知らぬ間に、はめられていた!街コン、合コンに潜む、ネットワークビジネスの誘いのワナ!
気づかないうちに、自分の心がネットワークビジネス(マルチ商法)の思想に染められていて、拒否できない状況下で高額な契約をさせられる。とても怖い勧誘が身近に潜んでいます。
それも、街コン、合コン、スポーツと、誰もが一度は参加したことがあるイベントがきっかけになっています。この手口を使われて、あるマルチ商法の販売グループに引き込まれてしまった、男性の実話です。
マルチ業者から改善通告を受けるほどの悪質な勧誘
マルチ商法では、会員になった人が、新たな人物を誘い入れることで、ネズミ算式に販売網を広げていきます。とくに社会経験が少ない若者がだまされやすく、「誰でも稼げる」「オーナーになって夢を叶えよう」「みんな、借金してから始めている」と言われて、クレジットカードでお金を借りさせられ契約をさせられる、問題のあるケースも報告されています。
ある元マルチ商法の販売グループが行っていた手法は、それ以上にひどいものでした。
ここで、“元マルチ”といったのには、理由があります。このグループは、加入していたマルチ商法の本体からも、あまりにも悪質な勧誘だったために、改善通告を受けて、最終的にこのマルチ業者から抜け出ることになったからです。そして今も、このグループは独自に進化しながら、マルチ商法的な動きをし続けています。
引き込まれた男性の証言から、その手口を解き明かします。
街コンでの気軽な連絡交換のはずが
30代男性Aは、約4年間、この販売グループに入っていました。5年ほど前に参加した街コンのイベントに参加したことがきっかけでした。そこで一人で参加していた、30代女性と出会います。
「後でわかったことですが、この女性は勧誘をする目的で街コンに入りこんでいました」
当時の彼はそのような彼女の目的は知りませんので、気軽にLINEを連絡します。2か月後、ボードゲームのイベントに誘われます。場所は都内のタワーマンションでした。
この時、彼は「イベント参加者に、危なそうな人はいないか?」と思い、注意深く見てみたそうですが、「みんな感じの良い人ばかり」だったので警戒心を解いて、参加してしまいます。
筆者も様々なイベントに誘われた経験がありますが、人の性格は色々で、一人ぐらいは嫌いな人物はいるものです。そうした人が、一人もおらず、みんなが良い人というのは、思想が一致している可能性があり、逆に危険なのです。
このグループの勧誘方法は多岐にわたります。
彼は街コンでしたが、20代男性Bは、友達から「合コンに来ないか」と、知人に誘われて行くと、それはタワーマンションで行われた合コンイベントで、このグループに入るきっかけになっています。
30代男性Cは、フットサルに誘われたことがきっかけで、入会しています。後になってわかったのは、この合コンもフットサルも、すべてこのグループが勧誘するために用意した場でした。
帰り道に危険なワナが待っている
男性Aは10名位の人たちと、カードゲームやキャッシュフローゲームをしました。
「キャッシュフローゲームをさせながら、自分たちの思想に染めるのも目的のひとつです」と彼は話します。
人生ゲームのようにサイコロを回してお金を貯めながら円卓のコースをぐるぐる回ります。そして一定の金額になれば「会社で働くというラットレース」から抜け出して、経営者・投資家に上れるというものでした。
まさにこの「会社人間から、ビジネスオーナーになる」の考え方が、このグループの根本にあるもので、ゲームを通じて少しずつ、その思想に染めていこうとしていたのです。
彼はイベントの帰り道に「次のボードゲームにも来てみませんか?」との誘いを女性から受けます。とくに悪い印象もなかったので一週間後に彼は再び、イベントに参加します。
そして、またこのイベントの帰り際に「別なイベントがあるので、参加しませんか」と誘われます。彼が参加したのはフットサルです。このなかには、イベントに参加した顔見知りもおり、すっかり心を許してしまいました。
通常のマルチ商法の勧誘では、イベントや説明会の後に、すぐに個別に話す場を設けて、勧誘するものですが、このグループはすぐには本筋である勧誘行為をしません。何度も自分たちのグループに足を運ばせて、良好な人間関係を作り、一定の思想に染めるまで、待ち続けるのです。
ここには、もうひとつの勧誘テクニックが使われています。それは、ひとつのイベントが終わった後に、次の催しに誘う手です。イベントを終えると心が高揚していますので、次の誘いの話をすれば、相手は「そうですね」と頷かざるをえません。これを延々に続けていき、本人の身と心をからめとっていきます。
イベント後の帰り道での誘いには、充分に注意をして下さい。
心が思想に染まったところで、本来の目的である勧誘をスタート
