウェー、デンマーク、ベルギー、ポーランド、スイスに次ぐ9番目のF-35運用国となる予定です。世界全体では16番目です。
今年6月30日にスイスがF-35を選んだのに続いてフィンランドでもF-35が勝利したのは、ロシアがウクライナ侵攻問題で不穏な動きを増し続けていることがヨーロッパの現実的な脅威として認識され始めた影響が大きいでしょう。性能のみで選ぶのなら、現在購入できる唯一のステルス戦闘機であるF-35はもはや考えるまでも無く一択と言ってよい存在です。
戦闘機の購入は非常に大きな金額の取引となるため、性能のみでは決まらず政治的・経済的な理由なども選定で考慮されますが、もはやそのような悠長なことは言っていられないほど欧州での緊張は高まっているのかもしれません。フィンランドはロシアと国境を接しているのです。
今回のフィンランド次期戦闘機選定では、F-35の次に有力な候補は関係が深い隣国スウェーデン製のグリペンでした。他にもF/A-18Cから更新が容易な同系統の改良型F/A-18Eも有力な候補でした。
なお来年に次期戦闘機を決めるカナダは最終候補にF-35とグリペンだけが残り、完全に一騎打ちという状況です。フィンランドが先に近い状況でF-35を選んだのは、カナダの選定にも影響するかもしれません。
フィンランド自身も、6月にF-35に決めたばかりのスイスと11月に相談していたことが、フィンランド紙イルタレフティのリーク報道(12月10日の正式発表前の12月5日にHX計画はF-35決定とスクープ)で紹介されていました。スイス、フィンランドと続いたF-35の連勝は、次に新しい戦闘機を決めるカナダも注目していることでしょう。
フィンランド空軍の発表したF-35への評価は以下の通りです。
F-35は一番安く、一番強い
フィンランド空軍の説明のフィンランド語版の方の表現ではこのようになります。
- F-35-ratkaisu oli kustannustehokkain. (F-35ソリューションが最も費用対効果が高かった。)
- F-35 oli hankintahinnaltaan edullisin. (F-35は最も安価に購入できました。)
- F-35-järjestelmän suorituskyky oli toimintaympäristössämme ja asetetuilla vaatimuksilla vaihtoehdoista paras. (F-35システムの性能は、私たちの運用環境と要件の中で最高のオプションでした。)
- Kokonaisjärjestelmän ja koneen kyvyt taisteluun, tiedusteluun ja selviytymiseen ovat parhaat. (戦闘、偵察、および生存のためのシステムとマシン全体の機能は最高です。)
F-35は一番安い上に一番強い。フィンランドの評価はスイスの評価と全く同じものでした。フィンランド次期戦闘機選定の候補機の顔ぶれはスイス次期戦闘機選定の候補機とほぼ同じで、グリペンが追加されていた状態です。
つまりフィンランド次期戦闘機選定の結果により、F-35はグリペンより安いということが判明しました。グリペンはE型になって機体単価が大きく上昇していたのですが、運用費は比較的安いままと見られていました。しかしそれでもグリペンはF-35に負けてしまったのです。運用費だけで見ればグリペンの方が安かったのでしょうが、調達費で大きく差が出てしまい、総合的な費用で差が出なかった。ならば戦闘能力が高い方が選ばれるのは当然でした。
戦闘能力については、候補機の中で唯一のステルス戦闘機であるF-35が他を圧倒しているのは、言うまでもないことでしょう。
なお上記のフィンランド空軍のF-35選定の説明ページ(英語版)の調達コスト(Procurement Costs)の項目の2030年までの維持費の部分で、間違いがあります。
誤 … until the end of 2030 cost 2,920 billion euros.
↓
正 … until the end of 2030 cost 2.920 billion euros.
日本や米英では「,」は3桁を示して「.」で小数点を意味するのですが(イギリス式)、フィンランドでは逆になります(フランス式)。フィンランド語版の方では正しかったので、英語版への翻訳時に間違えてしまったのでしょう。
桁が三桁も変わって突然大きな数字が出てきますが、発表側のミスなので注意してください。
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