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イチローのメジャーリーグ初登板はあるのか。野手が投げた試合から、その条件あるいは傾向を考察してみた

宇根夏樹ベースボール・ライター

ニューヨーク・タイムズ紙が2014年5月23日付の紙面に「スズキはもう一度、投げる機会を楽しむことになるかもしれない」というデビッド・ウォルドスタインの記事を掲載した。

この記事は最初に、延長13回まで及んだ5月21日の試合で、ニューヨーク・ヤンキースがロースター25選手中21人を起用し、残るは先発投手4人だったことを語っている。そこから、試合がもっと長く続いていれば野手の登板が必要になったかもしれないとして、イチローがマウンドに立つ可能性を探っている。

記事によれば、ジョー・ジラルディ監督もイチローもその可能性について前向きだという。イチローは通訳を介して、速球とスライダーを投げるもののブレッド&バター(決め球)はスプリッターであることなどを、ウォルドスタインに語っている。

実際のところ、イチローのメジャーリーグ初登板はあるのだろうか。ウォルドスタインの記事を読む限りでは、可能性は結構ありそうに思える。けれども、それにはさまざま条件が揃う必要がある。

2014年に登板した野手は5月22日時点で10人に上り、ドルー・ビューテラ(ロサンゼルス・ドジャース)は2登板している。彼らがマウンドに上がったのは、アウェーゲームの8回裏とホームゲームの9回表が5度ずつで、ホームゲームの14回表が1度。延長戦の1試合を除くと、いずれも6点以上のビハインドから投げている。

登板した野手のプロフィールは、メジャーリーグ経験6年以内が9人、27~30歳が8人(他は23歳と37歳)、右投げが8人、アメリカ出身が8人(他はドミニカ共和国とプエルトリコ)。ポジションは内野のユーテリティが5人、一塁/DHが3人、捕手が2人とばらついていて、生粋の外野手はいないが、マイク・カープ(ボストン・レッドソックス)はメジャーリーグで一塁とレフトを半分くらいずつ守っている。また、不動のレギュラーは皆無で、ミッチ・モアランド(テキサス・レンジャーズ)にしても、5月半ばから一塁に定着しているのはプリンス・フィルダーが離脱したからで、本来の役割はDHの準レギュラーといったところだ。

これらのことから、敗色が濃厚なゲームで、守備においては最後となるであろうイニングに、ベテランでも期待の若手でもない、控えの野手が投げることが多いようだ。延長戦の野手登板が1度しかないのは、ゲームの勝敗が絡んでいるのと、延長戦であっても投手が足りなくなるまで長引くこと自体が少ないせいだろう。

投の左右は関係なさそうだ。投手としてプロ入りした選手もいなかった。出身国も、英語もスペイン語も話せないという選手でない限り、問題にはならないはずだ。所属リーグ、イニングの頭/途中、前後の連戦数にも顕著な傾向は見つけられなかった。ドジャースと同様に、ミルウォーキー・ブルワーズも野手を2度登板させているが、こちらは同じ選手ではない。

他に挙げるなら、前日の11試合中9試合は3人以上の救援投手が起用されていて、うち7試合は4人以上が投げている。当日の試合も、救援投手が3人以上(登板した野手を除く)という試合が9度、4人以上は6度あった。前日と当日の合計では、延べ7人以上の救援投手が登板したケースが8度あった。

もっとも、サンプル数が多くないこともあり、だいたいの傾向は当たっていると思うが、この考察はお遊びの域を出ない。ただ、登板した野手の多くは、この体験を楽しんだようだ。なお、11度のうち4度は失点があったものの、どの野手もイニング終了まで投げきり、役割を全うしている。

ベースボール・ライター

うねなつき/Natsuki Une。1968年生まれ。三重県出身。MLB(メジャーリーグ・ベースボール)専門誌『スラッガー』元編集長。現在はフリーランスのライター。著書『MLB人類学――名言・迷言・妄言集』(彩流社)。

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