鹿屋に配備されたMQ-9リーパー無人機は作戦行動半径1852kmで台湾の近海まで監視可能
鹿児島県の鹿屋航空基地にアメリカ空軍のMQ-9リーパー無人機が一時展開しており、11月21日から南西諸島方面の海洋の警戒と監視を行う作戦運用を開始する予定です。そしてこの無人機が何処まで飛べるかというと、アメリカ空軍の資料では航続距離1000海里(1852km)とあるのですが、実はこれは片道航続距離の意味ではなく作戦行動半径の意味なのです。
MQ-9リーパーの最大滞空時間は製造元のジェネラル・アトミクス社の資料によると実に27時間にも及びます。巡航速度は300km/h前後なので(なお最大速度は444km/h)、作戦行動半径1852kmとは・・・
- 1852km進出(約6時間飛行)
- 作戦空域で10~12時間滞空
- 1852km帰還(約6時間飛行)
このような運用になります。ただし燃料ぎりぎりだと万が一の場合に足りなくなるので余裕を見ておきます。作戦行動半径1852kmだと台湾の周辺もカバーできるのが分かります。
なお作戦空域が尖閣諸島周辺だと進出距離が半分の900kmで済むので、往復6時間分の燃料が浮いて、これを作戦空域での滞空時間に注ぎ込めます。逆に作戦空域での滞空時間を削れば進出距離を1852kmより伸ばすことも可能です。
Range: 1,000 nautical miles (1,852 km)
英語の「Range(範囲、航続距離)」には色々な意味があります。「Combat Range(戦闘範囲)」だと「Combat Radius(戦闘行動半径)」と同じ意味になります。つまり行って戦闘して帰ってくる往復を含む意味です。「Ferry Range(フェリー航続距離)」だと戦闘装備を積まずに燃料をたくさん積んで自機を長距離移動させる目的の片道航続距離で、最大航続距離と同じ意味になります。
つまり単に「Range(範囲、航続距離)」とだけ書かれてあっても片道とは限りません。また戦闘行動半径は行って帰るだけではなく作戦任務での戦闘も行うので、最大航続距離の半分にはならずもっと短くなります。
【関連資料】
- MQ-9 Reaper | U.S. Air Force ※Range: 1000海里(1852km)
- MQ-9A "Reaper" | General Atomics ※最大27時間滞空可能
ファクトチェック:片道航続距離と作戦行動半径を混同した誤解
というわけですので、MQ-9リーパー無人機の航続距離1852kmとは作戦行動半径のことであり、鹿屋から尖閣諸島どころか台湾とフィリピンのバシー海峡の付近まで行って監視飛行して帰って来られます。能力面で心配は要りません。
ところが大変な誤解が生じているらしく・・・
- 防衛省:滞空時間から計算した片道航続距離8519kmは間違ってはいないが、地元への説明としては実用的な作戦行動半径の方が望ましい。
- アメリカ軍:1852kmは作戦行動半径のことだと直ぐに説明できるのに「安全保障上の問題から具体的に答えられない」とわざと拒否。
- 西日本新聞:1852kmを片道航続距離だと勘違いしている。
- 防衛省九州防衛局:1852kmが作戦行動半径のことだと気付いていない。
- 教授:問題点に気付いていない。
- 地元民:航続距離くらい教えろと要求。
- 鹿屋市長:防衛省と米軍で説明が違うのはよくないと指摘。
・・・記事に登場する人たちが全員、問題点に気付いていません。いや、アメリカ軍は気付いています。しかし正確な数字はなるべく秘匿しておきたいので説明を拒否しています。
実はアメリカ軍は兵器のスペックについて全般的にこのような感じで、F-35戦闘機の航続距離についても正確な数字を発表しておらず、誤解しそうな記述をわざと行っています。嘘は吐いていないけれど、不親切な説明で本当の数字を隠しています。
MQ-9リーパー無人機の航続距離について片道航続距離なのか作戦行動半径なのかはっきり示さず、説明を要求されても拒否する態度は、F-35戦闘機のこれと同じ意図なのでしょう。正確には教えたくないのです。
日本の防衛省がMQ-9リーパーの航続距離を8519km(片道)としたのは、アメリカ軍が教えてくれず(あるいは教えてはいるが公表させてもらえない)、最大滞空時間と巡航速度を掛け算して自分で計算し推測した数値なのだろうと思います。
こうして軍事機密(というほどのものではないが)としてMQ-9リーパーの正確な航続距離が秘匿されたまま、わざと不十分な説明のまま、配布資料を配ったことになります。
このようなややこしい話を一般メディアに気付けと要求するのは酷な話ですし、アメリカ軍にいくら要求しても「安全保障上の問題から具体的に答えられない」という説明を繰り返すだけでしょう。もはや日本防衛省側で正しい説明を行うしかなさそうですが、航空自衛隊がF-35戦闘機の航続距離の正確な数字を公式サイトに記載できていないのを見ると、MQ-9リーパーについても正確な説明は期待できそうにありません。
せめてMQ-9リーパーの1852kmは作戦行動半径である旨くらいは、説明してもいいとは思うのですが。