中国の配達合戦 ラスト10メートルの攻防 フードデリバリーボックスも登場
中国の物流業界では徐々に無人化が進んでいる。
デジタルの浸透により、オンラインでモノを買う人の割合は年々増え続けている。そんな中、「より速くより安く」を実現するために、配送事情も進化し続けているのだ。
大手企業が続々と物流の無人化に取り組み
大手ECサイトを運営するネット系企業の京東(JD.com)は、物流における無人化に力を入れている企業の一つである。
同社は2017年に上海にほど近い昆山にて、無人の荷物仕分けセンターをオープンしている。筆者も2018年に見学したことがあるが、大きな無人倉庫の中で荷物が整然と仕分けられていく様は圧巻であった。京東(JD.com)他にも荷物を保管する無人倉庫も運営している。
また2018年の12月にスタートアップと提携して、湖南省長沙市で宅配ロボットを正式に稼働させるなど、「ラストワンマイル」の配送の無人化も積極的に取り組んでいる。(参考記事:EC大手の京東集団が自動配送ロボットを実用化、AIスタートアップと協業しコスト大幅削減へ)
蘇寧物流(Suning Logistics)は、2020年には末端配送の自動運転技術が普及し、無人配達車の大規模化を表明。
菜鳥網絡(Cainiao Network)は、無人倉庫や無人車、無人機技術はすでに成熟し、物流から配達先までの全ネットワークを網羅する配達技術はすでに限られた範囲では成功しているという。
(参考記事:生活に入り込む中国の無人物流 課題は対応する交通法規の整備)
2018年には、中国食品デリバリーサービス大手「Ele.me(ウーラマ)」も一部地域でドローン配達を開始。ライバル企業「美団(Meituan)」も同様にドローン配送サービスのテストを行なっている。
加えて、テンセント系スーパーの「超級物種」でも一部ドローン配送が導入されているなど、一部範囲にはとどまるが、ドローン活用も徐々に進んでいる。
スタートアップも続々参入
大手だけではない。様々なスタートアップも物流領域に参入している。
2018年3月創業の、無人宅配ロボットおよび関連ソリューションを開発する「優時科技(Youshi Technology)」は2019年7月、エンジェルラウンドで1000万元(約1億5000万円)を調達した。
大手が開発する無人車は導入コストが10~40万元(約150万~600万円)だが、同社の製品は数千元(数万~14万円)と十分の一以下なのが強みだ。
(参考記事:「ラストワンマイル」は無人車で 次世代物流で頭角を現す「優時科技」)
その他にも数多くのスタートアップがこの分野に取り組んでいる。今度の「金のなる木」と目されているのだろう。
普及した配送ボックス フードデリバリー用まで登場
進化は配送側のみにとどまらない。受け取りの工夫も進められている。
最近では、数多くの「スマート宅配ロッカー」がオフィスビルや住宅街に設置されている。
写真の配送ロッカーは豊巣(HIVE BOX)というユニコーン企業のもので、既に中国で15万箇所以上に設置されているという。
日本のように手書き(であることが多い)の不在通知がポストに投函されるわけではなく、個人のWeChat(LINEのようなアプリ)に直接配送通知が届き、暗証番号入力で受け取りを行う。
また、受取だけでなく配送依頼も可能、個人間の荷物の受渡にも利用が可能だ。
宅配ボックスは日本にも存在しているが、少なくとも上海などの都会における設置件数は圧倒的に中国の方が多いように感じる。再配達率を極力下げるため、EC企業自ら設置しているというものが多い。
また加えて、フードデリバリー用の配達ボックスも登場している。
写真は、筆者がオフィスビルで見かけた配達ボックスだ。
このビルにてフードデリバリーの注文を行うと、配達員から「配達ボックスに配送して問題ないか」という旨の確認の電話が来た上で、チャットで配達ボックス解錠の暗証番号が送られてきた。
筆者としては、オフィスで働いている場合、会議などで手が離せず、配達員が到着した段階で電話に出られなかったり、受け取りのために席を立ちづらい場合もあるため、このようなボックスは一定利便性があるのではないかと感じる。
受付前などにデリバリーされた食べ物を置いておくスペースを設け、直接受け取らなくても良いようにしているオフィスも多いが、特に大学など多くの人が行き来する場所だと、取り違いや盗難が発生することもあるという。その点、このような棚があり、QRコードや暗証番号で解錠するという形式であれば安心だ。
配達員の立場からしても、メリットは大きい。ピークタイムに、エレベーターでオフィスビルやマンションの上に上がるのは時間がかかる場合も多い。加えて、セキュリティが厳しいビルは上まで上がれないため、注文者が一階に取りに来るまで待つ必要がある。ノルマと時間に追われる配達員にとってはイライラする時間である。
また配送員を抱える会社側としても、配送コストの削減がより望まれる状態である。
例えば、大手フードデリバリー会社の美団では人件費が過去2年間では出費全体の43%を占めており、配達員にかかる人件費は大きな出費要素となっている。
一方で、フードデリバリーの受注件数は増加ペースが鈍りはじめているため、より配送拡大による配送コストの削減というのは望みにくい状況なのだ。(出典:「美団点評」、法人向け物流事業に1700億円投入)
フードデリバリー配達ボックスは総体としては不評だが、親和性が高い場所や場面も?
しかし実際のところ、このようなフードデリバリー配達ボックスはユーザーの側からは総じて不評だ。デリバリーを頼むメリットとして、「玄関口まで来て手渡しをしてくれる」という点がある。
そのため、ネットでは「わざわざ一階に行く必要があるのであれば、デリバリーの意味がない」などの声も見受けられる。
このような状況も関係してか、都市部であっても「広く普及している」という状態ではない。筆者も頻繁に上海を訪れているが、このようなボックスを目にしたのは一回のみである。
ただ、例えば学校等、このような棚を利用することとの親和性が高い場所もあると考えられる。
2019年1月には、スマート配達ボックスや学生食堂や社員食堂向けケータリングサービスを行う「一米雲站(YIMI STATION)」が、シリーズAで数千万元(数億円)を調達したと報道された。
同社は、メニュー開発からセントラルキッチンでの食材加工と調理、スマートシステムを活用した配膳までを一括で担う企業だ。各自の好みに合わせて食事を選ぶと、料理は保温されたままボックスに配送され、ユーザーはカードやQRコードを用いて料理を受け取るという。
このように、基本的に集団行動であり取りに行くことのコストがあまり問題にならない、むしろ管理側(教師側)の配膳管理コストが下がる、というような要素を持つ学校であれば、このようなボックスを導入することのメリットは大きいだろう。
(参考記事:学食・社食向けケータリングサービス「一米雲站」:シリーズAで数億円を調達)
また、玄関口までの配送を担保しつつ、配達員の時間的コストを抑える方法としては、一階から上層階までデリバリーを届けてくれるロボットも一部ホテルなどでは導入されている。(参考記事:中国で広がるホテル向けの給仕サービスロボット)
配送所からの「ラストワンマイル」だけなく、ビルの入り口からの「ラスト10メートル」を、低コストで、かつ1分でも早く届けるために各社がしのぎを削る。省力化はどの方向に、どのようなソリューションによって進むのだろうか。今度の動向に注目だ。