ラニーニャ発生に一歩近づく
ラニーニャ発生にまた一歩近づく。日米豪の気象機関はそろって今年中のラニーニャ発生を予測する。ただ、発生の時期に違いがあり、最も早いのは日本でこの夏から、米豪は秋以降と予測する。大気の状態も徐々にエルニーニョ状態から脱する見通しで、この夏以降の天候に影響するおそれがでてきた。
急激な水温低下
エルニーニョ現象とは東部太平洋熱帯域の海面水温が基準値よりも高くなる現象、一方で、ラニーニャは海面水温が基準値よりも低くなる現象のことです。
これらは世界的に異常気象を引き起こすことが知られていて、今や市民権を得た気象用語でしょう。2015年12月には過去最大級までエルニーニョが発達し、日本では記録的な暖冬となりました。
その後、海面水温は下がり始め、4月は基準値との差がプラス0.8度と、先月と比べると0.8度下がり、最大の下げ幅を記録しました。
これほどの急激な低下を予測していたのでしょうか?
これまで2016年4月をどのように予測していたのか、過去の予測値(ボックス)を調べてみました。
この表は2015年10月からの予測値をまとめたものです。
予測の幅が大きいため、はっきりとしたことはいえませんが、昨年12月の予測ではこの頃に基準値との差が1度を下回る可能性を示していました。ただ、その後は予測が上振れして、この夏は平常の状態になる可能性の方が高かったのです。
ラニーニャの発生が早まった背景には、春の予測は精度が低いこと、そして、日付変更線付近の規模の大きい冷水が東進し、さらに海面水温を下げる可能性が高まったことが挙げられます。
5月には基準値との差が2014年3月以来、26か月ぶりにマイナスとなる見通しです。
米のラニーニャ確率は75%
他の気象機関はどのような予測を立てているのでしょうか?
米海洋大気局(NOAA)は12日、ラニーニャの発生時期や強さは定まっていないが、大方の専門家はこの秋、または冬を予想していて、発生確率は75%との見通しを示しました。
また、オーストラリア気象局は10日、雲の発生パターンは典型的なエルニーニョ状態を脱し、貿易風も数週間で平常に戻るとの見方を示しています。また、今年後半にラニーニャとなる確率は50%としています。
米豪はラニーニャ発生予測を受けて、早くも大雨やハリケーンの動向に注目しています。日本ではエルニーニョからラニーニャに移り変わる年(2010年や1998年)は台風の発生数が少なくなるという研究があり、今年の台風シーズンはいつも以上に関心を持っています。
【参考資料】
気象庁:エルニーニョ監視速報 No.284,2016年5月12日発表
気象庁:エルニーニョ監視速報 No.277~No.283
NOAA(米海洋大気局):EL NINO/SOUTHERN OSCILLATION (ENSO) DIAGNOSTIC DISCUSSION,12 May 2016
オーストラリア気象局:ENSO Wrap-Up(Current state of the Pacific and Indian oceans),10 May 2016
筆保弘徳,2013:第2章台風の研究 4.台風発生の季節予報,天気と気象についてわかっていることわかっていないこと,ベレ出版,77-86.