サウジアラビアへのTHAAD売却成立、7個高射隊分で総額1兆7千億円
11月28日、サウジアラビアへのアメリカ製弾道ミサイル防衛システム「THAAD」の売却が成立しました。総額150億ドル(1兆7千億円)、レーダー7基とランチャー44基、ミサイル360発などで7個高射隊を構成できる数です。1年前にDSCA(アメリカ国防安全保障協力局)が通告していた通りの内容で契約が成立しました。なおTHAAD7個高射隊という数は日本全土を防空する想定の場合にも必要になる数なので、日本が導入予定のイージスアショア2基と費用を比較するのにちょうどよい契約内容です。
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サウジアラビアが敢えて費用が高額なTHAADを選び日本がイージスアショアを選んだのは両国の置かれた環境の違いが大きいと言えます。日本は北朝鮮の準中距離弾道弾を警戒すればいいのですが、サウジアラビアは仮想敵イランから準中距離弾道弾だけでなく短距離弾道弾も迎撃する必要があり、短距離弾道弾を相手にするならイージスアショアのSM-3迎撃ミサイルよりも低い高度で弾頭が機動可能なTHAADの方が適しています。また日本はイージス艦を8隻配備する予定でイージスアショア2基は数的に補佐の役目であるのに対して、サウジアラビアはイージス艦を1隻も保有していません。日本はたとえイージスアショアが2基とも開戦初頭にテロ攻撃で潰されても洋上に居るイージス艦8隻が残りますが、サウジアラビアには無いのです。ゆえにサウジアラビアはTHAAD7個高射隊で敵から攻撃を受けるリスクを数的に分散させる必要性が高かったのだろうと考えられます。
現在サウジアラビアは政府に批判的な自国記者を暗殺した事件で世界的な非難を浴びており、ドイツやデンマークなどはサウジアラビアへの兵器輸出を凍結しています。一方でアメリカやフランスは兵器輸出を継続し、記者暗殺を人道問題として非難する国々の間でも対応が分かれています。その中でアメリカのTHAAD売却は150億ドルもの超大型案件であり、国際社会や国内議会からもトランプ政権は非難を免れません。
アメリカがサウジアラビアを非難しながらも兵器輸出を続けるのは、兵器を売って儲けたいという理由だけでなく中東での影響力を確保し続けたいという動機があります。というのもサウジアラビアは全世界からありとあらゆる種類の兵器を購入しており、もしもアメリカが売らなければ人道問題を気にしないロシアや中国から買えばよいという態度を普段から隠していません。そうなればアメリカの影響力が弱まりロシアと中国が影響力を強めます。今もサウジアラビアはロシアからS400地対空ミサイルシステムを購入する計画を進めていますが、アメリカからPAC-3とTHAADを購入しつつロシアからS400も買うという、同じような用途の兵器を違う国から別々に購入する行為は軍事的には無駄が多く、整備と補給が複雑化し費用が嵩みます。これはコレクションのつもりで買い漁ってるのではなく、今のような政治状況に陥っても干渉してくる相手国を牽制できるようにサウジアラビアが計画的に行ってきた行為であると言えます。