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トヨタ新型SUVヤリスクロスに見る「圧倒的商品力」【動画あり】

河口まなぶ自動車ジャーナリスト
筆者撮影

トヨタ自動車株式会社は今週、同社の新型コンパクトSUV「ヤリスクロス」のプロトタイプ試乗会を千葉県の袖ヶ浦フォレストレースウェイ で開催した。ここで実際にヤリスクロスを見て、触れて、乗った筆者は、圧倒的な商品性の高さに改めてトヨタという自動車メーカーの底力を痛感した。

トヨタは先月、ミドルクラスのSUVである「ハリアー」をフルモデルチェンジして送り出し、コロナ禍によって経済が低迷しているこの時期にも関わらず、月販目標台数3100台の10倍以上となる約4万5000台の受注を達成したばかり。そんな中で今度はハリアーよりもさらにコンパクトでリーズナブルな存在であるヤリスクロスを投入することは、さらなる台数への期待と同時に、日本経済を活性化させる力にもなると思えた。

新型ヤリスクロスは、昨年に新しいアーキテクチャであるTNGAを用いて、ヴィッツから名称を変更して登場したコンパクトカー「ヤリス」のSUV版という位置づけにある。ラインナップにおいても、トヨタで最も小さな「ライズ」(167万9000円〜)とその次に位置する「C-HR」(236万7000円〜)の間に位置付けられ、スターティングプライスはこの間に位置すると予測される。そうした手頃なコンパクトSUVながらもその商品性は圧倒的であり、他社に大きな差をつける内容を実現していた。

3サイズは全長4180mm×全幅1765mm×全高1560mmで、パワートレーンは1.5Lの3気筒ガソリンエンジンと同じ1.5Lの3気筒+ハイブリッドの2種類で、それぞれのモデルにFFと4WDを用意する。プロトタイプのためエンジンやハイブリッドの数値や燃費は公表されていないが、この辺りはベースとなるヤリスと変わらないだろう。特に燃費などはライバル比で圧倒的な数値を実現しているはずだ。

実際に試乗してみると完成度は高く、ガソリン車/ハイブリッド車ともにこのクラスを牽引するだけの質の高さや落ち着いた感覚を備えていた。しかし何より驚かされたのは装備の充実ぶりだ。

装備内容はもちろんグレードによって異なるが、このクラスのコンパクトSUVにも関わらず、といえるものを多数採用した。

例えばヘッドライトは先行車や対向車のいる部分だけを遮光するアダプティブハイビームシステム(AHS)を採用。ベースとなるヤリスでは採用されなかった電動パーキングブレーキと、信号待ちなどでブレーキペダルから足を離しても停止状態を保つオートホールドも備わる。またこれによってアダプティブクルーズコントロールは全車速域対応となり、渋滞などでは停止保持も実現。またヤリスでも採用されたアドバンスドパークと呼ぶ、アクセル/ブレーキ/ハンドルを自動で操作する自動駐車システムも用意した。さらにクルマの状況を360度の範囲で確認できるパノラミックビューモニターを採用するなど、特に安全面や運転支援における充実度が高い。

またこれだけでなく、カラーの液晶モニターによるメーターを採用。他にはこれまでは4つのモーターを使っていて高コストだったために小型車では採用できなかった電動パワーシートも、新たに1モーターで前後スライド/上下高さ調整/背もたれの角度を調整可能としたものを採用した。加えてリアシートはコンパクトカーとしては珍しい、4:2:4の分割可倒式としており、センター部分は倒すと長尺物の積載を可能とすると同時に、アームレストの役割を持たせ、これもコンパクトカーではほとんど採用されていないものを実現した。

この他、リアのハッチではハンズフリーパワーバックドアを採用して、スマートキーを携帯していればリアバンパーの下に足を出し入れするだけでバックドアを自動開閉できるものとした。そしてラゲッジもFF系モデルでは6:4分割のアジャスタブルデッキボードを採用することで、荷室床面の高さを2段階で調整できる上に、左右で高さを変えて使えるものとするなど利便性も高い。

ヤリスクロスは200万円前半から300万円辺りの価格帯で販売されるモデルであることを考えると、装備の充実ぶりはとてもコンパクトSUVのそれとは思えないレベル。ひと昔前であれば1クラス、いや2クラス上のクルマでも装備されていなかったものが備わっている。その意味ではまさに圧倒的な商品性を備えた1台といえる。

しかも電動パワーシートや後席アームレストなどの豪華装備も、単にこれまでの装備を与えたのではなく、その作動や構造を工夫することで低コストを実現して採用した点が高く評価できる。この開発によって、今後の他のコンパクトカーにも充実した装備がもたらされることになる。

そうした部分を垣間見ると、改めてトヨタという自動車メーカーの開発力に驚かされる。そこにリーズナブルなコンパクトSUVだからこのくらいで…という割り切りは感じられなかった。

コロナ禍によって、世界的に自動車メーカーの4~6月期の業績は大幅に落ち込んでいる。しかしながらトヨタは先日、「2020年8月の国内工場の稼働について」というニュースリリースの中で、「グローバルでの強い新車需要に伴い、8月の国内生産台数は、当初計画レベルまで回復する予定です。今後も回復傾向の継続を見込んでいます」と記した。そこには先に記したハリアーの好調などもひと役買っていることは間違いないだろう。また今後も回復傾向の継続を見込んでいる理由のひとつに、今回のヤリスクロスの販売なども含まれてくるに違いない。

実際に先月のハリアー、そして今月のヤリスクロス(プロトタイプ)の商品性の圧倒的な高さを見ていると、確かにトヨタのいう「回復傾向の継続」にも納得がいく。何より「これは売れる」と思える商品に仕上がっていた。

先月のハリアープロトタイプ試乗会の際にも、トヨタのミッドサイズヴィークルカンパニープレジデントの中嶋裕樹氏からのビデオメッセージで、「この時期に今回試乗会の開催を悩んだが、やはりトヨタとして少しでも日本経済が良くなる力になりたいとの思いで先陣を切って開催した」という趣旨の発言があった。が、今回の試乗会でヤリスクロスに触れると、その商品性の高さはもちろん、物作りへの意気込みを含めて、改めてトヨタが経済の活性化に力を注いでいることを感じたのだった。

自動車ジャーナリスト

1970年5月9日茨城県生まれAB型。日大芸術学部文芸学科卒業後、自動車雑誌アルバイトを経てフリーの自動車ジャーナリストに。日本自動車ジャーナリスト協会会員。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。YouTubeで独自の動画チャンネル「LOVECARS!TV!」(登録者数50万人)を持つ。

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