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「無力でも沈黙を破る」人続出。個人の声はイスラエル・パレスチナ情勢を変えるか?「沈黙する責任」

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員
「自分は無力」けど「沈黙を破る」人がノルウェーで増加中(提供:イメージマート)

イスラエル・パレスチナの情勢を巡って、「影響力を持つインフルエンサーは声をあげるべきか」「(フォロワー数が多くない人も含む)個人が沈黙する責任」議論がノルウェーのSNSでは日増しに目立っている。

別記事「インフルエンサーの責任?イスラエル・パレスチナ沈黙派に非難」では、34万人のフォロワーがいるインフルエンサーのLinnea Løtvedtさん(23)が「私は私の声を使わない」と、「インフルエンサーには世界情勢の情報周知の義務はない」と意見したことが今も議論されている。

彼女の発言に対しては「お願いだから、せめて黙っていて」と「せっかく影響力のあるプラットフォームを持っているのに、『自分はイスラエル・パレスチナについて意見しない』と公にわざわざ周知しないで」とインフルエンサーの同僚たちからも批判する声が多い。

他国の権力者に声が届かない無力感を実感する北欧の若者

北欧では「市民と政治家の距離が近い」ので、社会問題に対する意見をSNSで政治家に投げかけたり、権力者・物事の決定者から何かしら反応をもらったり、実際に会うことはさほど難しくはない。

しかし、今回は「イスラエルのネタニヤフ首相に自分の声は届かないだろう」と「自分の無力」に落胆する人が続出している。ノルウェーではSNSを見ると、若者が多いTikTokほど「フリー・パレスチナ」を訴える人、同時に無力感や絶望という感情に葛藤する人が多い。

「『子どもの虐殺をやめて』など個人がSNSで投稿したところで、「イスラエル・パレスチナという長い対立・国際情勢に何らかの影響を与えられるのだろうか」と戸惑う声。

「でも沈黙したら、対立を傍観している欧米に加担することになる」「沈黙はイスラエルを喜ばせる」と「沈黙だけはだめだ」という声。

このような戸惑いの思いの投稿と議論が、若い人の間で日々増えている印象を筆者は受けている。

9月の党一地方選挙のオスロ市議会で最年少議員として当選した18歳のArina Aamirさん(保守党)は、インスタグラムのストーリーを更新し、これまで沈黙していた理由を語った。彼女の投稿は最近の若者のSNS投稿内容と共通点が多いので、ここで紹介したい。

「沈黙しているね」「静かだね」。ええ、私は沈黙していました。自分の力の無さを実感していたからです。いくら叫んでも、いくら言っても、イスラエルは聞く耳を持たないし、ネタニヤフ首相も聞く耳を持ちません。

ハマスのイスラエル人に対する攻撃は、非人道的でひどいものでした。しかし、イスラエルがパレスチナの民間人、子どもたち、女性たちを攻撃するのは耐え難いことです。

彼らは黙っていろと言うでしょう。彼らはあなたの声には意味がないものとしたいのです。

もし私たちが声を上げなければ、目の前で世代全体、国民全体が抹殺されるのを見ることになります。パレスチナの子どもたちが10分ごとに殺されている時に、沈黙は選択肢ではありません。

子どもたちが安全に育つためには、親が必要とされています。でも、あなたはその安全を子どもたちから奪っているのです。ええ、私は「あなた」と言っています。

私たちが不正義に立ち向かおうとしない毎秒ごとに、私たちは犯罪に加担しているのですから。今日もパレスチナの子どもたちは叫んでいます。

私たちは無視することを選んでいます。憎しみに国境はありませんが、人類はすべての憎しみに逆らうこともできます。もし人類がまだ存在するならば。

Arina Aamir @arina.aamir

イスラエル・パレスチナ情勢における「中立」「沈黙」は、イスラエルの行動を黙認し、イスラエル側に立つことだとして、「どちらかの側を選ぶ」ことを求める投稿・「中立はここではありえない」という投稿も増えている。

ひとりひとりがSNSでフラストレーションや批判を投稿したところで、「何か変わるのか」という無力感に襲われる人。

「沈黙こそが最も問題」として、ひとりひとりが声をあげることが周囲への情報周知になり、誰かを動かし、自国の政府に圧力をかけ、国際社会を動かすことになると信じて投稿を続ける人。

「今まで沈黙していたけれど、もうできない」と「沈黙を破る」投稿も増えている。

Yara Eidさんというパレスチナのジャーナリストは、インスタグラムで現地の情勢を発信しており、フォロワーに「あなたの声は現状を変えることができます」と「ひとりひとりに現状を変える力はある」と必死に語り続けている。

彼女のインスタグラムの投稿は多くの人たちにインスタグラムやTikTokでシェアされており、筆者が彼女の投稿を見ない日はない。

イスラエルは、あなたが小さく無力だと感じることを望んでいます!

あなたにはたくさんのパワーがある。

あなたにはジェノサイドを止めることができる。

あなたの投稿は重要、SNSのストーリーは重要、あなたのボイコットは重要。

これらすべては変化を起こすことができます。

私たちにはあなたが必要です。

投稿し続けてください。プロテストし続けてください。西洋メディアの嘘に立ち向かい続けてください。あなたなら変えることができます

Yara Eid @eid_yara

このように「あなたに無力さを認識させることが、イスラエルの思惑」というリマインド投稿は増加中だ。フォロワー数に関係なく、「沈黙する責任」を問い・内省し・「沈黙を破る」傾向がノルウェーのSNSでは日々高まっている。筆者も自分の沈黙や行動力は日々内省中だが、あなたはどうだろうか。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会役員

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信15年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。ノルウェー国際報道協会 理事会役員。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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