発災1週間 血栓症・エコノミークラス症候群に注意 段ボールベッド・弾性ストッキングなどが有効
「令和6年能登半島地震」発災から1週間が経過しました。この時期に問題になるのが深部静脈血栓症です。これがはがれて肺動脈に飛ぶと、肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)という病気を引き起こすため、血栓の予防策を啓発することが重要です。
肺血栓塞栓症の原因になる深部静脈血栓症
肺血栓塞栓症は「エコノミークラス症候群」という名前でよく知られていますが、エコノミークラス席でなくても、また飛行機に乗っていなくても、起こることがあります。
足の静脈にできた血栓が肺動脈という大事な血管に飛んでいき、血管が詰まって酸素の取り込みがうまくいかなくなってしまう病気です。大きな血栓が飛ぶと、心停止することもあるため災害時に注意すべき疾患の1つです(図1)。
深部静脈血栓症は、発災から2週間以内に起こりやすいとされています。避難所や車中での生活が長引いており、発症に注意が必要な時期です。
深部静脈血栓症の症状は?
深部静脈血栓ができると、片側の脚や太ももが腫れたり痛くなったりします。足関節を背屈させると、ふくらはぎや膝の裏に痛みが出ることがあります(ホーマンズ徴候)。ただし高齢者の場合、症状が出にくく気付かれないことがあります。
肺血栓塞栓症(エコノミークラス症候群)を発症すると、突然の胸の痛みや呼吸困難などが起こりますが、十分に検査ができない環境では早期診断が難しいかもしれません。
足の静脈に血栓ができやすいのは、高齢者、肥満、妊婦、その他基礎疾患がある方です(図2)。
特に、「血をサラサラにするお薬」を服用していたものの、被災してから飲んでいない人は注意が必要です。
また、被災地で問題になるのは、極力トイレに行かなくて済むよう水分摂取を控えている方や、感染症にかかって発熱して脱水になっている方です。血液がドロドロになって、血栓ができやすくなります。
深部静脈血栓症の予防
弾性ストッキングを装着すると血栓ができにくくなります。「ストッキング」という名称のため女性が対象と思われたり、「弾性」を「男性」と勘違いして男性が対象と思われたりしますが、男女問わず使用できる血栓予防の靴下です。
また、上述したように脱水が血栓のリスクになるため、こまめに水分を摂取することが重要です(図3)。
避難所生活で運動量が減ることも血栓のリスクになるので、歩行や足首の運動をこまめに行うよう心がけてください(図4)。
過去の震災経験から、「車中泊」が深部静脈血栓症の大きなリスクになることが分かっています。やむを得ず車中泊を選んだ方もいると思いますが、意識的に足を動かすようにしてください。
その他、段ボールベッドが有効であることが分かっています(図5)。欧米は、発災早期に簡易ベッドが準備される仕組みがあるため、災害後の深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症は日本ほど多くありません。
たとえ毛布を使っても、ひんやりした床に横になることで、全身の血流が悪くなり、血栓ができやすくなります。コストも高くない段ボールベッドはこの解決策になりますが、日本ではまだ普及が進んでいないのが現状です。
まとめ
発災から1週間が経過し、避難所で問題となってくるのは、深部静脈血栓症だけではありません。
インフルエンザ・新型コロナ・ウイルス性腸炎などの感染症、低体温、精神的ストレスなどさまざまな問題があります。
公的避難所のいくつかは損壊によって受け入れを停止していることから、すでに飽和状態にある避難所の救済が急務です。
(参考)
エコノミークラス症候群予防・検診支援会(URL:https://sites.google.com/view/kenshin-shienkai/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0)