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レノファ山口:ホーム最終戦を飾れず。甲府に0-1

上田真之介ライター/エディター
ホーム最終戦となった=11日、山口市(筆者撮影。この記事の他の写真も)

 J2レノファ山口FCは11月11日、維新みらいふスタジアム(山口市)でヴァンフォーレ甲府と対戦した。レノファにとっては今年のホーム最終戦となったが、充実した内容にはできず、0-1で敗れた。順位は9位に後退している。

明治安田生命J2リーグ第41節◇山口0-1甲府【得点者】甲府=ジュニオール・バホス(前半20分)【入場者数】8145人【会場】維新みらいふスタジアム

 レノファらしさとは何か。

 まだ成長途上にあるレノファにとって、必ずしもシステムやポゼッション率、シュート数などの数字でスタイルは示せない。問いかけの答えは未だに「全員でゴールに向かって行く勢いのあるサッカー」というような抽象的なものになるだろう。

 霜田監督の言葉に言い換えれば「頭で考えて戦術的にプレーして勝ちたい、上手くなりたいという気持ちが見ている人に伝わる情熱的なサッカー」(10月28日の試合後会見)、指揮を執っていた時の上野監督の言葉を引用すれば「志を持って、諦めないで最後までやりぬく」(17年1月)というものだ。

 それらに透けて見える野心がしっかりとピッチの上に投影され、レノファは多くのサポーターを巻き込んで大きくなってきた。もちろん情熱的なサッカーを見せるために、試合ごとの細かな戦術や調整があり、監督やコーチ陣はどの時代であっても苦労して鍛え、90分の発表の場に選手たちを送り出した。

 ホーム最終戦、ましてやレノファの礎を築いた上野監督を敵軍の指揮官として迎える試合であるなら、今シーズンで最も熱いサッカーをするべきだった。しかし、誰一人手を抜いていたわけではなかったが、相手をリスペクトしすぎたのか腰の引けたようなサッカーになってしまった。

 数字はスタイルを示さないとはいえ前半のシュートは3本にとどまり、得点はゼロ。「これがレノファのサッカーだ」と言える90分間は、11月17日の最終戦までお預けとなった。

先発メンバーに大崎が戻った
先発メンバーに大崎が戻った

前半は中盤勝負。堅い展開に

 レノファは前節から一人を入れ替え、大崎淳矢が5試合ぶりに先発。中盤の形にも手を加え、ワシントンと佐藤健太郎がアンカー役を担ってバランスを保ち、三幸秀稔を「ラストパスを出せる。あるいはミドルシュートを打てる。その攻撃的な力を一つ後ろではなくて、一つ前で使いたい」(霜田正浩監督)という狙いで大崎とともにトップ下に置いた。

 この変更によってできあがったのは甲府とほぼ同じシステム。あえてミラーゲームにしてマッチアップをあちこちで作り、とりわけ相手のキーマン、小塚和季からの自由の奪取を狙った。レノファとしては珍しくディフェンシブなゲームの入り方をしたと言っていいだろう。その分だけ攻撃は頭が重くなり、いつも以上のアイデアや判断が求められた。

 甲府もメンバーを変更。「フォアチェックのやりあいになる。その中でもコンパクトにして、やりあいに負けないように」(上野監督)との狙いからプレスの強さを持つ田中佑昌を先発させ、センターラインの高い位置で競わせた。

ドリブルで駆け上がる三幸秀稔(中央)
ドリブルで駆け上がる三幸秀稔(中央)

 こうした両者の形と思惑ががっちりと噛み合い、前半は中盤のつばぜり合いが長く続く堅い展開。三幸は前半16分と同27分にシュートを放つが、パサーとしては悔いの残る前半戦となり、ボールを受けたり、ペナルティーエリア内のFWに向けて出したりする場面は少なかった。前節までは佐藤が動いてボールの回収やリスク管理をしていたが、今節は佐藤を一列下げて大崎を前に出したため、佐藤や前貴之まで戻してゲームを作り出さない限りは、ボールは静止することなく動き続けた。

一瞬のミス。甲府が逃さず

 0-0で迎えたハーフタイム。霜田監督は「パスミスを減らす」「相手の裏を取るためにもっとアイデアを出そう」などと指示し、「いろいろなことで相手よりも一つ上回らないと裏を取れないという中で、自分たちのアイデアを出し、どうやって目の前の相手の裏を取れるかを考えなさい」と促した。

 後半16分には三幸のサイドチェンジからチャンスを引き寄せ、高井和馬、瀬川和樹とつないでクロスにオナイウ阿道が飛び込む。相手DFに阻まれたものの、三幸が下がってボールを受け、前半には見られなかった大きな展開でゴールを狙った。

