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日本配備総額見積もり比較:イージスアショア6千億円・THAAD1兆7千億円

JSF軍事/生き物ライター
防衛省よりSM-3ブロック2A

 これまでイージスアショアは1基あたり1000億円、2基合計2000億円と見積もられてきました。しかし最近になって各メディアの報道で新たな見積もりが報じられ、2基総額4000~6000億円といった数字が出て来ています。実は最初の見積もりはレーダーと管制システムのみの値段であり、ミサイル弾薬代が入っていなかったのです。つまり急に計画のコストが膨れ上がったわけではなく、政府や防衛省にとって最初から想定内の総額のコストが報じられ始めた、という図式になります。

 SM-3ブロック2Aは1発40億円もする非常に高価な宇宙空間迎撃ミサイルです。日本配備のイージスアショアがどれだけの数の迎撃ミサイルを搭載するかはまだ決まっていませんが、欧州イージスアショアが1基あたり8連装垂直ランチャー×3で24発を搭載している例をそのまま当てはめると、2基合計48発で1920億円の弾薬代が掛かります。つまりミサイル弾薬代だけでレーダー管制システムと同じくらいの高額な費用が掛かるので、増えたように見えるのは大部分がミサイル弾薬代ということになります。

 最初の見積もりは従来型SPY-1レーダーを想定していたものなので、最新鋭レーダーのSPY-6ないしSSRを選択して仮に3割ほど高額になったとしたらレーダー管制システム分の費用が2基合計2600億円となり、これにミサイル弾薬代を足すと4520億円。さらに巡航ミサイル迎撃用のSM-6対空ミサイルや周辺施設の整備費用などを加えていくと、容易に5000億円を超える総額になると予想できます。

 このミサイル弾薬代込みの総額を見て「イージスアショアではなくTHAADを選択していた方がよかったのではないか」という声が一部から出ていますが、実際には総額で見てもTHAADの方がより高額になります。例えばサウジアラビア向けTHAADは総額150億ドル(約1兆7000億円)。大まかな内訳はレーダー7基、ランチャー44基、ミサイル360発。7個高射隊分を編成できる数です。 Defense Security Cooperation Agency - USA.gov

THAAD防護範囲半径200km
THAAD防護範囲半径200km

 この7個高射隊という数はサウジアラビアの主要都市を防護するために用意される数ですが、THAADの防護範囲200kmとして日本列島に配置するとちょうどほぼ全て覆える数でもあります。実際の防護範囲は真円ではないので参考程度になりますが、THAADで日本全国を防空するつもりならばサウジアラビア同様に総額1兆7000億円は必要になるでしょう。つまり現在見積もられているイージスアショア2基の総額見積もり最大6000億円の更に3倍も必要になります。

 なおイージスアショアがSM-3ブロック2A迎撃ミサイル合計48発、THAADが360発とミサイル本数に大きな開きがありますが、SM-3ブロック2Aは1000kmを超える長大な射程を持ち、秋田県と山口県のどちらの配置からでも余裕をもって東京の防空が可能です。一方THAADはこの図の配置では東京を守れるのは1個高射隊(8連装ランチャー×6基)のみとなり、使えるミサイルは同じ48発となります。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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