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アマゾンが未曽有の物流混乱を回避できた理由 独自輸送戦略とは

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
画像出典:米Amazon.com

米国では多くの小売業者がサプライチェーン(供給網)の問題に直面している。背景にはコンテナ輸送コストの急騰やコンテナ不足、積み出し港における新型コロナの感染拡大、積み降ろし港や物流倉庫における人手不足などがある。

米西海岸の港混乱、コンテナ不足も

先ごろは、米西海岸に運ばれてきたコンテナが荷下ろしされず大量に積み上がっていると報じられた。数万ものコンテナがロサンゼルス港とロングビーチ港にとどまり、大量の貨物船が入港待ちの状態。両港は、米国の輸入量の4割以上をさばいている。米CNBCによると専門家は2021年11月、ロサンゼルス港の沖合で79隻の貨物船が停泊しており、入港までに最大45日かかると指摘していた。

こうした中、米アマゾン・ドット・コムは、サプライチェーンの混乱を回避しスムーズな配送を実現している。その理由は同社が数年前から取り組んできた物流戦略の成功にあると言われている。

アマゾンの独自輸送戦略とは

CNBCによると、アマゾンは自社で貨物船をチャーターしており、海運業者の混載輸送に依存しない体制を構築している。これにより、コンテナをワシントン州の港に運ぶなど混雑するロサンゼルス港を避けて、その後陸送する方法を取っている。21年10月初旬には、アマゾンのコンテナを大量に積んだ貨物船がテキサス州ヒューストンの港に到着したことが確認された。

コンテナ不足も物流停滞の大きな要因となっている。コロナ禍前に1個2000ドル(23万円)以下だった53フィートコンテナの価格は現在2万ドル(約230万円)に跳ね上がっている。だが、アマゾンは中国で自社専用コンテナを製造している。海運の専門家によると、アマゾンは過去2年に約5000〜1万個のコンテナを中国で製造し、米国へ運んだ。

アマゾンが配送に充てる費用は19年時点で380億ドル(約4兆4000億円)以下だったが、20年には610億ドル(約7兆1000億円)以上に増加した。米SJコンサルティング・グループによると、アマゾンが電子商取引(EC)事業で取り扱う荷物のうち、自社便で運ぶ比率は19年時点で47%だった。これが現在は72%と大幅に増えている。

中国社のEC商品、大型船や航空機で大量輸送

アマゾンは、中国の小売業者がアマゾンの米国ECサイトで販売する商品を大型輸送船で運んでいる。15年に「Beijing Century Joyo Courier Service(北京世紀卓越快逓服務)」という中国子会社をフォワーダーの1種である非船舶運航業者として中国の運輸省に登録した。これにより同社は中国からの海上貨物輸送業務が可能になった。

この子会社は自ら輸送船を保有しないが、通関や書類手続きなどを行って貨物輸送を取り扱っている。米国の海上貨物監査サービス企業オーシャン・オーディットによると、こうしたアマゾンの業務は、船腹(積み荷スペース)の予約や、港から倉庫までの陸上輸送などと多岐にわたる。同社は海運業者や外部の物流業者が行う一連の業務を一手に引き受けるサービスを構築していると、オーシャン・オーディットは指摘する。

一方、アマゾンは利益率の高い商品を航空貨物機で輸送している。21年8月には15億ドル(約1700億円)を投じて建設していた航空貨物施設「Amazon Air Hub(アマゾン・エアーハブ)」がケンタッキー州に完成し、業務を開始した。現在アマゾンの貨物機「Amazon Air」は約75機ある。これを22年8月ごろまでに80機超にし、22年末までには85機超に増やす計画だ。

アマゾンは21年10月下旬、年末の繁忙期に向けて物流体制を強化したと発表した。自社物流ネットワーク内で入港地を5割増やしたり、海上輸送業者から物流倉庫を追加確保したりしてコンテナ処理能力を2倍にした。

同社グローバル・デリバリー・サービス部門上級副社長のジョン・フェルトン氏は「顧客ニーズとサプライチェーンおよび輸送のバランスを保つため、数カ月かけてこの問題に取り組んできた。毎年サプライチェーンと物流網に投資をしているが、今回は規模を拡大した」と説明している。

  • (このコラムは「JBpress Digital Innovation Review」2021年12月7日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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