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『M-1』敗者復活戦が屋内開催へと変更、その狙いは芸人たちへの「リスペクト」と「公平性」

田辺ユウキ芸能ライター
(C)M-1グランプリ事務局

12月24日に開催されることが発表された、『M-1グランプリ2023』の決勝戦。同日には準決勝敗退者を対象とした敗者復活戦もおこなわれるが、その実施会場が屋内の新宿住友ビル 三角広場になることも明らかになった。

敗者復活戦はこれまで、同枠が設けられた2002年大会から2004年大会まではパナソニックセンター東京前特設ステージ、2005年大会は神宮球場、2006年大会は有明コロシアム、2007年大会から2010年大会まで大井競馬場、2015年大会から2022年大会までは六本木ヒルズアリーナでひらかれていた(2011年から2014年までは『M-1』開催なし)。

敗者復活戦では冬の野外の寒さと戦いながら漫才を披露する様子が『M-1』の名物となっており、分厚いベンチコートなどを着て吉報が届くのを待つ芸人たちの姿も見慣れた光景だった。

視聴者投票で結果が決まる敗者復活戦、野外開催では「公平性」が保たれない

2015年に『M-1』が復活して以降、敗者復活戦が屋内会場で開催されるのは今回が初。それにしてもなぜ、敗者復活戦が屋内開催へと変更されたのか。その理由として推測されるのが「リスペクト」と「公平性」である。

ここまで人生をかけて熾烈な戦いを繰り広げてきた芸人たちに、整った環境のなかで、全力でおもしろい漫才を見せてもらおう――。今回の変更からはまず、『M-1』運営側のそういったリスペクトの気持ちが感じられる。

また近年、屋外開催特有の「音のトラブル」も目立っていた。特に出場者の頭を悩ませていたのが、17時頃になると街に流れる「夕焼け小焼け」のチャイム音。2020年大会の敗者復活戦では、ニッポンの社長がセリフの少ないネタを披露している途中で同曲のメロディが聞こえてきたことから、意図せぬ演出のようになってしまった。2022年大会の敗者復活戦では「夕焼け小焼け」を回避するため、その時刻にテレビ中継にCMを入れてネタをおこなわないという“対応策”をとった。

ほかにも2020年の敗者復活戦では、ぺこぱの出番のときに路上を走る宣伝カーの音が重なった。2018年の敗者復活戦では、ミキが鳴り響くバイクの音にネタを阻まれて「すごい音鳴ってる」と反応せざるを得なかった。

敗者復活戦は視聴者投票よって決勝進出者が決められるので、こういった「音のトラブル」が観る者の印象になんらかの影響を及ぼす可能性がある。つまり、予期せぬことが起こりやすい野外開催では「公平性」が保たれないのだ。『M-1』運営側はその点を考慮し、屋内開催へと踏み切ったのではないか。これは好判断である。

寒さに震えながらネタを披露して長時間待機、消耗が激しい敗者復活戦

あと、2017年大会決勝戦でネタ披露順をその場で抽選で決める「笑神籤(えみくじ)」が導入されて以降、敗者復活組のファイナルステージ進出者はゼロになった。

決勝戦の出番順は抽選なのでその結果は仕方がないこと。それでも、極寒の下でネタを披露し、その前後も長時間待機して、「笑神籤」で名前が呼ばれたらすぐに決勝会場へ移動してまた漫才に挑む過酷さは計り知れない。精神的にも体力的にも消耗が激しいはず。2017年大会以降、敗者復活組のファイナルステージ進出者がゼロというのも野外開催のダメージが多かれ少なかれあるのかもしれない。

たとえ救済枠の敗者復活戦であったとしても、そういった点で負担はかけてはならない。これも芸人たちへのリスペクトと公平性に起因する。

年末の国民的行事となった『M-1』。今や大人気コンテンツだが、さらなる充実を求めてこういった改変を実行するのはすばらしいことである。そのなかでも今回の敗者復活戦の屋内開催は大きなニュースと言える。

芸能ライター

大阪を拠点に芸能ライターとして活動。お笑い、テレビ、映像、音楽、アイドル、書籍などについて独自視点で取材&考察の記事を書いています。主な執筆メディアは、Yahoo!ニュース、Lmaga.jp、Real Sound、Surfvote、SPICE、ぴあ関西版、サイゾー、gooランキング、文春オンライン、週刊新潮、週刊女性PRIME、ほか。ご依頼は yuuking_3@yahoo.co.jp

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