 しかし、流れをつかみかけたタイミングで甲府によって均衡が破れた。

佐藤健太郎はバランスを見ながらパスを出した
佐藤健太郎はバランスを見ながらパスを出した

 同20分、レノファは右サイドのルーズボールを処理しようとした際に、一瞬、タッチラインを割ったとセルフジャッジして動きが止まってしまう。

 甲府はこのミスを逃さずに突いてマイボールとし、途中出場の曽根田穣は瞬間的にフリーになっていた小塚にパス。これまで厳しいマークを受けていた小塚だったが、冷静にジュニオール・バホスに流してレノファを揺さぶって好機を拡大する。バホスはGKが出てきたタイミングを逃さずに技ありのループシュート。ゴール右隅を突き、甲府が先制した。

 「取られ方が悪くて、付けていても付けていない。人がいてもオフの動きで剥がされるというのが多かった。そういうところの質はJ1にいたチーム。あのような失い方をすると不利になるのは当然」(吉満大介)。じりじりとした中盤勝負で少しずつモメンタムをつかみかけた中、レノファは自滅のような失点を食らった。

 試合終盤は長めのボールが増えるが、分があったのは甲府。レノファは後半43分、前のクロスに山下敬大が合わせてヘディングシュートを放つも右に逸れ、アディショナルタイムに高木大輔が入れたロングスローも跳ね返された。

レノファらしさを示せ

 0-1で敗れたレノファ。冒頭に述べたような、勝利への渇望を見るような情熱的なサッカーとは言いがたかった。

 けが人が多い中でのやりくりとなり、ピッチを俯瞰すれば苦渋の選択が続いていることは容易に想像できる。三幸を高い位置に置いて起点を作ろうとしたが、大崎やオナイウとのコンビネーションが深まっていたとは言えない。ボールを引き出そうとする焦りが前線にも出てバランスが崩れ、ミラーゲームにしたメリットは薄れていった。

 「パスの出し手と受け手のタイミングがなかなか合わなかった。縦に急ぎすぎたところがあるし、もう少し相手を食いつかせて、いつもやっているように剥がせれば良かったが、受け手のほうがいい形で受けられなかった」(霜田監督)。運動量でのカバーにも乏しく、課題を露呈したまま試合を終えた。

 次戦はシーズンの最終節。レノファは8位まで順位を上げるチャンスを残している。一つでも高い順位で終えることは来季につながるだろう。ただ、レノファらしく戦いきる姿勢も見せたい。数字がバロメーターではないにしても、一ケタ台のシュート数、ゼロから動かないスコアは、やはりレノファらしくはない。

 最終戦は11月17日午後2時キックオフ。敵地でアルビレックス新潟と対戦する。悔しい敗戦のあとだ。最終戦で失うものは何もない。「一つの球際、一つのゴールにこだわって、しっかり戦っていきたい」。キャプテンの三幸はそう前を向いた。

甲府・上野監督「懐かしい場所」

(上から)試合後の会見に臨んだ上野展裕監督(甲府)と霜田正浩監督。霜田監督は険しい表情で試合を振り返った
(上から)試合後の会見に臨んだ上野展裕監督(甲府)と霜田正浩監督。霜田監督は険しい表情で試合を振り返った

 相手チームの指揮官として、維新みらいふスタジアムでタクトを振った上野展裕監督。試合後、甲府担当の記者から山口での試合の感想を問われた。

 「思い出の場所で、懐かしい。山口の街も、サポーターも決して忘れませんし、忘れることはできない。勝っても負けてもベストを尽くそうと、チーム全員で戦った」。甲府に居を移して以降、山口に戻ったのは初めてで「何もかもが懐かしい」と言葉を重ねた。

 レノファらしさの礎をサポートスタッフが少なく、GKコーチさえいないときから築いてきた。クラブハウスもなく、転々とした練習場の一部は芝とも土とも言えない場所。それでもJ2まで導いただけでなく、攻撃的なサッカーの土台を築いた功績は大きい。

 霜田正浩監督と上野監督はS級ライセンス取得の同期。熱いサッカーに魅了されてきた山口の地で霜田監督がどのようなサッカーを花開かせ、ここを巣立った上野監督が希有な経験を生かして甲府をいかに再躍進させるのか。指揮官の見つめる先にも期待したい。

8千人以上のサポーターが集まり、メーンスタンドからも大きな声援が送られた
8千人以上のサポーターが集まり、メーンスタンドからも大きな声援が送られた

※大崎の「崎」は異体字(大の部分が立)が登録名

ライター/エディター

世界最小級ペンギン系記者・編集者。Jリーグ公認ファンサイト「J's GOAL」レノファ山口FC・ギラヴァンツ北九州担当(でした)。

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