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『MIU404』の演出家に、「芸術選奨」文部科学大臣新人賞!

碓井広義メディア文化評論家
『MIU404』は出色の刑事ドラマ(写真:アフロ)

3月3日、文化庁が主催する、令和2年度(第71回)「芸術選奨」の受賞者が発表されました。

選考審査員として参加させていただいた「放送部門」。

文部科学大臣賞は、南海放送ディレクターの伊東英朗さん。文部科学大臣新人賞が、演出家の塚原あゆ子さんです。

お二人とも、おめでとうございます!

伊東さんの作品は、ドキュメンタリー『クリスマスソング 放射線を浴びたX年後』(南海放送)でした。

米国などが1946年以降繰り返した太平洋ビキニ環礁での水爆実験。

被曝(ひばく)した日本の漁船の乗組員たちと、実験に参加した英国軍兵士たちの「過去」と「現在」を描き、忘れてはならない核の恐怖と人間の罪を問い続ける、粘り強い取材力が高く評価されました。

そして塚原あゆ子さんの作品は、『MIU404(みゅうよんまるよん)』(TBS系)です。

出色の刑事ドラマだった『MIU404』

タイトルは、第4機動捜査隊に所属する伊吹藍(綾野剛)と志摩一未(星野源)のチームを指すコールサイン。

事件発覚後、すぐに展開される「初動捜査」という短期決戦が彼らの任務です。

野性のカンと体力の伊吹。理性と頭脳の志摩。対照的でありながら、内部に葛藤を抱えることでは共通している、魅力的なキャラクターでした。

扱われる事件は様々ですが、このドラマの「核」は、いわゆる謎解きやサスペンスではありません。

事件を通じて2人が遭遇する、一種の「社会病理」を描くことにありました。

たとえば、外国人による「コンビニ強盗事件」では、外国人留学生や研修生を安価な労働力として使い捨てにする、この国の闇に迫っていました。

「みんな、どうして平気なんだろう」と言う伊吹。「見ないほうが楽だからだ。見てしまったら、世界がわずかにズレる」と志摩。綾野さんと星野さんのマッチングが絶妙です。

脚本・野木亜紀子、プロデューサー・新井順子、そして演出が塚原あゆ子という『アンナチュラル』の最強トリオが放った、剛速の変化球でした。

塚原さんに関するオフィシャルな「贈賞理由」は以下の通りです。

公表された「贈賞理由」

塚原あゆ子氏は、これまで『夜行観覧車』、『Nのために』、『アンナチュラル』など多数のテレビドラマを演出し、高く評価されてきた。

現在と過去を往来する時間を大胆な構成で表現する一方、細やかなカメラワークで人の心の機微を掬(すく)い取るなど、硬軟を自在に使い分ける演出には定評がある。

その力量は『MIU404』でも遺憾なく発揮され、社会の蔭(かげ)でひっそりと生きる声なき者の声に耳を澄ます野木亜紀子氏の脚本を見事に視覚化した。

(文化庁の正式発表文書より)

塚原あゆ子ディレクターの最新作

塚原さんの最新作となるのは、4月スタートの火曜ドラマ『着飾る恋には理由があって』(TBS系)です。

主演は川口春奈さん。相手役は横浜流星さん。

そして脚本が、『恋はつづくよどこまでも』の金子ありささん。

プロデューサーは『MIU404』『アンナチュラル』などの新井順子さんで、演出が塚原あゆ子さんという布陣となります。

受賞後第一作として、大いに期待したいと思います。

メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。1981年テレビマンユニオンに参加。以後20年間、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶大助教授などを経て、2020年まで上智大学文学部新聞学科教授(メディア文化論)。著書『脚本力』(幻冬舎)、『少しぐらいの嘘は大目に―向田邦子の言葉』(新潮社)ほか。毎日新聞、日刊ゲンダイ等で放送時評やコラム、週刊新潮で書評の連載中。文化庁「芸術祭賞」審査委員(22年度)、「芸術選奨」選考審査員(18年度~20年度)。

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