そして、充分にターゲットにした人物がグループの思想に染まったと判断すると、勧誘の牙をむき出してきます。
男性Aは、スポーツイベントが終わると、男性Xから帰り道に「僕が学んでいる人のビジネスセミナーがある」と誘われます。ただし、参加するには条件があり「毎日、日記をつけて、私に送ってほしい」と言われて、彼は頷きます。同時に「金持ち父さん貧乏父さん」(ロバート・キヨサキの本)も読み、感想を毎日、送るように言ってきます。
「今にして思えば、報告、連絡、相談(報連相)をさせることで、私の個人情報を把握して、勧誘を有利に進めようとしていたのでしょうね」
当時の彼は、これがセミナーに参加するための条件だと思っているので、数週間、行います。自らの思想に近い本を読ませるなどして、自らのグループの考えに染めさせてきたわけですが、結局、彼は「私がこのグループを抜けるまでの4年間、この報連相は続きました」と話します。
ようやくネットワークビジネスを紹介されるも、心はすでに思想にどっぷり
ある時、男性Xから「会って話そう」と言われて、「自分たちが参加する、ビジネスの勉強コミュニティに入らないか?」と誘われます。セミナーへの参加には、コミュニティへの「入会同意書」にサインしなければならないというのです。男性Aは「経営ビジネスのことが学べるなら」という軽い気持ちでサインします。
後日、彼は都内で行われたビジネスセミナーに参加します。100人ほどが参加していました。壇上では30代の若い男が話をします。
「経営者になるためのメソッド」と題して「会社で働くラットレースから抜け出して、ビジネスオーナーになる。これには行動力が必要です」との内容が話されます。その後、チームごとに分かれたディスカッションに参加。現在、何をして働いているのかや、自分自身の夢や目標などを語り合います。
最後に「自分の周りの人たちを入会させて、集客していく」との話が出て、ここで初めてグループがネットワークビジネス(マルチ商法)であることを、知らされます。
当時の彼は「経営することは難しいと思っていましたが、セミナーを聞いているうちに特別な能力は必要なく、ここでの活動を続ければ、経営者としての成功がつかみとれるかもしれない」との希望を抱いたと言います。
もうすでに、彼の心はグループの思想にどっぷりとつかっていたのです。
セミナーの帰り道。男性Xからあるネットワークビジネスを紹介されます。入会同意書にサインさせられた上に、グループの思想に染まっていることもあり、もはや拒否できない状況です。男性Xの言うままに、クレジット決済にて15万円の特定負担金を払い、このマルチ商法に参加する契約をします。ここに至るまで、約4か月です。
正体を隠して、思想を教え込む
このグループが使ったのは、自らの正体を明かさずに勧誘し続けるという巧妙なやり口です。
「すぐに誘わない」「じっくりと時を待つ」ことで、グループの思想にはまらせます。そしてしっかりとグループの考えと本人の心が一致したところで、本筋の勧誘を行うのです。
この手法を使われると、本人の意思がほとんど介在しないまま、心が知らぬ間にグループの思想にからめとられていますので、「ここがマルチ商法のグループである」と知らされた時には、もはや指示通り先に進むしかない状況に陥っている、非常に恐ろしい勧誘です。
正体を隠して、誘う方法は、カルト宗教などの勧誘でも行われています。
オウム真理教でいえば、ヨガ教室、統一教会でいえば、自己啓発セミナーや占い鑑定を入口に誘います。連れ込まれた人は、そこでまさかカルト宗教の勧誘が始まっているとは思っていないわけで、心を許して話をしてしまいます。
そして何度も通わせながら、自らの教義を植えつけていく。そして完全に心が思想に染まった段階で、「ここはね」と正体を明かすのです。もはや、本人は受け入れるしかない状況になっています。
本来、人生を左右するような重要なことを決める場合、十分な情報を手にさせて、本人の意思で「やるか」「やらないか」の判断をさせなければなりません。しかし正体を隠した組織的な勧誘では、その判断する自由を奪ってしまっていることになります。
しかも厄介なことに、いったん組織の考えにはまると、周りの助言が耳に入らなくなり、今の仕事をやめるなど、一途な思いで走り出してしまいます。
心に入りこんだ思想の呪縛を解いて、本当の自分の姿に気がつくには、長い年月がかかります。その間に、お金と時間が奪われていきます。
今回証言してくれた男性も、マルチ商法の入会から、販売グループを抜けるまでに4年の歳月が経っています。
きっかけは、街コン、合コン、スポーツでの声掛けで、出会った相手との何気ない連絡先の交換です。‟気軽さ”のなかに、勧誘者たちはこっそりと入りこんできます。
来年には成人年齢が18歳に引き下げられます。正体・目的を隠した勧誘を受けて、だまされてしまう若者が増えてしまわないのか、とても心配なところです。