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恩赦された「悲運の政治家」朴槿恵前大統領の一言が韓国大統領選挙を左右する!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
大統領在任中の朴槿恵氏(青瓦台HPから)

 昨年大晦日に赦免され、4年9か月ぶりに刑務所から出てきた朴槿恵(パク・クネ)前大統領は現在、病院で持病の治療にあたっているが、今月中旬までには退院の見込みだ。関係筋によると、朴前大統領は退院時に国民向けのメッセージを出すようだ。

 現在、ソウルのサムソンソウル病院に入院中の朴前大統領は当初は、71歳の誕生日にあたる今日(2日)にも退院する予定だったが、まだ完調でないことから慎重を期して、退院の時期をもう少し延ばすことにしたようだ。

 韓国大統領選挙は候補者が正式に登録する今月15日を期して選挙運動が公式にスタートするが、どうやら朴前大統領の退院はその直前の13日ないしは14日頃になりそうだ。

 仮に朴前大統領が沈黙を破り、メッセージを発信すれば、与野党有力候補が大接戦を演じている大統領選挙に与える波及効果は大きいというのが韓国政界の見方である。実際に年末から元日にかけて世論調査会社「リアルメータ」が行った調査によると、朴前大統領の恩赦が大統領選挙に与える影響について与野党のどちらの候補に票を入れようか迷っている中道層の49.5%が「影響を及ぼす」と回答していた。

 問題はそのメッセージの中身だ。

 朴前大統領を取り巻く状況は自らの失政と側近らの不祥事により韓国大統領史上初めて国会で弾劾され、任期途中で罷免された5年前と今とでは大きく変わっている。事実、出所直前に出版された「恋しさは誰にでも生まれるものではありません」というタイトルの獄中手記は現在、ベストセラーとなっている。彼女の言動に国民がいかに関心を寄せているかがわかる。逆に「蝋燭革命」で朴前大統領を政界から追放し、収監させた文在寅政権は今日では国民の期待を裏切ったことで指弾されている状況下にある。

 朴前大統領が保守層や保守の大票田である慶尚道にかなりの影響力を持った政治家であることは与野党問わず認めるところである。現大統領の文在寅候補と競った2012年12月の第18代大統領選挙では歴代大統領としては初めて50%を上回る51.55%の得票率を得て当選していた。保守の地盤である慶尚北道・大邱市ではなんと80%以上の票を得ていた。

 朴前大統領が保守派の象徴でもあり「国民の力」の前身である「セヌリ党」の前総裁であったことから尹錫悦(ユン・ソッキョル)氏を大統領候補に担ぐ「国民の力」の陣営では朴前大統領がメッセージで尹候補の最大の選挙スローガンである「政権交代」の必要性について一言触れてくれることを期待している。

 しかし、尹候補は検察官時代に朴前大統領補を逮捕し、有罪に追い込んだ責任者である。これが「アキレス腱」となり、保守層での一部には尹候補を敬遠する向きもある。政権交代を望んでいる国民が60%前後に達しているのに支持率が40%前後にとどまっていることがそのことを物語っている。

 尹候補もそうした負い目を意識してか、朴前大統領の赦免が発表されるや検察時代に朴前大統領を逮捕し、収監させたことについて「公職者としての職分によるものとしても人間的には朴前大統領には申し訳なく思っている」と謝罪の言葉を口にせざるを得なかった。従って、仮に朴前大統領が水に流すような発言をしてくれれば、保守層を結集し、勝機を決定付けることができると読んでいる。しかし、尹陣営の期待に反し、何も言わない、あるいは逆に「逮捕は不当だった」と一言でも発すれば、逆に保守の分裂を招き、朴槿恵支持派の票を失いかねない。

 朴前大統領は憲法裁判所の罷免宣告を受けて失職し、大統領官邸を去った時、側近を通じて「真実は必ず明らかになると信じている」と述べ、また、裁判では「国のための良かれとやったことだ。私自身は一銭ももらってない」と一貫して身の潔白を主張していた。

 熱狂的な支持層の間では「悲運の政治家」として同情されており、朴前大統領自身も自らをジャンヌダルクにだぶらせている。ジャンヌダルクはイングランドとの百年戦争で英雄となった女性闘士である。その後「不服従と異端」の疑いで審問に掛けられ、最後は処刑され、生涯を閉じたが、死去して25年後に無実と殉教が宣言されている。

 朴前大統領の一言が追い風となるのか、逆風となるのか、尹陣営では固唾をのんで見守っているが、朴前大統領の弾劾は当時野党だった「共に民主党」が発議し、それに朴槿恵政権の与党の一部が同調したことで成立したことから朴前大統領はどちらにも与するような発言を控え、与野党候補共に選挙戦で訴えている「国民の和合」の必要性を説くのではないかと推測される。

(参考資料:気まぐれな韓国世論 「朴槿恵恩赦」反対から一転賛成へ)

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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