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インフルエンサーの責任?イスラエル・パレスチナ沈黙派に非難

鐙麻樹北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事
沈黙するインフルエンサーの「責任」が北欧ノルウェーで議論されている(提供:イメージマート)

イスラエル・パレスチナの武力衝突が起きるなか、ノルウェーの若いインフルエンサーたちが「影響力を持つ人の責任」について議論している。

両国の間で起きていることに「沈黙するインフルエンサー」に対して疑問の声がノルウェーで増えている。この議論が目立つのはTikTokだ。

スキンケアインフルエンサーのMikela Beckさん(27)は10万1,000人以上のフォロワーに向けて21日にこう発した。

「沈黙している人たちに失望しています。自分の特権的な生活をVlog(ビデオブログ)で投稿し、何が起こっているのかに触れようともしない人たちに失望しているという意味です」と「個人的な意見を発して誤解されるのが怖い」という人を批判した。

数日後、34万人のフォロワーがいるインフルエンサーのLinnea Løtvedtさん(23)の反論が議論に火をつけることになる。

「たくさんの人があの投稿を見たよね。私はイスラエル・パレスチナについては意識的に投稿しないことを選びました。なぜかというと情報が多すぎるから。インフルエンサーには両国の対立や政治的なことをシェアする義務があるとは思っていません。世界では他でも対立が起きている。世界で何が起きているのか情報周知をするのは私の義務ではない。私は若い人のためのニュースソースになるためにSNSを始めたわけではありません」と、何かしたいなら慈善団体へ寄付することが可能だと投稿した。

Linnea Løtvedtさんの投稿は多くの人を感情的にさせ、彼女は「魔女狩り」だと地元紙に語った。Løtvedtさんの投稿を見ると、冷笑とも受け取れる・わずかに微笑みながら話していることもあり、一部の人の怒りを増長させたのではとも筆者は感じた。

Løtvedtさんの投稿に対して「情報を整理して共有する難しさは理解できる」「誤情報に気を付けなければいけないことは理解できる」とフォローはしながらも、「でも」と、「あなたには白人の特権の自覚がない」「わざわざそれを言うために自分のその影響力あるプラットフォームを使うの?」と批判が殺到。現在はLøtvedtさんの投稿コメント欄は閉じられている。

インフルエンサーの責任について口火を切ったMikela Beckさんに対しては「溜まったフラストレーションを他のインフルエンサー攻撃に使うの?あなたの過去の投稿を見たけれど、イスラエル・パレスチナについての投稿はないじゃない」「個人攻撃」という声もある。

3万人以上のフォロワーがいるアーティストのHkeemさん(26)は「ちゃんと情報が伝えられないから」という理由でイスラエル・パレスチナの対立に意見しないインフルエンサーを「信じられない」と投稿した。

「みなさんは毎日インターネットやSNSを使っているよね。宿題やなにか分からない時、どうしてるんだ?答えが空から降ってくるのか?そもそも、なぜあなたはそのプラットフォームを使っているんだ?『何が起こっているかわからないから』『他の人に誤情報を与えるのが怖いから』という投稿を共有するためにプラットフォームを使ってるの?は?」

11万人のフォロワーがいるIda Helene Benonisenさん(25)は、北欧の政治家やインフルエンサーは沈黙派で、何か言われたら「個人攻撃だ」と思い込む傾向があると投稿している。

「『複雑で理解できないから』『どちらかの側を選ぶことはできない』と北欧の人はよく言いますね。パレスチナの子どもは毎日殺されています。北欧は沈黙してはいけません。パワーがある人は模範を示す時です。目を覚まして、政府に圧力をかけなければ。誰かを傷つけることを怖がっている時ではありません。フリーパレスチナと叫ぶ時です」

このように、多くのフォロワーを持つインフルエンサーに対して「そのプラットフォームと影響力を使って」と頼む傾向は特にTikTokで目立っている。その「圧力」に対してLøtvedtさんの投稿が今回「炎上」したわけだが、日本と比べて北欧はフォロワー数が多いインフルエンサーに対して「社会的責任」をより問う国々だ。

今までと違うのは、これまでは既存メディアが若いインフルエンサーの「責任」を問い・批判する側だったこと。しかし今回はイスラエル・パレスチナということもあり、新聞社やテレビ局の報道陣はインフルエンサーにそのような責任は恐らく期待しても求めてもいなかった。

報道陣はスルーしていたが、今回「沈黙するインフルエンサー」たちに眉をひそめたのは「若者たち」、同世代の若いフォロワーや、同じように多くのフォロワーを持つインフルエンサーやアーティストたちだった。

「それほど多くのフォロワーがいるのに、なぜその影響力を使わないの?」と理解できず、「誤情報を発信したくないから」という反論には「だったら調べて、自分を教育しなよ」となる。

何事もネットで調べて学ぶZ世代が多く、「educate yourself/oneself」という「自分を教育する」「学ぶ」傾向があるTikTokだからこそ、「わからないから」では済まないのだ。「ジェノサイドを止めることができるのは国際社会の圧力であり、全ての沈黙が現状の一因だ」という意見は、どのSNSでも北欧ユーザーの間では目立つ投稿だ。

一方で、この対立がここ数日間のTikTokのノルウェー語ユーザーの話題のひとつでもあり、「インフルエンサー同士の対立になっていることが残念だ」というような声もある。

北欧・国際比較文化ジャーナリスト|ノルウェー国際報道協会理事

あぶみあさき。オスロ在ノルウェー・フィンランド・デンマーク・スウェーデン・アイスランド情報発信16年目。写真家。上智大学フランス語学科卒、オスロ大学大学院メディア学修士課程修了(副専攻:ジェンダー平等学)。2022年 同大学院サマースクール「北欧のジェンダー平等」修了。多言語学習者/ポリグロット(8か国語)。ノルウェー政府の産業推進機関イノベーション・ノルウェーより活動実績表彰。北欧のAI倫理とガバナンス動向。著書『北欧の幸せな社会のつくり方: 10代からの政治と選挙』『ハイヒールを履かない女たち: 北欧・ジェンダー平等先進国の現場から』SNS、note @asakikiki

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